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 「志を持ってやるということで、組織の名称を付けた。イノベーションの中身はこれから考える」。野村證券などを傘下に持つ野村ホールディングスでCIO(最高情報責任者)を務める中村明彦常務執行役は、07年4月1日に新設したITイノベーション推進室の狙いを慎重に語る。

 同社向けシステム開発・運用などを担当する野村総合研究所の担当者を同室長に据え、全く新しいIT活用方法を検討していくことになるが、中村氏は「Aの次はB、そしてCになるという延長線上で物事を考えてはいけない」と言う。96年10月に本稼働させた野村證券の次世代システム「野村BPR」(通称)と同じような考え方ということなのだろうか。

 野村BPRを簡単に説明すると、サービスの提供形態や業務のやり方などを根本的に見直すための新形態のITシステム。野村證券は第1次オンライン、第2次オンライン、第3次オンラインを経て、第4次オンラインの開発に着手すると見られていた。だが、従来の延長で開発を進めるには準備期間から構築まで10年、3000億円かかるという巨大な投資が必要なってしまうかもしれないと言われていた。証券を取り巻く環境変化からも投資を大幅に抑える必要もあった。そこで、メインフレームからのダウンサイジングと、まだ普及していなかったパソコンを導入。ほかにも先端技術をふんだんに活用しながら、開発期間2年半で運用維持費を従来の半分の約300億円にしたのが野村BPRだ。

 「ダウンサイジング、PC導入など絵に描いたような最新技術を取り入れたが、フィールドはあくまでも社内だった」(中村氏)。対面サービスをメインとするビジネスだったので、ITシステムは営業店の担当者らを支援する仕掛け作りだったということだ。現在も対面サービスは重要なものの、インターネットからのアクセスや仲介業の登場など新しい取引方法が出てきている。07年2月に買収を発表した米電子証券取引所大手のインスティネットも証券取引所外での取引に対応するものだし、ネットビジネスの広がりに対応するために、先にジョインベスト証券に対する300億円の資本増強も実施している。その多くはIT投資になるという。

IT活用の抜本的な見直し?

 こうした市場環境の変化にも対応したITシステムが求められているというわけだ。「技術革新とビジネスの両面をたしたITインフラを考えることだ」と、中村氏は語るが「イノベーションの中身は白紙」とする。だが、野村BPRから10年が経過した今、運用を含めて大きく見直す時期に来ているのは間違いない。そこで、03年から次世代システムの開発に着手し、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)やSOA(サービス指向アーキテクチャ)などを取り入れ、リアルタイムな勘定系システムを作り上げている。

 だが、これはIT技術のトレンドにそった動きに見える。中村氏が指摘するようにAからBへという流れ、つまり想定内の対応策といえるので、ITイノベーション推進室はその先を考えることになるのだろう。「本当にこのままでいいのか」ということが根底にあれば、抜本的な見直しが求めらることになるだろう。

 中村氏は「イノベーションには2つの意味がある」とする。1つは、新しいIT技術の導入、つまり、ITインフラを革新すること。一般的な考え方である。もう1つは、ITの側面からビジネスを見ること。つまり、新しいビジネス分野を見つけ出すことだ。「今のITの特長は、極めて顧客、マーケット、社会に密着している。例えば、インターネットならグーグルの検索技術などが出てきているし、SNSがコミュニケーションのインフラになってきた。ブログのような個人の情報発信インフラも出てくるなど、革新的なものが登場している」(同)。

 こうした新しいIT技術の活用が新しいビジネスを生み出す可能性を秘めているというのだ。「ITを活用して、自らのITインフラを革新するとともに、新しいビジネス分野を探すことだ」(中村氏)。だが、自前で一からすべて開発する方法を続けられるのか。2年も3年も開発期間をかけていたら、ITシステム完成時に世の中が変わっているかもしれない。そんなことを考えておく必要もあるだろう。つまり、ITシステム構築に時間とコストをかけるという旧態依然の発想を転換することが、イノベーションの大きなカギを握るように思える。

 それに伴って、従来のIT組織であるグループIT戦略部の名称をITリスク統括部に変更した。「同部でITイノベーションを計画・実施する選択肢もあるが、時代の要請でITのガバナンスが強く求められている。内部統制もある」(中村氏)。そこで、ITリスク統括部がITガバナンスを、ITイノベーション推進室が新技術の導入による新しいビジネスへの取り組みを担当する。「ガバナンスの観点からすると、2つの機能は牽制し合うもの。きっちりと統制する組織と、新しいことをやる組織を分けたほうがいい」(同)と判断し、執行する側とガバナンスする側に分けたわけだ。

 「社会構造も変化しているし、技術もマーケットも変化している。そうした変化にビジネスを適合させていくことだ」と、中村氏はCIOの役割を語る。IT活用、ITシステム構築でどんなITイノベーションに実行しようとしているのか、注目したい。