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 前々回の「学習しない組織,できない組織」に読者から頂いたコメントで,気になっているものがある。筆者のただの推測でしかないが,記事で取り上げた職場の関係者による書き込みかもしれない,と思った。それで,追補として本稿をまとめた。筆者が去った現場で,志を持って仕事に従事している方がおられると知ったからだ。

 今回の内容は「学習しない組織,できない組織」に寄せられたコメントを手掛かりに,組織のマネジメントに関して何を学べばよいのかをまとめたものだ。筆者の専門であるコールセンターに偏っているが,対顧客という切り口で見れば,ほかの組織にも十分役に立つはずだ。

サントリーのCSRレポートを読んで三つのことを考えた

 前々回の最後で,コールセンターに関するベンチマーク・リポートの名称をいくつか載せておいた。これらは英語なので,やや敷居が高い。そこでまず,日本語で書かれた手引きになるものはないかと,インターネットで調べてみた。

 サントリーにはお客様コミュニケーション部という組織がある。その活動の全体は,同社のCSR(企業の社会的責任)レポートに収録されている。同社のWebサイトにPDFファイルで公開されているので,ぜひ読むことをお薦めする。最も簡単にできるベンチマークだ。

 筆者は2006年版の同社CSRレポートを読んで,三つのことを考えた。

 一つは,「JIS Q 10002」とは何かということだ。CSRレポートには次のように書かれている。『2005年11月、JIS Q 10002「品質マネジメント-顧客満足-組織における苦情対応のための指針」に則って「お客様対応規定」を改定しました』。

 もう一つは,お客様コミュニケーション部の活動を,CSRリポートで紹介したことの意味だ。筆者は,サントリーは顧客との対話を企業の社会的責任の一部と位置づけていると推察した。

 最後は,職場の写真が掲載されていて,その写真を見て少しヘンと思えたことだ。写真は,コールセンターと思われる職場で写されたもので,そこで働いている人々は女性ばかりに見えた。どうも電話の仕事というのは女性に片寄せされている傾向がまだまだ残っているようだ。

 それにしても,お客様視点体感プログラムというのは興味深い。サントリーでは,マーケティング部門や研究開発部門の従業員も,お客様センターで電話応対を体験するとあった。アメリカ企業ではめずらしくないこの種の義務化がサントリーにもある。そこが他とサントリーの違いの一つなのだろう。

 筆者の関心はさらに,このお客様センターで働いている人々が,サントリーの社員なのかあるいは非正規社員なのか,等というところに向かう。だが,いずれにしても,サントリーのお客様コミュニケーション部が地道な努力を積み重ねてきたことだけは間違いない。

JIS Q 10002の実効性確保には組織的な対応が必要

 サントリーのCSRレポートでも言及されているJIS Q 10002は,「品質マネジメント-顧客満足-組織における苦情処理のための指針」と関係者の方々には認識されている。その指針の内容を詳細に検討してみると,その実効性を確保するのは容易でないことがすぐに分かる。組織で対処,対応しなければならないからだ。

 このJIS Q 10002の内容についての解説は,「苦情対応マネジメントシステム導入のポイント」というサイトに掲載されている。資料の解説や論評が目的ではないので,ここでは内容に言及しない。ただ,筆者が興味深く感じた点を列挙しておこう。

 一つは,この公開資料が(財)日本規格協会が編集発行している「標準化と品質管理」に掲載されたという点だ。つまり顧客対応にもJIS規格があり,(顧客サービスの)品質管理という考え方が徐々に普及し始めていることが伺える。もう一つは,「文書の整備」「苦情対応プロセスの監視」「内部監査」「マネジメント・レビュー」「自己適合宣言」という五つの要点があることだ(資料の骨子である大見出しで分かる)。いずれも,組織行動が重視されている。

 そこで引き続き,組織と人材について,四つの観点からまとめさせていただく。

組織と人材(1)-適格性の評価

 今仮に,JIS Q 10002を手引きとしてコールセンターのオペレーションとマネジメントの職務記述が完了したとして,残る課題は組織と人材だ。職務記述を体現する人々である。

 アメリカの最近の傾向では,コールセンターに要員を採用する場合に,必ずプリエンプロイメント・スクリーニング(Pre Employment Screening)が行われている。リクルートが提供しているSPI(総合適性検査)が似ているが,アメリカのものは職種別に用意されており,日本にはまだ紹介されていない。対象となる職種は,例えば,アウトバウンド,顧客サービス,ヘルプデスクなどである。

 プリエンプロイメント・スクリーニングが評価するのは,基本的な職種の適性である。例えば,顧客サービス部門でしばしば見かけることができるエージェントの性癖に,顧客と論争するというものがある。心理学的な手法を応用して,応募者が論争好きかどうかを判定する必要がある。この種の適性は,個別のインタビューでは評価できない。もうひとつはセキュリティへの関心である。ちなみにアメリカでこの種のスクリーニングの採用が急速に拡がったのは,9.11テロ以降。応募の動機を把握する必要が増したからだ。

 筆者は数年前に,この種のスクリーニング・テストを日本でも作りたいと試みた。だが,関係者の興味,関心を呼び起こす前にプロジェクトが終了してしまった。

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