PR

 2月9日金曜日,東京ビッグサイトに出かけた。NET&COM2007で「5つのVSで考えるNGN時代の企業ネットワーク」という講演をするためだ。有料セミナーにもかかわらず,毎年たくさんの方が聴きに来てくれるおかげで,NET&COMでの講演は今年で連続8年目だ。一昨年,昨年と満席だったため今年は一回り大きい会場にしてくれたのだが、事前申し込みで早々と1月中旬に満席になった。約300人というたくさんの人を前に話すのは気持ちのいいものだ。 

 講師控室に入ると,いつものように参加者名簿を見せていただいた。私が名前を記憶している方だけで,情報化研究会の会員が20人ほど来ていた。ありがたいことだ。傾向は例年どおりでユーザー企業の方より,ネットワークの専門家が多い。企業で一番多いのはNTTグループで約50人だった。これもいつも通りだ。どんな人が聴いているかで,話すべきポイントは変えねばならない。例えば,これだけ専門家が多いということはNTTのNGNトライアルの内容などとっくに勉強しているだろうから,その説明を詳しくする必要などない。プロの人たちが気づきにくい,ユーザー視点での企業ネットワークの考え方に重点を置くべきだ。ユーザー企業の人たちにはNGNをどうとらえればいいのか,今何をすべきか,が一番知りたいことだ。それを言い逃してはならない。

 2時間半,立ちっぱなし,休憩なしで講演した。これも例年どおりだ。講演の内容は日経NETWORKの田村さんが詳しくまとめてくれた(参考記事)ので,ここには書かない。今回はITやビジネスの世界に唯一の正解などない,自分自身の考えを持ち,それを堂々と話し,書くべきだ,ということを述べたい。

NGNの定義

 講演のイントロで「NGNの定義は10人いれば10通りある。新しい技術をどう使うか,そのコンセプトやアイデアも10人いれば10通りあるべきだ。私のNGNの定義に皆さん全員が賛同してくれるなどと期待していない。7割賛同していただけたら大成功だろう。今日の講演を通じて,皆さん自身の定義を考えてほしい」という意味のことを申し上げた。

 筆者は以前このコラム(『提案』と『コンサルティング』の違い)に書いたとおり,(1)IPで音声,データ,モバイル等の網を統合,(2)インターネットにはないセキュリティ,QoSを保証,(3)アプリケーションやサービスの開発が容易---の3点を満たすものがNGNという定義だ。

 このコラムにはどれだけ読んだか,参考になったかといった読者からのフィードバック欄がある。毎回、皆さんの反応がどうだったか見るのを楽しみにしている。とりわけ,コメントは賛成意見なら励みになり,否定的なものは勉強になる。なぜなら,意見を異にする人の方が自分にない視点やアイデアに気づかせてくれるからだ。賛成でも,否定でもないが,話の題材になるものもある。NGNの定義を書いたコラムへのコメントがまさにそれだった。

 『「名前をはずして中身を見ると、共通して入っているのは三つだ」の部分の真偽について第三者の見解が必要と思う』というコメントだ。筆者と同じシステム・インテグレータの方なのだが,自分の思考回路とあまりに違うのでびっくりした。NGNの定義に「真偽」,つまり正解か不正解かがある。第三者とはおそらく有名大学の教授とか,大手ベンダーの社長といった「権威」ある人のことなのだろう。こんな考え方で仕事をしていたのでは楽しくないだろうなあ,と思った。

 NGNとは何か,ただ一つの正しい定義などない。ユーザー企業の立場,通信事業者の立場,ベンダーの立場,といった立場と視点の違い,背景にある戦略の違い,個々人の想像力や思考力の差異,等々で定義は変わる。ビジネスやライフスタイルに唯一の正解がないのと同じだ。自分自身の答え=コンセプトやアイデアを持ち,それを堂々と表明して仕事をするのが筆者は楽しい。自分の意見を表明し,会話しつつ,自分の考えをさらに進化させる。実際,筆者は通信事業者やベンダー,情報化研究会の方など,多くの人たちと会話しながら自分の考えを進化させた。これからも変わっていくだろう。

 ただ一つの正しい答えがあると信じている人は,権威ある人が「NGNとはこうこう,こんなものだ」と述べたり,教科書に書いたりしているとそれを鵜呑みにして安心できるのだろう。そんなのはツマラナイ。楽しくないし,自分の考えでなければ人を説得することはできないだろう。説得できなければ,提案も設計もできないのだ。

 唯一正しい答があると信じて,それを探すという指向は受験勉強の弊害かも知れない。膨大な知識や数学の解法を記憶し,それを当てはめる。筆者も受験勉強は得意だったのだが,幸い「唯一指向」には毒されなかったようだ。受験した大学の入試問題も変わっていて,たとえば日本史では「日本の歴史の変革は辺境から起こると言われる。例を三つ挙げてその理由を述べよ」という問題が出た。これなら細かなことをたくさん記憶していなくても,鎌倉幕府,江戸幕府,明治維新などを例にして論理を展開できる。答も一様ではない。この問題を記憶しているのは,面白い問題だと思ったからだ。

 唯一指向以外にも日本人にはブランド指向,外人指向(日本人の言ったことより,外国人の言ったことをありがたがる)がある。これらには「自分で考えない」という共通項がある。いい加減目覚めて,自分で考えるという当たり前の「自分指向」が主流になって欲しいものだ。

インターネットvs NGN

 さて,話題を変えて講演での面白いエピソードを紹介しよう。実は講演の2,3週間前に見知らぬNTTの方からメールを頂いた。「5つのVSという題ですが,もう一つ“インターネットvs NGN”が抜けていませんか」という内容だった。Good Adviceだ。しかし,講演のテーマとレジュメは11月初旬に提出し,メールを頂いたときにはパンフレットの印刷も終わっていた。講演用スライドはまだ印刷前だったのだが,vsを一つ増やしたのでは構成が変わってしまう。

 そこで「企業ネットワークの動向」(図1)という最初のスライドに大きく,「インターネットvs NGN」を書き加えることにした。これで話題にできる。講演でこの部分にさしかかると,Opinionをまず言った。「インターネットとNGNはCompetitionの関係です。Competitionに決着がつくと役割分担が決まり,Collaborationの関係になるでしょう」。

図1●企業ネットワークの動向
図1●企業ネットワークの動向
[画像のクリックで拡大表示]

 実際,インターネットには有料・無料の電話サービスもあれば、GyaOやYouTubeような映像配信サービスもある。NGNがQoSやセキュリティでインターネットと差異化してはいるものの,競合は避けられない。そして,どちらが勝つかは「集客力」が決める。当たり前と言えば当たり前の話だ。インターネットの世界には,Google,Amazon,YouTubeといったスターから,無料電話のSkype、ブロードバンド・デスクトップを標榜するStartForce、大小のSNSプロバイダなどが次々と新しいサービスやビジネスモデルを生み出し,集客力を高めている。

 対して,これからスタートするNGNの集客力がどうなるかがポイントだ。筆者には筆者の予想があるが,講演を面白くするため,Audienceで答えを出すことにした。高額な賞金で有名なクイズ番組で,答えがわからないときにスタジオの聴衆に助けてもらう方法だ。

 「これからの数年間でインターネットvsNGNの競争が始まります。どちらが集客力で勝ると思いますか? インターネットが勝つと思う方,手をあげてください」。大多数の人が手をあげた。「NGNが勝つと思う人」。一人も挙手しなかった。これは事実だ。

 NGNが単純な加入電話網のIP化であれば、わざわざお金をかけて光ファイバーを引き,端末を買いなおすユーザーなどいないだろう。インターネットのプレーヤーに負けない魅力あるサービスを,より速いペースで生み出してほしいものだ。同時に,NGNが世界的に発展を続けるインターネットを使う上で足かせになっても困る。そんなことのないサービス内容や料金体系になってほしい。

感想メール

 講演は数限りなくやっているのだが,今回の講演が一番緊張した。今春社会人になる長男が聴いていたからだ。自分が聴きに来るように勧めたにもかかわらず,本当に来てくれるとは思わなかった。非常に嬉しかったのだが,予想以上に緊張した。情報化研究会の仲間8人で打ち上げをしていると,息子からケータイにメールが来た。一言,「なかなか面白かったよ」。