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 「企業はIT部門を解体するべきだ。一度、経営企画や現場に再配置してみてはどうだろうか」。最近、ITベンダーの元トップからこんな話を聞いた。経営者らの「IT部門に任せておけば大丈夫」、IT部門の「ITベンダーに任せておけば大丈夫」という信頼関係が崩れてしまったという認識が根底にある。ITシステム導入の主導権を握るIT部門とITベンダーの関係を見直すことが、IT産業の構造を改革する大きなきっかけになるとの読みもある。

 今、IT産業の最大の関心事はシステム構築における品質と生産性の向上だろう。新しい商品や新サービスの開発も重要テーマだが、業績に影響を及ぼしているのが品質と生産性なので、多くのITベンダーがこの問題解決に全力を注いでいる。中国やインドなどでのオフシェア開発に打開策を求める企業も急増しているが、抜本的な解決を見いだせてはいない。

 そうした中で、業界トップらは構造改革の必要性を訴えるのだが、大手ITベンダーや大手ITサービス会社はモノを販売しシステムを構築するという自ら築いたビジネスモデルを変えられるのだろうか。大手ITベンダーのトップが年初に、「IT投資が不十分なので、企業の生産性が上がっていない」と問題がユーザーにあるかのような発言をしていた。こうした指摘をする業界関係者は少なくないが、実は通信を含めた日本のIT投資額は米国の3分の1強、全世界の10%強を占めている。ほぼGDPと同じウエートで、これだけのIT投資をしても期待した成果が上がっていないとすれば、ユーザーが最も必要としているところにIT投資を振り向けられていない、海外より高い商品やサービスを購入している、などといった要因が容易に推測できる。

 ユーザー企業の経営戦略にも左右されるが、ITベンダー自身の生産性の低さという問題も隠せない。よく言われていることだが、IT投資の7割を運用保守が占めていることからも問題点が見えてくる。外資系アプリケーションベンダーの幹部は、「日本の企業からビジネスプロセスや組織変更に伴うITシステム導入の相談を持ちかけられることは少ない」と明かす。標準的なパッケージソフトを導入したのに、IT部門は細かな部分のカスタマイズにこだわり過ぎるというのだ。「ユーザー部門の声に応えるため」というのがIT部門の言い分だろうが、もしその投資が無駄な領域に向かっているとしたら、売り上げや利益をいかに伸ばすかを考えている経営者らが不満を募らせるだけだ。

IT予算消化に陥る?

 実は、IT部門が分かりやい個別要望の実現に手間ひまをかけて開発することは、ITベンダー側に好都合な面もあった。人月ベースのビジネスなので、開発期間が延びるほうが売り上げを増やせるからだ。IT部門が「これとこれが必要で、こんな効果を出せる」と予算獲得するのではなく、運用保守という決められたIT予算を消化することを考え始めたら、ITベンダーはそれをいかに取り込むかを必死に考えるのは自明だ。

 例えば、経理担当者が経理部門の利便性を高めるために、IT部門に会計パッケージの機能追加を要求する。売掛金管理など分かりやすい機能なら、IT部門はまずそこから対応するかもしれない。業務プロセスの改革など経営課題の解決に直結するIT化は後回しにならないとも限らない。「経営者の要求が不明確だからだ」と、IT部門もITベンダーも言いたいのだろうが、ビジネスがコンピュータなしで成立した合理化時代ならまだしも、ITとビジネスが密接な関係にあった今、効果が見えない投資や開発期間の長期化は許されない。

 経営者が求めているのはITシステムの導入そのものではなく、業績を伸ばすためのビジネスの仕組みなのである。経営者がITのすべてを理解することは無理なことで、そこを補うのがIT部門だったのだろう。経営者の要求はこのように変わったことを理解していないIT部門もまだまだ多いのではないか。

 IT部門の役割は、市場にある最善のアプリケーションやサービスを組み合わせて、業績を伸ばす仕組みを作り上げることになる。そう考えれば、技術やサービスの本質を見極める力の大切さを理解していただけるだろう。


*本コラムは日経コンピュータ07年3月5日号「ITアスペクト」に加筆したものです。