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 企業のITへの取り組みには,明らかに間違いではないかと思われること,大いに疑問を挟む余地があること,あるいは大きな矛盾を感じることが少なくない。特にユーザーの立場で見たとき,経営者やシステム構築側からは見えにくいことがよく見えるものである。

 筆者はユーザー企業の中で,ユーザー部門を中心に活動し,システム部門も若干経験した。さらにユーザー部門に所属しながら,システム部門から長年見放されてきた非量産型の生産管理システムを自ら構築した経験もある。ここでは,そういうシステム部門も経験したユーザーの眼で,企業IT化の間違い・疑問・矛盾を容赦なく抉(えぐ)り出し,実態をあらわにしつつ,その原因と対策の提示を試みたい。

 内容としては,SIベンダーやユーザー企業システム部門のマネージャー・SEがからむ実務的テーマから,トップがからむ経営的視点のテーマまで,多方面にわたって取り上げていきたい。

 今回は,最近マスコミを賑しているM&A(企業の合併・買収)を取り上げよう。まずM&Aには,どんなケースがあるのか。そして,M&Aの際の肝心のIT統合はどうなっていて,どうあるべきなのか。次々押し寄せる話題のM&Aや筆者が経験した生々しい例を取り上げながら,M&AとIT統合との関連などを分析していこう。

IT統合を誤ると致命的結果をもたらす

 今年に入ってからでも,いくつかのM&Aが発表されている。例えば,合同酒精は北の誉酒造を買収し,販売拡大・コスト削減などシナジー効果を狙う。業績不振の松坂屋は,経営統合によって「勝ち組」の大丸にビジネスモデルを学ぶ。一方,東京鋼鐵と大阪製鉄の経営陣で合意したM&Aが,株式交換比率に不満があって株主総会で否決された。ハウス食品やJFEが,買収防衛策を導入したという例もある。サッポロビールも,スティール・パートナーズの買収提案への対抗策として,先の株主総会で「事前警告型の買収防衛策」の導入を可決した。今後スティールの対抗措置も考えられ,アサヒビール との経営統合模索と合わせて,その周辺はかしましい。

  このようにM&Aには,いろいろなケースがあり,特にIT統合の観点から見ると,様々な困難を伴う。

 余りにも有名な「みずほ銀行(第一勧銀,富士銀,日本興業銀の合併)」と「東京三菱・UFJ銀行」合併時の情報システムトラブルの例から,M&AにともなうIT統合の概要を振り返ってみよう。

 みずほ銀行の場合,当初,各行は自行のITシステムに一本化しようと企んでいた。だが,どの銀行も譲歩しなかったため,結果として各行のシステムをそのまま稼働させて,それぞれのホスト・コンピュータをオンライン接続して運用することになった。だが,実際に運用が始まってみると,ホスト間の通信はビジーになり,2002年4月1日の合併当日にATM停止,公共料金二重引き落としなどの大規模システム障害を引き起こした。この結果,勘定系の統合は予定より1年以上も遅れることとなり,同行はIT統合に数千億円・数万人月を投入したとも言われている。

 このときの教訓から金融庁は,三菱東京UFJ銀行の合併においてコンピュータ・システムの統合準備が不十分と見ると,合併期日を当初予定から3カ月延期して,2006年1月とするよう指導したという経緯がある。

 一方,JFEスチール(川崎製鉄とNKKの合併)は,合併を単なる組織統合と捉えるのでなく,この機会にITシステムを再構築し,経営基盤を確立することで経営意思決定を迅速化することを目指した。合併して当面は両者システムを並存させ,データ統合については別途考慮して,成功させた。

 M&Aに伴うIT統合は極めて重要であり,IT統合を誤ると致命的結果をもたらすことになる。

“企業価値向上”のお題目で信じ難いM&Aが存在する

 次に,小規模ながら筆者の経験を紹介しよう。

 ある時,大企業A社はグループ会社の合理化による企業価値向上を目指して,子会社B社とC社を合併させた。しかし,これが“企業合理化”という名の人身御供であったことが後日判明する。そもそも合併した2社は技術・営業面で接点に乏しく,木と竹を繋いだような合併だった。

 合併後「シナジー効果」が機会あるごとに叫ばれたが,技術的交流はなく,営業部門も各地で2社が寄り集まっただけ。間接部門の統合も進まず,コンピュータ・システムも一本化できなかった。合併とは名ばかり,一つの社名のもとに二社が実質的に並存する状態となった。そして,合併3年後,B社とC社はまた分離された。分離の理由は,合併前にC社が独自に分析していたものと寸分違わなかった。合併期間中,C社は市場で専業メーカーという分類から外されて,営業面で回復不能の傷を負った。こういう信じ難いM&Aが,現実に存在する。

 もう一例。小規模な情報機器メーカーD社,E社,F社が,企業規模の拡大による収益性向上を目標に合併した。3社は対等合併と公表していたが,実質的には相対的に規模の大きいD社がE社,F社を吸収合併した。3社の中で何をコアにして行くべきか不明確なまま,人事も業務ルールもD社優先となり,E社,F社のわだかまりが根深く残った。

 コンピュータ・システムについても,3社のシステムの現状や問題点が調査されたが,E社,F社の要望は無視され,ある日,一方的にD社システムに1本化するという説明会が開かれることとなった。E社,F社はD社システムの適用を強要されたが,D社システムでは製品の受注や仕込み方式などで自社の事業の特徴を生かすことができない。このため,旧システムを密かに平行して走らせることとなり,E社,F社の関係者の手間は倍増した。

 以上の例から,M&Aの際のIT統合の問題点とポイントを整理しよう。

 まず,いずれの例についても言えることは,企業内のシステム・ユーザーや企業の顧客という最終ユーザーを無視した方針決定である,ということである。加えて,企業内システム部門にとっても迷惑な話である。

 みずほ銀行は,ITについて合併前の各行の自己主張が強く,結果として大きなトラブルに見舞われた。ビジョンの欠如である。これを教訓として,三菱東京UFJ銀行の合併が延期された。

 A社傘下のB社とC社の合併は,グループ会社の合理化を取り繕うための「建前」の合併であり,合併に対する「ビジョン」のかけらもなかった。D社,E社,F社の場合は,互いに企業文化が合わず,利害が対立し,勢力争いが起きた。営利を追求する企業グループでありながら,まるで運命共同体における争いである。この結果,ITは翻弄される。そもそもM&Aの際,ITは重要視されないし,M&AにともなうIT統合は通常,M&Aが公表されてから動き出すので,時間がなさ過ぎる。しかも,IT部門には何の権限もないから動きにくい。

 内閣府の「M&A研究会」が挙げるわが国におけるM&Aの課題の中にも,「ビジョンが不明確」,「運命共同体間の争いになる」があり,注意を喚起している。

 以上から言えることは,次の3つである。

  1. M&Aにはビジョンが不可欠である
  2. 適切なITがM&Aの鍵を握る(M&Aに失敗した経営者の75%が,IT統合を軽視していたとさえ言われる。出典:「CIO Magagine」2002年11月号)
  3. M&Aは,むしろIT抜本改革の絶好の機会と捉えるべきだ

 これらの基本的考え方に立って,具体的なIT施策として次のようなものが考えられる。

  1. M&A後の会社の経営戦略と整合性をとって,IT戦略を立案する(前述のように確かにシステム部門に権限はないが,それを言っても言い訳に過ぎず,それを克服するために「戦略」の適切な立案が一層求められる)
  2. 時間が限られるので一刻も早く取り掛かる
  3. 機能・品質・コスト・期限・ライフサイクル・保守性などに優先順位をつけ,段階的に取り組む
  4. 基本的にIT統合に影響を与える企業文化の統合が必須で,その推進体制をとる