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 海外アウトソーシングの初期段階では,日本側から要求事項を連絡したり,作業指示を出しても,海外側で期待した通りにやってくれないことが多く発生します。しかしある条件が整ってくると,きちんとやってくれるようになります。

 実際に海外で,こちらからお願いもしていないのに,心のこもったきちんとした対応をしてもらい,感激したことがあります。今回はその出来事についてお話します。

取引先が周到な準備をしてくれた

 それはベトナムでのことでした。私はある業界のベトナム視察ツアーのとりまとめを担当し,ハノイやホーチミンでの訪問先とのアポイントや交流会のアレンジなどを,日頃お世話になっているベトナムの取引先に依頼して対応してもらったことがあります。

 日々の業務に追われ,ツアー一行が日本を飛び立つ前に私が確認できたことは,視察の全体スケジュール,訪問先の企業や通訳のアレンジ,参加した日本企業と現地のベトナム企業との交流会の会場など大まかな事項だけ。詳細な段取りについては全く準備できていませんでした。

 特に交流会については,発表者の段取り,PCプロジェクターの準備,参加者向け資料の準備,会場の飲み物の手配などを確認することが重要です。しかし,そうしたことができないまま,交流会の当日を迎えることになってしまいました。

 当初私は,交流会開始の30分前に,会場であるホーチミン市内のホテルに到着し,最終的な段取りの確認を行う予定でした。しかしそれも視察ツアーを先導するタイトなスケジュールのためにできなくなりました。私は「これはまずいことになる」と思いました。 

 交流会当日,予定した午後1時半ちょうどに,視察グループ一行はホテルに到着しました。「おそらく何の準備も出来ていないだろう」。私は一行を先導しながら,半ばあきらめつつ会場に入りました。ところが,一歩足を踏み入れたとたんにびっくりしました。

 目に映ったのは,ホテルロビーの電子パネルでした。「X視察ツアーの交流会は,Yルームで開催します」という英語の案内表示が,青く鮮明に掲示されていたのです。とくに指示したわけでもないのに,きちんと案内表示が手配されていました。私たちが足早に会場に向かうと,部屋の前で何人かが準備されたコーヒーや茶菓子を口にしながら談笑していました。

 会議室では,すでにベトナム側の出席者20数名がきちんとテーブルに並んで座っていました。テーブル上には,参加者の企業名と名前を記入したプレートが整然と置かれており,PCプロジェクターとスクリーンも所定の位置に準備されていました。こちらが指示したとしてもこのようにはできなかったのではないかと思われるくらい周到な準備でした。

 念入りな会場準備が功を奏して交流会もうまく進み,日本企業,ベトナム企業双方の出席者からの説明や質疑応答も無事終了しました。交流会が終わると,私はほっと胸をなでおろしました。

現地のアポイントも満点,実り多いツアーに

 この視察ツアーのアレンジを担当したとき,私は信頼を置いているベトナムの取引先に,訪問先のアポイントを取ってくれるようにお願いしました。現地の人脈は広がっているようで,通常はなかなか訪問できないような会社にもアポイントを取ってもらうことができました。そして,すべての訪問視察のスケジュールを予定通りこなし,大きな成果を出すことができたのです。

 主催した旅行会社では,未知な部分が多い国で,本当に予定通りの視察ができるのかと心配していたようでした。しかし,ツアー終了後,「結果的にうまくいって安堵しました」とのコメントをいただきました。

 実際,海外視察ではいろいろなことがあるようです。ある旅行会社の方から,日本のよく知られたコンサルタントと契約し,欧州の業界視察のアポイントを取ってもらい,安心してツアー一行を率いて現地に赴いたところ,アポイントが全く取れておらず,大きな問題になったという話を聞いたことがあります。それは,コンサルタントの持っているチャネルや,現地との信頼関係に問題があったものと思われます。

 私が担当した視察ツアーでは,ホーチミン市内のホテルで日本企業とベトナム企業との交流会を計画したわけですが,その予算は限られていました。そこで日本からいくつかの現地ホテルにコンタクトを取って情報を入手した上で,さらに現地側で直接市内のホテルに当たってもらいました。最終的に,市内の五つ星ホテルの半日会議パッケージを契約することで,リーゾナブルな価格で最適な会議室を確保することができました。現地の信頼できる筋に相談するといい結果が出せるものだと実感しました。

 その後も,ベトナムの取引先との楽しいハプニングが記憶に残っています。取引先で翻訳・通訳,訪問同行などを支援している女性のGさんとそのグループの方々とお会いした時のこと。フライトのリコンファームのため航空券チケットとパスポートをGさんに渡した後,会議室の外で何やら明るい話し声が聞こえました。

 しばらくして,Gさんが「Happy Birthday!」と大きな花束を持って入ってきました。彼女達が私のパスポートを見て,その日がちょうど誕生日であることに気づいたのでしょう,お花をプレゼントしてくれたのでした。この細やかな心遣いには本当に感激しました。


空中に無数の電線が走っているホーチミン市内の道路
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