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 経営者がブログを書く効用は計り知れません。おそらく数年後には,企業と経営者の社会的責任の1つとして,経営者ブログを通じた情報公開が挙げられるようになると考えています。しかしながら,特に上場大企業の経営者は,昨今のコンプライアンス,内部統制,敵対的買収への対応や,いわゆるブログ炎上への恐怖から,経営者ブログでリーダーシップを示すところまで気が回らないようです。

 そこで,まずはオーナー経営の中堅企業創業者が率先垂範で経営者ブログに力を入れることに大きな期待を寄せています。そんな黎明期にあって,コンピュータ用パッケージ・ソフトウェアの販売,技術サポート,教育,コンサルティングで全国展開をしている株式会社アシストの経営者ブログを知りました。

 同社の創業経営者ビル・トッテン氏は米国出身で,日本に帰化した親日派の言論人としても活躍されている著名な経営者です。氏の経営者ブログは,単なる企業PR,IR(投資家向け広報)活動としての目先の活用を超えて,企業の社会的責任や地球市民的責任を全うしようとするものです。

 こうした長期視点・宇宙船地球号視点の経営者メッセージ発信が,これからは企業ブランドイメージの根幹を成すように思えてなりません。

Web2.0時代の広報・Web戦略パネルでアシスト西川氏と同席

 先日,ZDNET IT製品比較.comセミナーのパネルディスカッションで,アシストNOREN事業室チャネルマーケティング部統括の西川純平さんとご一緒いたしました。

 今回のセミナーのテーマは「Web2.0時代の『注目を集める広報・Web戦略』」です。これからは,単に自社サイトから一方通行の情報発信をしておしまいではありません。エンドユーザー,パートナー,社員,マスメディア,さらには株主までも含めたあらゆるステークホルダーと共に,それぞれの立場から有用な情報を発信して,お互いに紹介・リンクし合う時代に向かうのです。

 日夜,Webサイトが増え続けるブログビッグバン時代には,自社サイトだけでは星の数ほどある「キーワード同一サイト」の中で埋もれてしまいます。囲碁の達人が盤面全体に広く布石を打っては陣地を広げていくように,広大なインターネット空間上に,顧客別,テーマ別,キーワード別の強力なサイトを配置してはリンクしていく2次元志向の戦略が重要になるでしょう。

 そして,ブログなどを通じた商品・サービス提供者からの情報発信は,必要条件ではあっても十分条件ではありません。お客様からの生の声,中立的なプロからの評価など,第三者のネットコミによる裏付けがあってこそ,信頼を勝ち得るのです。

 こうして顧客別,テーマ別,キーワード別という平面のそれぞれに対するメーカー,販売先,ユーザー,プロフェッショナルなどによる重層的な3次元の情報発信なしでは,厳しい鑑識眼を持つ見込み客の心に届かない時代になったのです。

 アシストの西川さんの発表は,マスメディアの広告・パブリシティや,自社のサイトだけに頼らず,ニューズ・ツー・ユーを活用したニュース配信やCNETZDNETの中に自社専用の白紙ページを借りて自ら情報発信を試みるものでした。それは,ネット広報時代を先取りした新しい試みでした。

アシストで全社ブログ展開が一気に進むであろう7つの理由

 その一方で,アシストでは,当コラムで提唱しているような「全社で調和的ブログ発信を試みるオーケストラ経営」には,まだ着手されていないとお聞きしました。

 しかし,私の基調講演を受けて,西川さんはパートナー向けのブログなども考えてみたいとおっしゃってくださいました。お話を伺っているうちに,同社の場合,ひとたび方向性が決まれば,一気に全社ブログ化が進むのではないかと感じたのです。

 ざっと考えても,その理由が7つほど思い当たりました。

1.非上場オーナー経営の中堅企業であること
オーナー経営者が責任を取る覚悟ならば,日本版SOX法・インサイダー取引などに縛られることなく,全社員の情報発信に踏み切れるでしょう。

2.オーナー経営者が強力なリーダーシップを持つこと
同社では,最近,経営者の「鶴の一声」で,社内のオフィスソフトをオープンソフトに一斉に切り替えたそうです。その英断に比べれば全社ブログ活用など問題ではないでしょう。

3.オーナー自身が社長ブログの実践者であること
オーナー経営者のビル・トッテン氏が,ブログなどネットを活用して日々情報発信をする10年来の達人であり,その効用を体感しているのです。

4.社員の情報リテラシーが高いこと
同社は,ITソリューションを提供する企業ですから,パソコンやインターネット活用の基本的な素養を持たない「ITアレルギー社員」はいないでしょう。

5.パートナーやお客様を主役にしたブログが書きやすいこと
全国で活躍する数多くの社員が,あまたあるパートナーやお客様のソリューション事例を紹介することで,無理なくブログ記事を増産できるはずです。

6.メーカーではなくソリューション提供者であること
自社商品を中心に書かねばならないメーカーに比べて,さまざまなソフトを扱う販売会社の場合は,顧客志向の中立公正な記事を書きやすいはずです。

7.セミナーやユーザー会というオフラインの機会が多い
同社のサイトを見ますと,ほぼ毎日のようにセミナーを開催しています。ブログと実際に顔を会わせる機会は表裏一体であり,告知と感想の繰り返しこそがブログ記事の源泉です。

ライブドアなどで集客,自社サイトに誘導

 こうした7つの理由の中でも,最も特記すべきは,オーナー経営者のビル・トッテン氏が,社長ブロガーとして既に活躍されていることでしょう。

 Googleに「ビル トッテン ブログ」と入れて検索をいたしますと,なんと3万7100件もヒットします。中でも,最上位にライブドアのブログがヒットしました。

 最初は,集客と検索エンジン対策のために,あえてライブドアのブログに書いているのではないかと考えました。しかし良く見ると,もっと高度な活用がされていました。

 実は,ライブドアのブログには,連載コラムの要旨/前文だけが書かれているのです。続きを読もうとリンクをたどると,ライブドアのブログではなく,アシストのホームページの連載コラムに飛ぶ仕組みになっています。

 つまり,日々のブログ記事のヘッドラインを外部の人気ブログに表示しながら,最後は自社サイトへの誘導を図っているのでしょう。言うなれば,ブログの入り口をネットで人気がある場所に増やして,出口は自社サイトに一本化する方策です。さらには,人気のある社長ブログを集客のフックにして,会社の商品やセミナーを知っていただくということでしょう。

 この仕組みは,URLから判断するに,News2u 社長ブログの機能を使っているのでしょう。これは優れた機能なので,私もいずれ活用を考えてみたいと思います。

新春講演会ライブはブログや連載コラムの集大成

 ビル・トッテン氏の社長ブログとその原典となっているコラム(Our World)を開きますと,まずその量と質に圧倒されます。なにしろ,2007年2月22日の最新記事「新春の集い ~脱欧入亜~ 講演録」で,既に連載コラムの回数は,768回を数えているのです。

 試しに,第1回目のコラムはいつどんなテーマで書かれているか,Webサイトのバックナンバーをさかのぼってみました。

 すると,第1回は,何と今から12年以上前の1995年2月10日に配信されていたのです。1995年と言えば,ブラウザで言えばモザイクの時代,まだ日本でWebサイトが少しずつ出現したばかりの頃です。もちろんブログも無ければメールマガジンも無い時代に,メールを使って親しい方向けの情報配信が開始されていました。

 この記念すべき第1回は「親愛なる友人たちへ」という表題で,情報発信の目的と内容について書かれています。ここに書かれている理念は,ただ検索エンジン対策やネットコミのためにブログを始める人たちとは一線を画すものです。Webサイト,メルマガ,ブログなるものができたから,単に企業や自分の宣伝に使おうという狭い了見ではないのです。

 毎回かなりのボリュームを誇るこのコラムを,今からすべて読破するのは難しいと思います。ですから,まずは第1回と第768回の2回をご高覧ください。おそらく,12年経っても変わることのないビル・トッテン氏の想いと見識が伝わってくるでしょう。

日本人よりも日本を想い米国から日本に帰化

 かねてより,著作やインタビューなどで,ビル・トッテン氏の親日的な発言を存じ上げていました。しかし,今回ブログを読み拾っていて驚きました。一般的な日本人よりも「はるかに日本のことを愛し,悩み。考え抜いている」と感じてしまうのは,おそらく私だけではないでしょう。

 プロフィールにもありますように,氏は,1969年に初来日し,1972年に株式会社アシストを設立しました。そして,2006年には,日本への帰化が認められ,国籍までも日本人になったのです。

 氏のブログを読んでいると,私たちが忘れつつある「古きよき美徳」を思い出させてくれるような気がします。そして,日本は遅れているとの思い込みのもとで,気がつけばグローバリズムに巻き込まれて,物質的にも精神的にも貧しくなっていることにも気づくのです。

 海外から来た人の言葉にはとりわけ素直に耳を傾ける日本人にとって,氏の存在と説得力は格別なのです。ビル・トッテン氏の情報発信のおかげで,同社のイメージは,「外資系」と聞いた時に多くの人が感じるイメージの,真逆にあるでしょう。

企業人ながら地球を想い発言を続ける

 さらに驚くのは,昨今のブログの集大成でもある新春の講演で,当コラムでも取り上げた話題の映画「不都合な真実」について触れるなど,地球環境問題について繰り返し言及していることです。

 地球環境問題が人類の未来にとって重要であることを,多くの経営者は認識していることでしょう。しかし,それをブログなどで広く公言することは,経営者にとって両刃な剣でもあります。新しい環境創造型,環境技術型の企業でもなければ,成長を目指す企業活動そのものが地球環境を害していると攻撃を受ける可能性があるからです。

 例えば,アシストにしても,数十年前には無かった「電気がなければ動かない情報システム」を取り扱う会社です。ある種の環境論者にとっては「そんなものも会社もいらない」と受け取られるかもしれません。その一方で,地球環境問題と経済発展や企業の成長は相反する関係にあると考えるパートナーの経営者からも批判を浴びるかもしれません。

 しかしながら,同社の経営者ブログには,そんな摩擦に臆する迷いは感じられません。一貫して地球環境問題の重要性が語られています。

 そして,社長ブログを教えてくれたアシスト社員の方々も,経営者がブログで環境問題について公言されることを,隠すどころから強調されていました。おそらくは,ロハス(Lifestyles of Health and Sustainability) などと騒がれる前から情報発信をしていた経営者を慕ってのことでしょう。

創業者とシンクロする後継者ブログが読みたい

 このように情報発信に長けた経営者のトップダウンを契機に,アシストが全社ブログを通じたオーケストラ経営の実践を始める日は近いと考えます。

 しかし,心配がないわけでもありません。強力な創業オーナー経営者が引退した後,経営者ブログを通じて社内外の多くの人たちの心を動かすことができる後継者=指揮者が現れるかということです。

 そこで,ぜひとも他社に先駆けて実践していただきたい試みがあります。それは次期経営者候補の後継者数名が,それぞれが後継者ブログを一斉に始めるのです。もちろん後継者ブログは,すべて社内外に公開されます。ブログを何年か続ける内に,後継者の理念や素顔も明らかになるでしょう。

 その上で,株主,役員,社員,取引先,顧客がそれぞれ評価して,後継者の中から,創業者の理念とDNAを色濃く引き継ぎながらも,創業者には無かった新しい発想とネットワークを持ち,さらには最も多くのステークホルダーから愛された方を選べば良いのです。

 そうすれば,社内に不毛な社内営業や派閥抗争が起きることもなく,自らの見識,人徳,行動によって自ずと選ばれるべき人が選ばれることになるでしょう。

 熱意と誠意と愛情に富んだビル・トッテン氏のブログを拝読しながら,こうした斬新でオープンな事業承継とブランド維持を,ぜひ氏の手で成し遂げていただきたいと感じたのです。