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 日本には,海外アウトソーシングには問題があると感じている人が多いようです。それは,日本が海外とは異なる独自の文化や商習慣をもち,人的つながりや長期の関係を重視する特異な市場であると考えられているためです。

 これに対し,欧米からインドなどへのアウトソーシングは,英語をはじめとするグローバルスタンダードで行っているため,概ねうまくいっていると考えている人が多いようです。

 しかし,調べてみると,すべてがうまくいっているわけではないようで,問題点も見受けられます。アウトソーシングの環境や条件が,日本と欧米では異なると思われるのに,その問題の多くが日本で起きている問題とあまりに似ていることに驚かされます。

 今回は,海外アウトソーシングの落し穴を常識的な視点で総覧し,その後,欧米で起きている問題との類似点について触れてみたいと思います。

オフショア開発では想定していない問題が発生する

 筆者がこれまでインドやアジアでのオフショア開発において遭遇した問題は,おおよそ次のようなものです。

 オフショア開発では,まず,これまでの日本市場での経験をベースに,海外委託先企業に十分な技術力や対応力があり,プロジェクト責任者の技術スキルおよび管理スキルが高く,プロジェクト要求を十分満足できるかどうかを検討します。そして評価OKとなった場合に委託を決定します。

 実際にオフショア開発を進めていくと,途中や最終段階で予期していなかった問題が顕在化することがあります。急遽対策を講じるのですが,関係者の努力により問題を克服するケースと,完全に失敗してトラウマとなるケースの2つに分かれます。問題や対応の幾つかについては,すでに本コラムに掲載しているとおりです。

 なぜ,当初の計画や思惑のとおりうまくいかなかったのでしょうか?筆者は冷静に考えてみました。米国で早い時期にCMM(Capability Maturity Model for Software)レベル5を取得した実績をもつ日系米国人も,改善は常識的に考えるのがよいと話していました。発生原因は下記のように整理されます。

1.情報の間違い
  1.もともとの情報が誤っていた,またはだまされた
  2.委託先の言葉や文書の真意や真実を理解する力がなかった

2.途中の状況変化
  1.変化することを予期していなかった
  2.変化していたのに気付かなかった

3.変化への対応
  1.事前に検討していなかった
  2.検討していたが実行しなかった

 上記の中で,「委託先の言葉や文書の真意や真実を理解する力がなかった」,「変化を予期していなかった」という問題に,筆者は実際に直面しました。このため,日々のプロジェクト管理の中で上記をチェックするようにしています。

 問題が小さいうち(早期)に発見して速やかに対策すれば,小さな労力で解決することができます。大きな問題になるまで放っておいたり気付かなかったりすると簡単な打ち手では回復できなくなり,痛手が広がります。問題はできる限り小さいうちに見つけ解決することが極めて重要です。

 海外アウトソーシングにおいては,技術要素や技術者スキルなどの開発に関するマネジメントだけに注力していると,思いもよらない問題に直面します。ですから,開発のマネジメントだけでなく,もっとグローバルに視野を広げ,ローカルの現地事情も考慮することが求められます。

 例えば,調達計画,契約締結などのビジネスのマネジメント,ソフトウェアを実際に開発する人材や組織のマネジメント,そして人材離職などのリスクのマネジメントを行うことが肝要です。

欧米でもコミュニケーションが最大の課題

 次に欧米で起きている問題について触れてみます。欧米諸国では,インド,アジアなどへのオフショア開発委託が一段と増加しています。狙いはコストを削減し,企業の競争力を強化し,事業プロセスを最適化するためです。

 コストパフォーマンスの高いオフショア開発は,欧米企業にとって魅力的ですが,しばしば期待された成果レベルに到達できていないようです。オフショアチームにより納入された成果物には,低レベルのソリューションと品質の問題が多く,最終的に納期が遅れ,顧客の満足を損なう結果に終わるケースがあります。

 欧米企業は一般に,グローバルなプロセスでインドなどにオフショア委託するため,問題は発生しにくいように思われますが,やはり国内の企業に委託する場合とは異なる問題を引き起こしているようです。

 問題点として指摘されているものには,委託先との信頼関係,仕事を失うリスクに対する心理的抵抗,文化と言語の壁,コミュニケーション,遠隔地での開発,時差,相手が見えないこと,などがあります。

 信頼関係は,人間同士のFace-to-Faceの相互コミュニケーションの繰り返しにより時間をかけて形成されるものです。その点,オフショア環境では,多くのコミュニケーションは,eメール,電話,チャットで行われるため,信頼関係の構築に時間がかかります。

 文化と言語の壁は,育った国が違う以上,なかなか越えがたいものがあります。文化は,信念,態度,行動,モラール,そして社会のルールにもなっており,企業,従業員の倫理,そして従業員の人間関係に大きな影響を与えます。

 アウトソーシングの世界で技術エキスパートを見つけることはたやすいですが,彼らが委託元のプロダクトの狙い,背景,重要度を容易に理解できるかといったら,そう簡単ではありません。彼らが委託元の国で,ある程度の経験を積んでいるとしても,プロジェクト要求をきちんと理解してもらうためには,どのくらいの精度で文書に記述するかを吟味する必要があります。

 また,日本では一般的にインドの人々はかなりはっきり物事を言うと思っていますが,欧米から見るとそうでもないようです。「インド人技術者は丁寧であり問題に関する率直な回答をためらう傾向がある。実際,業務が技術者にアサインされ,納期が迫った状況下で,『納期は大丈夫か』と質問すると,回答はしばしば『Yes』でした。これがオフショアの場合,納入される成果物が,期待していたものと全く異なっているとしたら恐ろしいことだ」という談話を目にしたことがあります。

 コミュニケーションに英語を使用するといっても,英語は世界中どこも同じではありません。発音やニュアンス,スラング,コンテクスト(前後関係)が国や地域によって異なりますので,意図したことが正確に伝わらない可能性があります。

「暗黙知」をいかに共有するか

 ここに紹介したのは欧米でのプロジェクトでの話です。日本での問題と同じではないかとお感じになった読者も多いと思います。実際に,米国市場でインド企業の対応を目の当たりにしましたが,オフショア開発という視点に立脚すると,発生する問題は欧米と日本でかなり似ています。

 いずれにせよ,「暗黙知」になっている事柄をいかに相手側に伝え,共有化して仕事をうまく進めるかが重要なポイントになります。こうした問題を改善するため,欧米ではアジャイルなど様々な手法や対策が講じられています。それらを参考にしながら,日本に最適な海外アウトソーシングのやり方を開発する必要があるでしょう。


インドではサリーをまとってオートバイに乗る女性の姿も見られる
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