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 知人が経営する会社では、ときどきIT業界の著名人を呼んで講演会を実施しています。光栄にも、私も講師の依頼をいただきました。「楽しくてためになるお話をしてください」という、なかなか難しいリクエストです。何を話すか悩みましたが、初対面の受講者から見れば、私の肩書きは「ライターの矢沢さん」とするのが一番わかりやすいと思い、「あなたも記事を書いてみませんか」というタイトルで、ライターとしての経験を話すことにしました。講演の概要をWeb上で再現させていただきます。どうぞリラックスしてお読みください。

 私がライターになったきっかけは、Cマガジンという雑誌に読者投稿したことがきっかけです。自分の作ったプログラムを紹介する記事でした。雑誌の発売日になると、書店に駆け込み自分の記事を探しました。「あった!」自分が読んでいた雑誌に、自分が書いた記事が掲載されているのです! このときの喜びは、今でも忘れられません。私は、ちょっと恥ずかしかったのですが、書店にあった15冊ほどのCマガジンを全部買占め、友人に配って回りました。「ボクの記事が載ってますのでヨロシク!」自分でも何がヨロシクなのかわかりませんが、とにかく多くの人に見てほしかったのです。

 その後も、アイディアを思い付くたびに投稿することを繰り返していました。そうこうしている内に、出版社の方から「こういうテーマで記事を書かないか」という依頼が来るようになりました。依頼を受けて書くのですから、この時点でプロになったと言えるでしょう。依頼に応じて記事を何本か書いているうちに、ついに書籍の企画が舞い込みました。

 はじめての書籍(実際にはムックでしたが)は、現在では親友となっているF氏との共著でした。Visual Basic 2.0にシリアル通信機能を追加する方法を解説したものです。私は、仕事の合間を縫って、1週間ほどで一気に70ページの原稿を書き上げました。無我夢中で書いたという感じです。書籍が発刊されたときの喜びは、記事以上に大きなものでした。私は、書店に20冊ほど注文し、またもや友人に配りまくりました。「ボクの本が出たのでヨロシク」ってな感じです。

 思い起こせば、初めて読者投稿したときから現在まで、ずっと書籍や記事を書き続けています。これまで、書籍を50冊ぐらい、記事を500本ぐらい書いたと思います。何を書いたか記録を付けていません。「次は何を書こうか」とばかり考えているからです。

 皆さんの中にも、「私もライターをやってみたい」と思っている人がいるでしょう。ぜひやってください。どの出版社さんも、新しいライターを求めています。いきなり書籍というのも大変だと思いますので、まずは記事からスタートするといいでしょう。皆さんがお読みの雑誌には、編集後記のページがあり、そこに編集者のメールアドレスがあるはずです。勇気を持って「こういうアイディアがあるので記事を書かせてください」というメールを送ってみましょう。ボツだっていじゃないですか。現在の私だって、企画は10本に1本ぐらい採用されれば十分だと思っているのですから。

 書籍や記事が出来上がるまでの手順を紹介しましょう。これは、私がお世話になっている出版社さんの場合です。どちらの場合も、きちんと企画を立てることが大事です。編集者と企画を練って「よしこれで行こう!」となったら、編集会議で厳しくチェックされます。ダメ出しされたら、企画を立て直して、再度チャレンジです。

 無事に企画がOKとなったら、後はバリバリ書けばよいのです。ライターは、一人ぼっちではありません。必ず一人、編集者さんが付いてくれます。ライターが書いた記事をプロの目で読んでくれます。わかり難い部分や、怪しげな部分、表現や構成の不備を指摘してくれます。二人三脚で完成させるのです。

 発刊後も、ライターとしてやることがあります。書籍の場合は、宣伝活動のお手伝いもします。学校や企業に見本を送って教科書採用をお願いしたり、書店に置いてもらうポップを書いたりします。大型書店で講演会をすることもあります。ポスターを作ってもらって、私が書店を回って貼ってくれるようにお願いしたこともあります。そして、ライターを続けていくために大事なことは、必ず次の企画を立てることです。

 ライターという立場から、書籍と記事の違いを説明しましょう。一番の違いは、書籍はライターの作品ですが、記事は雑誌の編集長の作品の一部であることです。したがって、書籍はライターの思い通りに自由に書いてよいのですが、記事は編集長の意向に合わせなければなりません。雑誌は、複数の記事からできています。一人のライターの記事が、雑誌の趣旨をはずれるようなことをしてはいけないのです。

 気になる報酬は、ここに示した通りです。書籍や記事をどのくらい書いたら生計が成り立つか、計算してみてください。私は、ライターの懇親会である「電脳ライター友の会」というものを運営しています。会員は、120名ほどいますが、その中にライターだけで生計を立てているのは、ほんの数名だけです。技術書の世界は、なかなか厳しいのです。

 皆さんも、企画を立ててみましょう。ここに示した手順で、順番に案を書いてください。企画書ができたら、その書籍や記事を、自分で読みたいかどうか考えてください。「面白そうだから読んでみたい!」と思えたらOKです。きっと、いいものが書けますよ。

 プロのライターは、売れるものを書かなければなりません。これまでに私が書いてきた書籍には、売れたものも、売れなかったものもあります。その理由を考えてみました。

 売れた理由は、はっきり言ってわかりません。売れると思って書いてもダメだったり、それほど売れないと思っていたものが大ヒットしたりします。タイトルやキャッチがよかった、表紙のデザインがよかった、内容がよかった...。どれも最初からよくしようと思って作っているのですから。

 売れなかった理由は、たぶんこうだろうと思えることがあります。「こういう本が売れているので、同じテーマで書いてください」という依頼を受けて書いたことがあります。売れませんでした。滅多にないことですが、書いていて楽しくない本は、読者も楽しくないのでしょう。売れません。くだけた書き方の本は、万人受けしないようで数が出ません。それから、背骨がしっかりしてないと言うか、読者ターゲットと趣旨がぼやけたような本は売れません。これは、当然ですね。

 ライターは、楽しいものです。文書で社会に向かって自己表現ができます。書店に自分の著書があるのを見ると、いまでも感激します。電車の中で、私の本を読んでいる人と隣り合わせたことがあります。挨拶はしませんでしたが、ものすごく嬉しかったです。

 ありがたいもので、ライターという肩書きがあると、初対面の人からでも信頼を得やすくなります。ライターをやっているお陰で、人脈が広がりました。友人もたくさんできました。私の本業は、あくまでもパッケージソフトの開発と販売のつもりですが、ライターをしているお陰で、もう1つ別の世界を持っているように感じます。

 これまで楽しいことばかりお話してきましたが、ライターになると怖いこともあります。それは、もしも間違った情報を伝えてしまったら、社会に大迷惑をかけてしまうことです。読者は、著者を信じてくれます。活字に書かれていることに間違いなどないだろうと思っています。それなのに、もしも間違いがあったら...。想像しただけで恐ろしいですね。

 ありがたいことに(本当に感謝しています)、間違いを指摘してくれる読者がいらっしゃいます。そんなときは、すぐにお詫びと訂正記事を出版社のWebや雑誌に掲載します。読者の指摘の中には、誤解だと思われるものもありますが、その場合もライターが悪いのです。頭の中でわかっていても、それを文書で伝えられないなら、ライターが悪いのです。文書にちゃんと(?)書いてあっても、読者に伝わらないなら、それもライターが悪いのです。

 ライターは、とっても楽しく、とっても怖い仕事です。今後、皆さんが書籍や記事を書く機会に恵まれたら、読者に対する責任を十分に意識してください。