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 前回に続き訴訟の話である。ヒットチャートでおなじみのオリコンが,フリージャーナリストの烏賀陽(うがや)弘道氏を損害賠償で訴えたという。請求額は5000万円。個人で払える金額ではない。いや,私の勤務先でも払えないかもしれない。親会社に泣きついたら払ってくれるだろうか?

 経緯は,音楽ジャーナリストの津田大介氏のブログ「音楽配信メモ」が最も詳しい。問題となった記事は,サイゾー2006年4月号に掲載された。ただし,烏賀陽氏本人が書いたものではなく,編集部が烏賀陽に電話取材をしたものだという。ところが,編集部は訴訟対象ではないらしい。これでは「うるさい奴を黙らせるための訴訟」と言われても仕方ない。オリコンとともに揶揄されていたジャニーズ事務所がけしかけた可能性があると思っている人もいるようだ。

 さて,ヒットチャート界の巨人がオリコンなら,ソフトウェア業界の巨人はマイクロソフトである。マイクロソフトがこういう訴訟を仕掛けたことがあっただろうか。すぐ思い出すのは,「みかん星人事件」である。

 しかし,この問題を突き詰めると「気に入らない記事があったから広告を引き揚げた」というだけの話である(出版社である技術評論社の取引をすべて停止したという噂もある)。もちろん,これは大きな「圧力」であるが,中村氏個人を訴えたわけではない。出版社にとっては大変な問題だっただろうが,広告主が雑誌媒体から広告撤退をちらつかせて脅すのは,程度の差はあってもごく普通の習慣だ。あまりほめられた習慣ではないが,そういうものだ。あのときのマイクロソフトの対応は,かなり混乱していて,傍目にもおかしかったが,対応の基本方針自体はそれほど珍しいこととは思えない。実際,中村氏のWebサイトには「マイクロソフトの言論弾圧とやりすぎの事例」として,いくつかの事例が紹介されているが,この程度の事例はどこの会社でもふつうにある。業界では紳士的な会社として知られていた旧DEC(ディジタルイクイップメント)でも,これくらいの「努力」はあった。かつての営業担当者向け社内報「Competitive Update」をお見せしたいくらいである。

 話をオリコンに戻す。気に入らない記事が出た場合の一般的な対応としては,雑誌から広告を引き揚げると脅すわけだが,きっとサイゾーには広告を出していなかったのだろう。ジャニーズ事務所なら,事務所のタレントの写真使用禁止という方法もあったのだろうが,「オリコンチャート引用禁止」では迫力がない。それで裁判という方法に出たのだろうか。しかし,繰り返すが編集部でも出版社でもなく,電話取材の相手というのが恐ろしい。たとえば,私は過去に日経BP社の取材を何度か受けている。日経BP社は,新聞社系の常として,取材記事の校正は見せてもらえない。どんな記事になるか発売日まで分からないのである。これで訴えられてはかなわない。

 現在のところ,マイクロソフトを批判して訴えられたという話は聞かない。残念ながら,海外ではあったようだ。相手は政府高官であるが(CNETのブログITmediaの記事)個人相手の訴訟であることは変わらない(結果はどうなったのだろう?)。今後は,こうした訴訟が起きないことを祈る。

12/20追記

 オリコンからも正式なコメントが掲載された。トラックバックも受け付けているが。現時点では好意的なものはないようだ。

 また,サイゾー編集部では「なぜ編集部が訴えられないか違和感を拭えない」としている。