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 会津大学をご存知ですか? 1993年に設立された日本初のコンピュータ専門の大学です。私は、縁あって、同大学の1年生全員を対象とした特別授業で講演させていただくことになりました。現場流の情報工学を話してほしいというリクエストなので、拙著『情報はなぜビットなのか』(日経BP社刊)を題材にしました。本題に入る前にマクラとして「技術と上手に付き合うための7か条」という持ちネタを披露しました。マクラの部分だけWeb上で再現させていただきます。

 皆さんは、大学で様々な技術を学びます。「覚えることが多過ぎて、この先やって行けるかどうか心配だ」と不安を感じている人もいるでしょう。そんな人のために、私がいいことをお教えします。「技術と上手に付き合うための7か条」です。これは、何かの教科書に書いてあることではありません。私が、経験上つかんだ秘訣集です。7か条を順番に説明しましょう。

 まず、第一条「技術の分野を知り、分野ごとに基礎から学ぶ」です。皆さんは、コンピュータ専門の大学に入りました。4年間で、どのようなことを学ぶがわかってますね。もしも、よく覚えてないという人がいたら、もう一度カリキュラムをよく見てください。この大学のカリキュラムは、コンピュータ技術の分野を整理した地図だと言えます。1年生で基礎から始め、学年を経るごとに徐々に実践的な技術に進んで行きます。全体のカリキュラムにおける位置付けを理解した上で、個々の授業を履修してください。「必修科目だから履修する」という受身の姿勢ではいけません。自ら「こういうことを学ぶんだ」という意識を持って勉強するのです。そうすれば、授業が、より一層楽しくなりますよ。

 次に、第二条「略語は、略語のままでなく、何の略なのか調べて覚える」です。コンピュータの世界では、様々な略語が飛び交っていますね。略語は、そのままでは覚え難いものですが、何の略なのか調べれば覚えやすくなります。たとえば、メモリの種類には、読み書きが可能な「RAM」と、読み出ししかできない「ROM」があります。RAMとROMを略語のままで覚えたのでは、どっちがどっちなのか、わからなくなってしまうでしょう。

 RAMがRandom Access Memoryの略であり、ROMがRead Only Memoryの略であることを調べておけば、混乱することはありません。コンピュータ用語には、難しい言葉はほとんど使われません。一般的な言葉の略語になっているので、すぐに覚えられるはずです。ただし、「すべての略語を一気に覚えるぞ!」などと思わないでください。それは、無理なことです。新しい略語に遭遇するたびに、何の略か調べる習慣を持てばよいのです。

 今度は、第三条「1つの事物に、複数の呼び名があることを納得する」です。私は、IT企業の新人研修で講師をした際に、RAMとROMの説明をしたことがあります。そのとき使用していた教材では、RAMのことをRWM(Read Write Memory)という名称で示していました。それを見た受講者は、私に「先生、RAMとRWMのどちらが正式名称ですか?」と質問しました。

 正式名称は、ありません。どちらも同じものを指す名称です。RAMとRWMのように、コンピュータの世界では、同じ事物が複数の呼び名を持つことがよくあります。そういうものなんだと納得してください。納得できたなら、誰かと話をしているときに知らない用語が出てきたら「知らない」と言うことを恐れないでください。堂々と「それ何のこと」と聞いても、決して恥ずかしいことではありません。よくよく聞いてみたら、自分が知っていることを違う名称で呼んでいるだけだった、ということがよくあります。

 それでは、第四条「同じ目的で複数の技術がある場合は、それぞれの長所と短所に注目する(そうすれば見えてくる)」です。これは、技術を理解する上で、ものすごく重要なことです。たとえば、メモリの一種であるRAMは、さらにSRAMとDRAMに分類されます。SRAMとDRAMがどのような仕組みになっているか、教科書で長々と説明されていることでしょう。その説明がなかなか頭に入らないという人は、ちょっと冷静になって考えてみてください。

 同じRAM(読み書き可能なメモリ)という目的のために、SRAMとDRAMが紹介されているのですよ。それなら、それぞれに長所と短所があるはずです。なぜなら、もしもどちらかが一方的に優れているなら、他方には紹介する価値がないからです。SRAMの長所は速いことで、短所は高いことです。DRAMの長所は安いことで、短所は遅いことです。長々とした技術の説明を覚えるのが苦手と言う人は、真っ先に「長所/短所」に注目してください。それによって技術が見えてきます。

 短所と長所がわかったら、現場でどのように使われているかも知りましょう。当たり前のことですが、それぞれの長所を活かした使い方をされています。SRAMの長所とDRAMの長所を組み合わせた仕組みとして、「キャッシュメモリ」があります。キャッシュメモリがどのようなものかは、皆さん自身で調べてください。これは宿題です。

 どんどん行きましょう。第五条「新しい技術は、1つ前の技術のどんな問題点を改善しているかに注目する(そうすれば見えてくる)」です。皆さんが、IT企業に入社すると、先輩に連れられて展示会に行くことがあるでしょう。先輩は、優しい愛のムチとして「おい新人、あのブースで新製品の特徴を聞いて来い!」なんて言います。何もわからない新人ですから、何も質問できそうにありません。困りました。どうしましょう?

 心配は、いりません。ここでも、冷静になって考えてみましょう。新製品が登場したということは、旧製品の問題を解決しているはずです。それが何なのか、新人でも質問できるはずです。新製品の改善点が自分の仕事にメリットのあることなら、詳しく調べましょう。そうでないなら、気にする必要はありません。

 コンピュータの世界では、続々と新技術が考案され続けています。「もう着いて行けない」と思うことがあったら、冷静になりましょう。そりゃ、個々の新技術を深く理解しようとしたら、誰だって着いて行けませんよ。そうではなく、新技術に触れたら、まず1つ前の技術の何を改善しているかに注目するのです。それによって、自分にとって重要な技術とそれほどでもない技術を取捨選択して行けば、上手に付き合って行けます。

 オヤジの小言のようは話は、もう少しで終わりますので、ガマンして聞いてください。第六条「市場を作るためのキャッチフレーズ的な用語に惑わされない(基礎技術と混同しない)」です。大学では、重要な基礎技術用語ばかり教わると思いますが、社会に出ると、市場を作るためのキャッチフレーズ的な用語に触れることが多くなります。このような用語は、見かけ上は基礎技術用語のように思えることがあるので、混同しないように注意してください。

 たとえば、FFTとFTTHという用語は、どうでしょう。どちらも見かけ上は、立派な基礎技術用語のように思えますね。FFTは確かに基礎技術用語ですが、FTTHはキャッチフレーズです。FTTHという技術があるわけではありません。

 それでは、最近話題の用語であるWeb2.0は、基礎技術用語とキャッチフレーズのどちらでしょう。この大学の書店にも、Web2.0の本がたくさんありましたね。さて君は、どう思うかな...「キャッチフレーズ」、それでは君は...「基礎語術用語とキャッチフレーズの中間」なかなかいい意見だね。それでは、これに関しては、友達どうして大いに議論して結論を出してください。宿題です。

 ここで、誤解しないでほしいのですが、私は、キャッチフレーズ的な用語が悪いと言っているのではありません。市場を作ることは、ビジネスとしてとても重要です。

 いよいよ最後の第七条「技術の本質を見抜き、自分流の結論が出るまでこだわる」です。本質って何だかわかりますか? 本質には2つの視点があります。「どういう仕組みになっているのか」と「なんの役に立つか」です。この両方に対して、自分流の結論を出してください。大学生になったのですから、何事にも自分で結論を出してくださいね。大学の勉強は、高校までの勉強と違って、正解/不正解がハッキリするものばかりではありません。自分で答えを出すのです。自分の答えは、はたして正しいのだろうか? 心配になって当然です。そんなときは、お友達や先生と、大いに議論してください。議論することで、自分の結論に磨きがかかるからです。

 エンジニアは、経済活動家であって、学者ではありません。エンジニアは、技術を社会の役に立てて、その対価を頂戴するのです。自分なりに技術の本質を見抜かなければ、技術を社会に役立てられないでしょう。学生時代は「仕組み > 用途」でOKですが、社会に出たら圧倒的に「用途 > 仕組み」で技術を見ることになります。いずれにしても、どちらか一方だけではいけません。

 学生時代は、仕組みだけに重点を置いてしまうものです。お客さんを相手にしてないから当然でしょう。しかし、学生であっても、仕組みだけでなく、用途に注目することも忘れないでください。仕組みと用途がわかれば、技術の本質が見えてきます。とことんこだわってください。こだわればこだわるほど、勉強が楽しくなります。皆さんが、社会に出てエンジニアとなる日を楽しみにお待ちしております!