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 さらに連載は続くが,本稿の狙いは同社の開発マネジメント手法を寸分たがわず再現するというよりは,取材内容をヒントに創造性・生産性の高い大規模開発組織の属性を考えることにあるという点を確認しておきたい。

 さて,同社は業務活動に関する情報を多岐にわたるチャネルで共有している。共有される情報のタイプを大別すると,A)ナレッジとしてストックされる価値を持つ,業務の中身に密接にかかわる情報と,B)純粋に日々の業務上の連絡(例えば会議開催日時や来客スケジュール等)に近い,記号的な情報に分類できる。ここでは前者に的を絞って考える。

1.製品開発情報共有メディア

■週報・四半期報

 取材に基づく限りにおいて,まず業務内容情報の共有メディアには,Weekly Report(週報)やQuarterly Report(四半期報)がある。

 前者は,個々のエンジニアがその1週間でどのような活動をしたか(20%側プロジェクトで何をやった,80%側のプロジェクトで何をやったか)を数行で記述し,それを全社イントラネット上にアップすることが義務付けられているという。無論その内容は,開発関係者全員にアクセスが許されている。例えばプロジェクトマネージャー(80%側プロジェクトの管理者)は,これを管理ツールとして各メンバーの動静を把握し,自らの一次情報を補完することができる。エンジニアは,他のプロジェクトで一体何が起きているかを週単位で知ることができる。

 後者の四半期ベースのレポートは,プロジェクト単位で記述され,プロジェクトの目標,その達成度・進捗状況などが記録されるという。筆者の推察ではこちらはよりフォーマルで,四半期を超えて存続するプロジェクトが対象となるはずなので,80%側のプロジェクトを対象としているのか,と思われる。これも開発関係者全員がアクセス可能である。

■プロジェクトデータベース

 さらに,すべてのプロジェクトを網羅するデータベースが存在している。各プロジェクトの内容,メンバー,活動内容など,あらゆる情報が包含されており,これも個々の開発関係者の必要や興味に応じて,様々なクエリー(検索語)を組み合わせて情報を整理したり検索したりすることが可能だという。例えば,ある20%側プロジェクトで,どういったエンジニアが労働時間のどのくらいを割いて活動しているかなど。

■デザインドキュメント

 これは文字通り製品の設計・仕様書そのものであり,全員の情報共有を目的としたツールではない。しかしこれもイントラネットで全エンジニアが閲覧可能であり,設計・仕様書であると同時に情報共有のメディア機能もはたしている。各エンジニアが自分の才能を社内のエンジニアコミュニティに披瀝する機会にもなっているという。逆にこれを見て,同僚エンジニアが「あいつはできるやつだ」,「できないやつだ」といった評価をしていることになる。

 (ちなみに下記URLは,Google社外のある独立系プログラマーが,AdSenseの仕様・機能をこうリデザインしたらもっとよくなる,と公開しているデザインドキュメントです。社内文書ではありません。デザインドキュメントには様々な段階・バラエティがあるはずですが,一例として。岡田研の院生である吉田斉君が探してきてくれました。http://www.dustinkirk.com/google/AdSense%20Design%20Document.swf

2.人的資源情報共有メディア:Google Resume(グーグル・レジュメ)

 これは,いわば各エンジニアの職務経歴・職能一覧書である。Googleに入社する前,そして入社後から現在に至るまで,いかなる研究や開発に携わってきたか。また自分の得意とする技術領域は何か,いかなるスキルがあるのか。こうした情報も社内の開発関係者全員に公開され共有されているという。技術領域名,取得学位,能力など,様々な語句をキーに検索可能になっている。

3.他の重要な情報共有メディア:TGIF(全社ミーティング)

 上記1.2のメディアはすべてネット上のインフラであるが,TGIF(Thank God! It’s Friday! 今日で今週も終わりだ!花の金曜日だ!の意)ミーティングは物理的なインフラである。マウンテンビュー本社敷地内の1,000名程度収容のホールで行われる。いわゆるフルタイムで雇用される従業員は全員参加できる。

 創業以来続けられているこのミーティングの特徴は「一切タブーなし」というのが基本ルールだそうで,情報共有の原点といわれている。お楽しみ半分,業務目的半分の会である。

 重要な開発案件や戦略の方向性,経営陣の考え方などが披瀝されると共に,業務表彰もこの場で行われる。あるサービスが公開され,多くのユーザーが利用して成功したとなると,開発プロジェクトをチーム単位で表彰する。ニューヨークタイムズなどでもこのFounder’s Awardに関しては記事になっているが,褒賞はストックオプションの付与である。

 以上,ざっと情報共有の媒体を見てきたが,これらの媒体で流れる情報はすべての開発関係者(2005年当時の社員数約4000名の半分である約2000名)全員にアクセス権限が与えられ,共有可能な状態に置かれている。

 次回は,こうした情報共有媒体が機能した結果,どのような効果が現れていたかを見ていく。

 例えば,あるエンジニアは私にこういった。「入社第1日目から今まで,上司から所属部門や業務内容を指定されるといったことは一度もないんです。すべて自分で決めています。配置転換という概念もありません。プロジェクトがいやになれば,いつでも辞めることが許されています。」

 2000名のエンジニア組織で,ここまでの裁量を与えてカオス(混沌)が生じないのは一体なぜなのか。