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 ロングテール型ビジネスの誕生を支える3つの追い風の一つ、「需要と供給のマッチング促進者の発展」は、ややもするとグーグルやアマゾン、イーベイなど超大手のマッチング&アグリゲーターへの富の一極集中、独占を招く、という指摘に傾きがちである。しかし、その一方で非常に小口で多様化した需要を小口のまま供給すること(仮にマイクロマッチングと呼ぼう)を、比較的小規模のサイトが仲介役となって担う例が出てきている。

有料モデルのマイクロマッチング「たのみこむ」

 有料のモデルでこのマイクロマッチングを行なう代表例が限定受注生産サイト「たのみこむ:tanomi.com」(株式会社エンジン。株式会社ウェッジホールディングスの完全子会社)である。2004年時点で二十数万人の会員がいるとされる。個人会員が、こういった商品があれば、と比較的ニッチなニーズを提案するリクエストボードと、事業会員側がテーマに沿ってアイデア募集を行なう機能が設けられている。主たる収益源は事業会員が新企画商品を売り込む際の月額定額料と、商品が実際に生産販売された場合のロイヤリティ収入ということである。

 このサイトでは、事業会員の「150名くらいの方の御支持を頂くことが製品化実現の目標となります。ご声援よろしくお願いいたします!」(『USB電光掲示板』の例)といったコメントからもわかるように、大変小さな市場規模でのマッチングが頻繁に発生している。現在、たのみこむサイトの「只今到着、開発・生産状況報告」に掲載されている商品案としては、PC用USB電光掲示板、車載用ミニバイク、スライド式携帯手首アダプターなどがある。

 どれも爆発的に大量消費されるタイプの製品ではなさそうだが、確実にニッチ市場には訴求し、数百個は売れると見込んでの商品開発が進んでいると考えられる。その背景にはその生産規模で採算が取れる試作費用、固定費構造が存在していることになる。

 似たようなサイトに「空想生活」というサイトがあるが、こちらは支援事業者が大手企業の場合が多く、本稿で言うマイクロマッチングとは少々領域が異なる。また特定製品領域に特化したものとしては、化粧品専門の口コミサイトである「アットコスメ」(株式会社アイスタイル)がある。この事業の一部に、口コミをベースにしたオリジナル商品企画開発機能があり、その部分は「たのみこむ」と似たコンセプトといえる。

アイデアそのものを売買対象に

 ユーザーのアイデアそのものを売買の対象にする有料モデルも存在する。株式会社スパークシードの主催する「パッとひらめ木Market」では、個人会員(登録無料)が商品アイデアを投稿し、事業会員が月額固定料を支払ってアイデアのリストを閲覧するシステムである。個人会員は事業会員の評点が一定以上になると、報酬(現金)が得られる。

 上記「パッとひらめ木」の原型ともいえる全国的に知られた存在が、福井商工会議所主催の「苦情クレーム博覧会」である。毎年ネット上で商品や潜在ニーズに関する苦情・クレームを募集し、2003年から期間限定(2007年は10月19・20日二日間)で毎年苦情博覧会を実施している。入場者は1000円を支払い、良いと思ったアイデアに100円/件を「投票」し、アイデアの提供者は投じられた金額を賞金として受け取る仕組みである。

 同博覧会では、今年までに約3万件近いアイデアが蓄積され、過去の苦情データベースには無料でアクセスが可能である。その中からは、「雨が降った時の電車内などで、傘の水滴で服や靴がぬれて困る」という苦情をもとに開発された、濡れない傘がヒット商品となった。福井洋傘株式会社によって製造販売され、一振りしただけで水滴が完全に落ち、瞬間的に乾いた状態になる。トヨタレクサスのオリジナルアイテムにも採用され、2、3ヶ月の予約待ちになるほどの売れ行きだという。

 自治体主導の他の試みとしては、横浜市も「消費者の声・アイデア展」として同様の事業を始めており、こちらの場合、アイデア提供者への賞金は図書券で支払われる。

かつてコスト上不可能だった活動が現実に

 さて、こうしたマイクロマッチング(ロングテール部分)が消費財の総売上に占める比率はいまだきわめて小さいはずだ。しかし、かつてはコスト上物理的に不可能だった活動が現実に身を結んでいるのも事実である。

 前回に述べたチョイスボードなど、大手企業によるマイクロカスタマイズへの配慮や、今回のマイクロマッチングが、既存の大ヒット・大量生産・大量消費型の製品領域にどの程度影響を与えるのだろうか。純粋にウェブ上で閉じた世界では既に当たり前となったロングテール上の世界が、リアルの消費財ビジネスの世界でどこまで実現されるのか、今後とも注視すべきであろう。