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 この4月から意匠法が改正されて、「画像」が意匠の保護対象となった。

 さて、この改正の意味するものは?

 ちまたに溢れている「画像」。これが全て意匠の対象となるのか・・・?もしそうだとしたら世の中画像の意匠権で溢れかえり、大変なことになるのでは?

そもそも「意匠」とは何か

 さて、議論を始める前に、そもそも「意匠」とは何だろう。

 「意匠」とは平たくいうと、デザインに関する権利だ。ただし、単なるデザインではなく、「物品」と結合したデザイン、つまり工業デザインではなければならないとされている。

 どうしてこんな権利があるのか。それは、一つの工業デザインを創作するためには、技術開発と同じくらいに多大な費用がかかるからだ。

 自動車会社には技術開発部と同じくらい重要な位置づけでデザイン開発部が存在し、一流の芸術系大学を出たデザイナーが何名も在籍しているという。

 なぜか。いくら性能がよくても、かっこ悪い自動車は売れないからである。つまり、特定の市場においては、デザインは技術以上に売れ行きを左右することがある。

 そんなに苦労して創作したデザインがもし、簡単に模倣されてしまったら・・・あなたがデザイン開発に投資した経営者だったら、それは絶対に許せないだろう。

 これが、「意匠」「意匠権」の存在理由である。つまり、新しい意匠について特許庁で登録を受ければ登録日から20年間はそれを独占使用できるのである。

 他方、このような趣旨からすれば、工業デザインではないデザイン、つまり、物品と結合していないデザインは少なくとも「意匠」としては保護とする必要は低い。

 そういうこともあり、法律は意匠を「物品の形状、模様、色彩」と定義した。

意匠法第2条1項

 この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。・・・)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。

 さて、法律とは一つの論理体系でもある。そこに突然変異は予定されていない。

 従って、新しく認められた画像の意匠も、このような伝統的なコンセプト/意匠の定義の延長線上で考える必要がある。

 このような趣旨から、今回、画像の意匠については、以下のように規定された。

意匠法第2条2項

 前項において、物品の形状、模様、若しくは色彩又はこれらの結合には、物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る)の用に供される画像であって、当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるものが含まれるものとする。

 賢明な読者だったらもう答えがおわかりであろう。

 「ゲームの一画面」は残念ながら意匠の対象ではない。なぜかというと、ゲームの一画面は物品と結合していないからである。また、ゲームの一画面はそもそも「物品の操作の用に供される画像」にも該当しない。

 うん?なんだ・・せっかく「画像を意匠で保護」とか言いながら、なんだか狭いぞ?

 そう感じた読者の方は直感力の優れた方である。

 特許庁に対する代理人の団体である日本弁理士会から発行された解説を読むと以下のような注意書きが記載されている。

対象とならないものの例

・壁紙など、表示部を装飾するための画像・・意匠法2条2項の「操作の用に供される画像」に該当しない。
・OSにより表示された画像やインターネットを通じてコンピュータに表示された画像など・・意匠法2条2項の「当該物品(コンピュータ)がその機能を発揮できる状態にするため」の画像に該当しない。

 それじゃ、何が対象になるんだ・・?

 もっともな疑問である。

 「ゲームの一画面」は保護対象ではないけれど、「ゲーム機本体の設定用画像」はどうか?ゲーム機は初期設定をしなければならないから、意匠法2条 2項の「操作の用に供される画像」にも「当該物品(ゲーム機)がその機能を発揮できる状態にするため」の画像にも該当するのではないだろうか。

 他にはどういうものがあり得るか。

 例えば、オーディオ機器の音量やバランス等の設定用画面、電子レンジの調理時間や温度などの設定用画面、携帯電話の初期操作用画面などなど・・・

 ここで皆さんの部屋を見回して欲しい。該当しそうなものはずいぶん見つかるだろう。

操作画面の意匠による独占が可能に

 さて、それではこの改正の影響は?

 例えば、全く新しい商品を販売する局面を考える。新しい商品だから、その商品に対応した操作画面が必要なはずである。今までだったら、いくら視認性・操作性・デザイン性のよい操作画面を作成しても、これを意匠によって独占できなかったから、後発のメーカも似たような操作画面を採用することができた。

 しかし、今からは操作画面を意匠により独占できる。視認性・操作性・デザイン性のよい操作画面を意匠により独占してしまえば、競合メーカは視認性・操作性・デザイン性のよくない操作画面に甘んじるか(これは売れ行きを左右するだろう)、同じくらい視認性・操作性・デザイン性のよい操作画面を開発するために追加コストを投資したり、上市の時期を遅らせなければならなくなる。

 一つの意匠では十分な保護範囲が得られないとすれば、技術開発の世界で大手電機メーカが中心に特許で行っているようなポートフォリオ戦略、つまり、数十もの意匠を獲得するような「画面意匠ポートフォリオ戦略」が展開されるかもしれない。

 そうだとすると、今まで権利保護に対して無頓着・無関心・無関係だった「画像設計」に携わるエンジニアも安穏としていられない。

 なぜならば、操作画面の意匠戦略が企業の浮沈を握るかもしれないからである。

◎改正の詳しい内容
特許庁審査基準(パブリックコメント版)