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 世界のIT市場はソフトウエアのコモディテイ化が進み,単価下落によりソフト製品の売上が減少し,代わって伸びているのがサービスだそうです。サービスとはコンサルティングやインテグレーション,保守です。

 ソフトウエアやパッケージの販売は規模の経済が働きます。一度作ってしまえば複製コストはタダ。たくさん売れば売るほど儲かります。市場もキャピタルも,ソフトやパッケージ売りのビジネスモデルは成長性がある,と高く評価していました。

 翻(ひるがえ)って,個別ユーザー対応のサービス・ビジネスは労働集約的で利幅が低い。米国のIT業界がどちらかと言うと苦手とする領域です。しかし,サービスには継続して安定した収入が入ってくるというメリットがあります。日本は,特定顧客向けのカスタム・オーダー対応のような鬱陶しいインデグレーションが得意ですし,それが強みでもあります。厳しいユーザーのお陰で,品質もずば抜けています。

 米国と日本では,得意技がこのように違います。日本が,モジューラ型やプラットフォーム型のビジネスや製品ビジネスを苦手とするように,米国もパッケージ売りからサービス・保守ビジネスへの転換は容易ではないのです。パッケージ・ビジネスは,特定の機能に関するプロダクトの開発に集中できますが,サービス・保守ビジネスは,顧客のあらゆる要望や問題に対してトータル・ソリューションを提供しなければなりません。そのため,顧客密着型の手厚いサポートが必要になります。

 特定ユーザーのニーズを正しく把握し,短期間でタイムリーにシステムを開発し提供する能力,特に要件の曖昧性からくる難しさを解決する能力は,システムの規模が大きくなるにつれて幾何級数的に増加します。大規模システムの開発を高い品質で成し遂げることは極めて困難であり,そのための労働集約的な現場作業をこなす“能力”について,日本はダントツです。

 特定クライアントへ高度なサービスを提供するビジネスでは,経験に裏打ちされたノウハウが,提供するサービスの質を決定します。このようなノウハウ獲得は一朝一夕では無理であり,クライアントとの長期にわたる質量とも豊富な関係性が,高品質サービスの摸倣困難なノウハウを醸成します。ですから,日本のシステム・インテグレータは,世界のITサービス市場において圧倒的に優位に立っているはずなんですが…。

顧客密着型の「ノウハウ」って何でしょうか?

 徹底した顧客密着型で,顧客からの度重なる要求変更にも短納期・低コストで対応することが価値ならば,優秀なSEを宥(なだ)めすかし,煽(おだ)て,脅して,こき使うことができるシステム・インテグレータは,何らかの「ノウハウ」を持っていると言えるでしょう。大規模プロジェクトで,仕様変更をフォローするためのコミュニケーションは,要素(人)数の二乗に比例しますから,凄まじいオーバーヘッドになります。最小のドキュメントでパフォーマンスをいかに上げるかについては,プロジェクトマネジメントの知識体系であるPMBOKにも書いてありません。

 ただし,こうした労働集約的な現場に“きつい,給料が安い,帰れない”とか,“きつい,きりが無い,気が休まらない”といった3Kが発生するのは必然です。そんな厳しい3K環境でありながら,優秀なSEのモチベーションを下げない,なおかつ離職率も上げないにはどうすれば良いのか?私には,宗教的洗脳ぐらいしか思いつきません。日本のシステム・インテグレータはひょっとしたら,宗教法人なのか?そうでなければ,SEはすでにモチベーションを喪失しまっているのか?あるいは,優秀なSEはすでに離職して,転職先を見つけられなかった優秀でないSEだけが残っているのか?

 話を戻します。IT構築力は重要です。しかし,リスクヘッジの視点からIT構築にだけ集中してきた今までの戦略が,新たなリスクを発生させているのです。PMBOKや契約問題や開発方法論やテクノロジはそれらの解決策ではありますが,限界があります。

 「世界へのマドルスルー(4)」で,日本製造業が製造部分(現場)を中国その他にアウトソースして設計開発部門との擦り合わせがスムースにいかなくなってしまったことが,失われた15年の一因だったと指摘しました。ソフトウエアのオフショア開発も(今は発展途上ですが),間違いなく製造業と同じ道を歩みます。つまり,コモディティになっていくミドルウエア,ツール,パッケージの開発や組み込みには有効でも,意図的に工程を重複させることで相互インターアクションを活性化させて“創発”を起こさせる,インテグレーションやソリューションの根本的解決策にはならないでしょう。

 前回取り上げたように“顧客価値”とは,「正しい仕事を行なう:Do The Right Things」ことです。赤字プロジェクトは撲滅するものではなく,顧客とWin-Win関係になり,ライフサイクルを通した顧客のIT戦略パートナーとなって制圧するものです。制圧とはコントローラブル(制御可能)とすることです。ビジネス戦略の視点からは,赤字プロジェクトになっても挑戦しなければならない戦略プロジェクトがあります。それが結果として,顧客とのWin-Winな関係を深めます。“お客様は神様です”というような自尊心のない上下関係は,顧客にもプラスになりません。それに「何を作るかのRequirements」をお客まかせにしている限り,SEは3Kからは抜け出せません。

 顧客との間に「ITがツールとなって顧客ビジネスの価値向上に寄与する」という価値観の共有と認識があるからこそ,SEはモチベーションを喪失せず,山頂を目指す厳しい登攀(とうはん)を続けることができるのです。

 システムとは異なる要素が有機的に組み合わされた全体系です。部分に分解できません。ITの対象であるビジネス領域も,多種多様な要素が有機的ダイナミックに組み合わされた複合的で複雑な系です。そんな対象に対応するのがSEです。ITSS(ITスキル・スタンダード)はIT技術者に求められるスキルを要素技術に分解したものですが,それらを個別に学んだところで個のボトムアップにはなっても,統合力で顧客の問題を発見し解決するスーパーSEにはなれません。インテグレーション・サービスのノウハウとは,知識・経験の質・量を糧として,顧客の様々な問題や要望に,要素技術を統合し包括的に対応できるスキルなのです。

 知識やツールやメソッドの単なる使い手では,問題は解決できません。どんな考えや方法論がどんなときに有効かを,経験や直観に基づいて判断できなければ役に立ちません。これは,形式知に表現できない暗黙的スキルです。日本のITベンダーは,鬱陶しいインテグレーション・サービスでは,少なくとも先頭集団に位置しています。

 開発の超上流とは,コンサルタントが担当するビジネス上流の戦略領域ではありません。豊富なメソッドや方法論をロジカル思考で使いこなすだけの似非コンサルも少なくない世界です。翻(ひるがえ)ってビジネス中流とは,経営ニーズと現場ニーズがぶつかり合い,様々なステークホルダーが合流し葛藤対立する領域です。ここでは,総論から各論にブレークダウンしなければならず,適当な方法論はありません。今まで,あえてリスクヘッジしてきたこの“ビジネス中流”にSEが勇猛果敢に参入し攻め上がることが,世界へのマドルスルーを実現します。

 世界のIT市場が個別ユーザーのインテグレーションやサービスに転換してきたのは,日本のシステム・インテグレータにとってチャンスなのです。そのためにも,SEはビジネス中流に責任を持って参画しなければなりません。