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 「携帯電話のようなビジネスモデルも考えられる」。NECの小林一彦執行役員専務はシンクライアントを活用したアウトソーシング事業を提案する。極論すれば、ハードウエアを無償配布しても運用管理やセキュリティ対策などのサービスで十分な収益を確保できるとし、NECは企業ユーザーに加えて、データセンター事業者に売り込む。

 小林氏は数年前からシンクライアントに関心を持ち始めた。オラクルやサンなどがシンクライアント市場に参入したものの、ものにならなっていない。だが、シンクライアントの普及を妨げている動画や音声などのマルチメディア処理と高価格の二つの課題を解決できれば、「ビジネスパソコンの70~80%はシンクライアントに置き換えられる」(同)と読み、3年前にシンクライアントの開発に着手した。

 ところが、社内から反対の声が上がった。国内トップシェアのパソコンに影響を及ぼすことを懸念したからだ。「それに甘んじてシンクライアントを売らないのか。ビジネスパソコンかシンクライアントかを選択するのは顧客」と小林氏は説いた。

 NECは年間約150万台のビジネスパソコンを販売しているが、企業ユーザーはセキュリティ対策やパソコン管理に頭を悩ませている事実がある。ノートPCの置き忘れなどによる個人情報などの情報漏洩事故は後を絶たない。こうした中で個人情報保護法に加えて、日本版SOX法(企業改革法)が施行されれば、パソコン管理の重要性はますます高まるだろう。

 だが、数万台、数千台のパソコンを社内に装備する企業のIT部門だけで1台1台のパソコンを管理するのは至難の業。IT部門はその解決法を探し求めているが、安価になったパソコンでそのニーズに完全には応えられない。NECの試算によると、ビジネスパソコン1台が10万円としても、セキュリティ対策やソフトのアップデート、組織変更による設定変更などの管理コストに3年間で71万円がかかる。それをシンクライアントに切り替えれば、ハードを含めた全体で49万円とコストを40%削減できるという。

 いつでもどこからでもデータにアクセスするには会社に、家庭に、持ち運び用にと、これまでなら3台のパソコンを必要とした。どのパソコンにも同じソフトをインストールするので、ライセンス料も3倍になる。他人が使っているパソコンを使うことはできないし、HDDに入っているデータを別のところから取り出せない。小林氏によると、仮想PC環境方式を採用したシンクライアントは、こうした課題をすべて解決できる。

数千億円の売り上げを期待

 NECは今後、3年間で1500億円のシンクライアントによるビジネスを考えているが、小林氏はそれを遥かに上回る数字を期待している。根拠は、ビジネスパソコンは全世界で年間5000万台売れているが、そのうち4000万台がシンクライアントになれば、6兆円(1台当たり15万円の場合)の市場規模になる。市場の5%を獲得すれば3000億円になる。10%になれば、現在のパソコンの売り上げに近づく。しかも、数十億円のパソコンの収益を超す可能性もある。

 調査会社IDCなどは、シンクライアント市場はビジネスパソコンの5~10%と予測しているが、小林氏は「市場はもっと大きくなるはずだ」と見込み、業種別営業にシンクライアントの担当者を配置し、一気に売りまくる作戦を練っている。その作戦の一環からサーバー1台とシンクライアント20台のセット商品(価格は400万円弱)を用意し、企業ユーザーやデータセンター事業者に“お試し版”としても拡販していく。

 センターのサーバーのほか、シンクライアントをユーザーに貸し出し、月々の使用料で収入を得る方法で、セキュリティ対策を含めて運用管理サービスだけで収益を確保できる。データセンター事業者がアプリケーション領域に踏み込めれば、顧客との関係は一層強固なものになるし、本格的なITユーティリティコンピューティング環境も実現させられる。煩わしい管理から解放されるので、中小企業にも導入を働きかけやすい。データセンター事業者のビジネスを広げられるチャンスというわけだ。

 開発したシンクライアントには、電話機能も装備している。パソコンにソフトフォンなどをインストールする方法もあるが、別の処理をしていると音声が劣化することがあったという。NECでも数多くの部署でソフトフォンを導入したものの、営業部署はこの問題を理由にソフトフォンを外したという。NECが開発したシンクライアントはこの問題も解決したという。「これで机の上から電話機がなくなり、すっきりする」(小林氏)というメリットもユーザーに訴求できる。

小林専務の心配事

 だが、毎年、新しいことに挑戦してきた小林氏には少し心配事がある。新しいアイデアが今後も出てくるかだ。「ITは成熟期にあり、次の種を探すのが難しくなっている。グーグルなどインターネット系はあるだろうが、コンピュータテクノロジーは成熟しており、その延長線上で新しいことはなかなか見つけられない」。

 「アイデアは山勘ではだめだ。技術の蓄積に加えて、豊富な人脈形成がいる」(小林氏)。実はシンクライアント開発のきっかけは、画像処理などに必要なLSIを共同開発した米サーバーエンジンの経営者との10年以上の付き合いからもあった。06年に相次いで発表した米ユニシス、EMC、ストラタスへのOEM供給も小林氏が築いた人脈からである。次の世代がこうした人脈作りをしているかだ。