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 日経ビジネスオンラインに「『顧客満足』という言葉の薄っぺらさ~「職商人」に見る経営の本質」と題する一文が載っている。前・花王会長の常盤文克氏のコラムである。

 少し長くなるが,引用させてもらう。


 これは(編注:売り手と買い手とは一体不可分なのだという発想は),近江商人の教えである『三方よし』の精神とも繋がってきます。この『売り手よし,買い手よし,世間よし』という商業倫理は,売り手と買い手に加えて,売買が行われる地域社会(世間)の繁栄が大事だと訴えています。現代でいう『CSR(企業の社会的責任)』の原点とも言えます。

 こうした職商人の考え方からすれば,いまの企業が言う『カスタマー・サティスファクション』『顧客満足』という言葉は薄っぺらく,やや本質から離れているように感じます。なぜなら,企業とお客とは別々の存在であって,お客を自らの対極に置いているように見えるからです。

 お客を自分たち企業の外に置くのではなく,企業の内に置いて考えるのでなければ,真の顧客満足は実現できないでしょう。顧客満足とは,特に取り立てて言うことでも何でもなく,企業活動そのものなのです。


 筆者は,この示唆と指摘をCRMアプリ製品の販売を指揮する人々に向けたいと思う。つまり,薄っぺらいCRMアプリケーション製品の説明では,企業の購入調達の意思決定を促進するのには役立たない,と言いたい。なぜなら,企業がCRMアプリ製品の導入を決断するのは,そこに何らかの信頼が醸成されなければならないと考えるからだ。その信頼感は論理的でなければ醸成されない。

シーベル・システムズのマーケティング活動を振り返る

 米オラクルに買収された(あるいは売却してしまった)米シーベル・システムズだが,CRM製品としてはいまだに「シーベル」のブランドがきちんと残存している。日本シーベルを吸収・合併した日本オラクルインフォメーションシステムズのホームページを見ても,シーベルのCRM製品は「Siebel Customer Relationship Management Applications」というページで紹介されている。つまりCRMアプリ製品の分野で,シーベルはブランドとしての地位を確立していると認識されるのだ。同様のことは,オラクルが買収したピープルソフトについても言える。

 ただし,ピープルソフトはCRM製品のPS8CRMをブランドとして確立できなかった。それは,PS8CRMの前バージョンが元々ピープルソフトに買収された米バンティブの製品であり,ピープルソフトがバンティブというブランドを捨ててしまったからだ。

 シーベル・システムズの創業期,筆者は何度か同社を訪れる機会があって,創業者であるトーマス・シーベル氏にも行き会った。寡黙な聖人という雰囲気だった。その後もシーベル・システムズの動向を注視し,ことあるごとに参照してきた。そして,シーベル・システムズは,ITアプリ製品の販売では革新的な方法を確立したと評価している。ただ,その影響は日本にまでは及ばなかったと思える。

 シーベル・システムズが達成した顕著なマーケティング・コミュニケーション活動を振り返ってよう。

 一つは,1996年に「Virtual Selling: Going Beyond the Automated Sales Force to Achieve Total Sales Quality」と題する書籍を刊行したことだ。現在売られているのは,そのペーパーバック版である。シーベル氏は,この書籍でセールス・マネジメントに新たな視点を切り開いて,生産性の概念を適用するすべを説いてみせた。

 同書では,ソフトウェアを介したチーム・セリングの確立や,セールス・プロセスなどが解説された。セールス・マネジメントとITの融合が,明確に意識された。

 次に,書籍刊行と並行して,徹底したシーベルCRMの認知度向上策を展開した。一時,アメリカで開かれた展示会にシーベル氏の巨大な肖像写真が飾られ続けたこともあった。また,コンサルタント会社・調査会社を多用して,CRM製品と市場に関する評価リポートを多数書かせた。これらは,米国でCRMのアプリケーション・ビジネスが脚光を浴びる時期に重なった。

 三番目に,シーベル・システムズは,膨大な導入顧客のパブリシティ情報の公開を試みた。オラクルに買収される前まで,米シーベル・システムズのホームページには,様々な適用事例として導入顧客が紹介されていた。筆者は,時折そのサイトを参照して,CRMアプリにこんな適用分野や方法があるのかと随分学習させてもらった。

 今も,http://www.oracle.com/customers/products/siebel-crm-customers.htmlというページを参照すると,Siebel Customer事例が多数掲載されている。かつては短いビデオクリップも掲載されていて興味深かったが,現在は見当たらない。販売政策が変更になったのだろう。

 かつての米シーベル・システムズと同社の製品販売に強い印象があったため,日本でのシーベル製品の販売には食い足りないもの感じてきた。オラクルに買収された後も,その印象はぬぐい切れていない。

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