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 経営者やユーザー部門の企業情報システムに対する無理解・・・これは、情報システム部門やITベンダーなど“IT村の住人”からよく聞こえてくる嘆きの言葉だ。「経営がITのことを何も知らず、ITコストやIT要員を平気で削減する」「インターネットで知恵を付けたエンドユーザーがとんでもない要求をしてくる」等々。お陰でシステム部門は疲弊し、ITベンダーは赤字プロジェクトの業火に焼かれる。

 こうした恨み節、いちいちごもっともだと思う。しかし、ちょっと待て。中堅・中小企業はともかく、大企業ではかつて、企業情報システムに対する経営者やユーザー部門の無理解をよいことに、戦略情報システムだとかなんだとか言って、費用対効果に「?」マークが5つほど付くような導入するなど、IT村は“我が世の春”を謳歌したこともあった。「○×システムを導入しないと、企業は生き残れない」といった脅し文句が効き、システム部門は予算を拡大でき、ITベンダーもたっぷりと儲けることができた。

 つまり以前は、周りの無知に苦労もさせられたが、そのお陰で好き勝手もできたのだ。それに尊敬もされた。システム部門に対して「あいつら、何をやっているんだ」という陰口は以前からあったが、少なくとも「想像もつかないような難しい仕事をしている」という評価はあった。“無知から来る尊敬”があった。企業情報システム関連の業務は特別な仕事だったのだ。

 ところが、日本経済が失われた10年、あるいは15年の長期低迷に沈んだ頃に、企業情報システムのメッキがはがれた。「今まで経営に不可欠と聞かされてきたが、実は大して役立っていないのでは。そんなものに、なぜこんなにカネをかけるのか」と多くの経営者が思い始めた。自分が主体的に使えていないのだから、役立つも何もあったものではないのだが、経営者のこの意識の変化は大きかった。日本版の「IT does not matter.」である。

 結果として、ITに無知なまま経営者は、リストラの一環としてIT予算をバンバン削る。システム部門の人員も大幅に削減したことで、企業によっては「2007年問題」より一足お先にシステム部門が弱体化し、崩壊の危機に直面するところも出てきた。そのお陰で、自社のシステム開発に責任の取れないシステム部門が急増、すべてを低予算でITベンダーに押し付けた結果、失敗プロジェクトも続発し、裁判沙汰も頻発するようになった。

 一方、エンドユーザーはその間に、インターネットの普及によりITに対する知恵を付けた。システム部門と関わりのないところで、EC(電子商取引)への取り組みがスタートするケースも多かったものだから、ITが分かるエンドユーザーも大勢出てきた。ただ哀しいかな、彼らが分かったITとはインターネットのことであり、基幹系の情報システムのことではない。そしてITを分かった気になったエンドユーザーは、システム部門やITベンダーに対して自信満々に「なぜ、こんなことも出来ないんだ」と無理難題を言うようになった。

 結局のところ、一部の本物のIT先進企業を別にすれば、IT村の外では今も昔も企業情報システムに対する理解はほとんどない。米国に比べ日本では、企業情報システムに対する“無知から来る幻想”や、システム開発・運用という仕事に対する“無知から来る尊敬”が大きかったものだから、「IT does not matter.」の反動も極めて大きかったのだ。

 で、「これは誰の責任か」だが、「そりゃ経営者の責任でしょ」と言われてしまえば、それはごもっとも。だがシステム部門やITベンダーも、胸に手を当てて反省してみる必要がある。IT村の外に人々に、企業情報システムの本質や重要性をきっちりと説明してきただろうか。十分な説明責任を果たさず、経営者やエンドユーザーを理解の外においてきたから、今このような事態に立ち至っているのではないだろうか。

 広く世の中を見渡しても、企業情報システムに対する無理解は恐ろしいほどだ。世間でIT企業といえばコンピュータ・メーカーやITサービス会社のことでないことは、ライブドア騒動の時に身にしみて分かった。ITサービス業は就職先として学生に不人気というが、彼らだってプロジェクト・マネジメントなどの仕事の中身を知る機会がないまま放置されている。

理解されないと、企業情報システムの重要性も分かってもらえないし、その仕事に対する本当の意味での尊敬も得られない。そうなると、システム部門の解体は進むし、SE料金などは理不尽な水準に据え置かれ、若者もこの仕事に集まらなくなる。IT村の住人、特にITベンダーは周りの無理解を嘆いてばかりいないで、企業情報システムという仕事への理解を広く得るためにはどうすればよいのかを、そろそろ真剣に考えた方がよい。