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写真1 東福寺の紅葉
写真1 東福寺の紅葉
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写真2 林の中から見上げた紅葉はミクロな美しさ
写真2 林の中から見上げた紅葉はミクロな美しさ
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 11月最後の週末,金曜日に休みを取って金・土と京都へ紅葉狩りに出かけた。京都では毎年春に研究会をやっているため花見はするのだが,秋に来るのは十数年ぶりだった。いつも研究会仲間とばかり来るので,たまには嫁さんも連れて来ようと二人で出かけた。ふだんの行いが決していいわけではないのだが,いつもの如く晴れ男で,前日まですっきりしなかった空は二日とも好天で,私たちが帰ったあとの日曜日は雨だった。

 東山の清水寺や高台寺,嵐山などを歩いたがどこもちょうど見ごろだった。桜の季節よりはるかに人が多く,とりわけ東福寺は文字通り人があふれていた。 

 紅葉は見方によって美しさが違う。東福寺の回廊から見下ろす紅葉(写真1)は鮮やかな赤が海のように広がる,マクロな美しさだ。対して,林の中に入って下から見る紅葉は強い日差しに一枚一枚の葉が透き通るミクロな美しさだ(写真2)。仕事においても上から見たり下から見たり,マクロに見たりミクロに見たりと,違ったものの見方を求められる仕事がある。コンサルティングだ。今回はコンサルティングの意味や考え方について述べたい。

提案とコンサルティングは何が違うのですか?


 ボーナスの支給日が迫ると、社員一人一人に業績評価の結果とその理由を説明する。そしていろいろと会話する。その中で今年入社したばかりの新人が面白い質問をした。「提案書を作成するのと,コンサルティングの報告書を書くのはどう違うのですか?」。新入社員や技術的に素人のお客様の発言は,ハッとするようなアイデアがひらめいたり,それまで気づかなかった大事なことに気づくきっかけになることがよくある。彼は現在進行中のコンサルティング・プロジェクトの一員だ。チームは5名だが,提案書作成や設計の経験は豊富でもコンサルティングは初めてというメンバーが多い。彼と同様に提案や設計とコンサルティングの違いが分かっていない人が多いだろうな,ということに気づかせてくれた。私にとっては身にしみて分かっていることなので間髪入れず即答した。

 「提案というのはお客様がやりたいことが分かっており,それがRFP(提案要請書:Request for Proposal)に書かれている。その最適な実現方法を書くのが提案書。コンサルティングではお客様は大きな目的は分かっていても,具体的に何をやればいいか分かっていない。何をやるべきかから検討し,その基本的な実現方式まで比較検討して提示するのがコンサルティングなんだ」

コンサルティングの二つの価値


 新人君との面談の翌日,コンサルティング・チームのミーティングをした。ミーティングは3日に1回くらいのペースでやっている。検討内容のベクトルを合わせたり,書きあがったドキュメントの中身やまとめ方のレビューをするためだ。こまめにミーティングをしてメンバーの意識統一や情報の共有をしないと良いアウトプットはできない。

 この日は冒頭で提案とコンサルティングの違いを改めて説明した。加えて二つのアドバイスをした。まず,クライアントから見てコンサルティングには二種類の価値があるということだ。一つはクライアントには思いつかない視点やアイデアが入っていること。これは有償でコンサルティングをやる以上,必ず入ってなければならない目玉というべき価値の高いものだ。設計の経験は豊富だがコンサルティングの経験が浅い人がよく犯す間違いがある。「どうしましょうか?(何をしましょうか?)」とクライアントに質問するのだ。「お客様がこう言ったので,そのとおりに書きました」。クライアントの言うとおりにするのなら、クライアントはわざわざコンサルティングを頼んだりしない。「これをやるべきです」「こうすべきです」というアイデアが欲しいからコンサルティングを依頼しているのだ。  

 コンサルティングのもう一つの価値は,事実やデータを調べ,まとめることだ。これはクライアント自身で出来る。しかし,日常業務に忙しいクライアントに代わって調査分析することは「時間と手間の節約」という価値がある。付加価値は高くないが,これもクライアントに喜ばれることだ。この二種類の価値のどちらも入ってないドキュメントは価値がない。たとえば,市販のテキストに書いてあるような技術の解説を書いても無意味なのだ。

 もう一つのアドバイスは「重箱の隅に入らないこと」。これも設計経験が豊富な人ほど陥りやすい間違いだ。コンサルティングは何をやるべきか,どうやるべきかを検討するのが目的だが,設計ではないのでHow toの詳細化は必要ない。しかし,設計の得意な人はどんどん具体的で詳細な検討に入ろうとする。その方が仕事として慣れており,やりやすいからだ。でも,クライアントは重箱の隅の細かな仕様を決めてほしいのではない。3日に1度のミーティングはそんな隅っこに行きそうなところを軌道修正するのも目的の一つだ。

視点を変えて考える


 実はこの原稿を書いている12月は,毎年忙しい。情報化研究会の東京でのオフ会を12月にすることにしているので,自分の話す講演の内容を考えねばならない。そして,年明けの2月に開催されるNET&COMの講演内容も考える。講演スライドは1月中旬に事務局に提出するので時間的余裕は少ない。私はNET&COMの講演をその年に取り組むネットワーク・ビジネスのコンセプトのお披露目の場にしている。 

 講演のコンセプトを作成するのは,コンサルティングの仕事と同じだ。お客様に何を提案するか、コンセプトだけでなく具体的なイメージまでブレークダウンする。来年のテーマは「5つの『vs』で考えるNGN時代の企業ネットワーク」と決めている。テーマは11月初めに決めたのだのが,魂(コンセプト)を入れて具体的イメージを作るには1月までかかる。

 新しいコンセプトは漠然と自分の頭の中にある。ポイントはNGN(Next Generation Network)をどうとらえるか,だ。今年2月のNET&COMでもNGNについて話した。来年はさらに発展させた内容にせねばならない。今年と違う,新しい視点やアイデアが必要だ。

 新しいコンセプトを作る作業は自分の頭の中だけで考えていても,なかなか進まない。紅葉なら歩いて視点を変えることで,上からも下からも,マクロにもミクロにも簡単に見ることが出来る。コンセプト作りで視点を変えるには,自分と違う考えを持った人たちと会話するのが効果的だ。企業ユーザーから現在のネットワークの課題をヒアリングしたり,NGN向けの製品を開発しているメーカーや実際のサービスを検討している通信事業者から説明を受けたり,ディスカッションしたりする。各社,各人でNGNに対する視点や考え方は違う。それが自分のコンセプトを作り直す上で役に立つ。

「NGN」という名前をはずしてみる


 NGNに対する欧米の動きやメーカー各社の動きなど,いろいろな情報を自分の頭にインプットすることで,自分自身の新しいコンセプトが見えてきた。それをここに書いてしまうと来年のNET&COMの種明かしになってしまうので,書かない。 

 ただし,視点を変えるという意味で簡単な思考実験をしたので紹介する。「NGN」という名前をはずして,中身だけ見たらどう見えるだろうという実験だ。NGNは国によっても,固定系電話業者,携帯電話業者,放送業者などの立場の違いによっても,いろいろな見方があり定義は一様ではない。だが,名前をはずして中身を見ると,共通して入っているのは(1)IPで音声系、データ系、映像系、モバイル系のネットワークを統合,(2)QoS,セキュリティの確保されたネットワーク,(3)トランスポート層とサービス制御層を分離し,多様なアクセス網,アプリケーションへの対応を容易化--の三つだ。

 名前をはずしてみて分かったこと。「NGNなんて,今でもたくさん動いている。Next Generation Networkではなく,Now Generation Networkだ」。通信業者が今から始めようとしていることにNGNという名前をつけているだけなのだ。上記の三つを満たすネットワークなど,別にめずらしくはない。
 私のNET&COM2007での講演は「NGNなんて,今既にある」というところから出発する。

 「名前」というのは力がある。ブランド,レッテル,ラベル,いろんな呼び方があるが,名前は「NGNは先進的ですごいものだ」といった先入観を簡単に作ってしまう。名前をはずして,実質を見るというのはいつでも効果的な「視点の変え方」だ。

松葉のにしんそば


 京都の一日目,夕食は宿で取ることが決まっているのだが,昼食をどうしようと考えた。軽くて京都らしいもの,というので思いついたのが松葉のにしんそばだ。にしんそばは名前のとおり甘辛い味で固く煮付けたにしんが,そばの上にど~んという感じでのっている。かつおだしのよく効いたつゆと,にしんの身が口の中でぽろぽろくずれる独特の食感が好きだ。松葉はにしんそばの元祖で四条大橋東詰め,南座のとなりにある。