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 本年4月以降に発売される第三世代携帯端末には全地球測位システム(GPS)機能が搭載されます。そこで日産自動車はNTTドコモの技術協力のもと,携帯をもつ歩行者の位置情報を運転手に知らせる高度道路交通システム(ITS)の検証実験を始めました(日経新聞4月18日付)。

 これは科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)の「安全・安心な社会を実現するための先進的統合センシング技術の創出」という研究領域(総括・板生清)における「移動体センシング技術」(チーム代表 佐藤知正・東大教授)で昨年来研究を進めてきた「お守り携帯」という研究成果の実証試験でもあります。詳しくは発表の時期が来た時に述べたいと思います。

“見えない相手”を事前に察知して注意を喚起


カーナビの画面に,「この先,左に車がいます」と注意喚起の画面が音声とともに表示される。同様に,ドライバーの状態に合わせて,信号機や一時停止などについても注意を促してくれる
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道路脇のポールに設置された光ビーコンが車両を検出する
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受信装置は,渋滞情報を取り込むVICS用の市販の車載機を用いている
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 さて,もう一つ,最新の『ネイチャーインタフェイス』に掲載した日産自動車の「SKYプロジェクト」実験についてご紹介しましょう。これは2005年度から神奈川県横浜市で取り組んでいる大規模実験です。

 SKYプロジェクトでは,ドライバーが肝を冷やす様々な場面―――交差点で死角から飛び出してくるバイクや自転車,あるいは,夜道で黒い服を着て道路を横切る人,見通しの悪い四つ角で突然飛び出す車など,<見えない相手>を事前に知って事故を防ぐ試みです。

 その仕組みは次のようになっています。車道脇の高さ5メートルほどのポールに光ビーコン(赤外線を使った車両検知技術)を設置し,それが双方向から来る車を検出して相手方の車両に無線通信で知らせます。車には事前に市販の受信装置を取り付け,カーナビにソフトをインストールしておく必要がありますが,新型車両には,すでにメーカーオプションナビが搭載されており,インストールはたったの10分。利便さも年々向上しているようです。

 SKYプロジェクトがユニークな実証実験であるのは,実際に周辺住民が参加し,しかも日常生活のなかで(実験を意識をすることなく)ドライバーとして現場に臨み,注意喚起システムの作動ぶりを体験していることです。2006年の実験開始以来,すでに1000人が参加。今年度中に2000人の参加を募ります。

 注意喚起システムは,相手の車を検知すればいつでも自動的に作動するというのではなく,ドライバーが相手の車をすでに意識してスピードや位置,ブレーキやアクセルの操作を加減している場合は,注意喚起情報を流さないのです。いつでもどんな状況でも情報を流すとドライバーは煩わしく感じるだろうし,そのことがシステム活用を不要にしてしまったら元も子もないというわけです。それにしても,注意喚起システムが人間の心理状況をも読み取るとは!

 ただ,目下のところ,車の全自動運転の実現は不可能なようです。一般道路でこのようなシステムを作動させるには巨額の費用がかかるし,ドライバーや社会の受容性,コンセンサスも得なければならないので,このシステムはあくまでもドライバーに注意を促す補助的な位置に収まりそうです。

子どもの見守りや渋滞緩和の試みも

 SKYプロジェクトはまた,子どもを見守り,道路の渋滞を減らす試みもしています。2005年度,横浜市青葉区の児童200人にICタグを持たせ,親の車や地域を走る車100台に通信装置を取り付け,タグを持った子どもが車に近づくと「子どもがいます。注意してください」と呼びかける。それだけで,多くのドライバーがスピードを落としたり,慎重に運転したりするという効果が生まれたとのこと。他方,渋滞緩和のための実験では,5分に一度の間隔で車から発信される位置情報を吸い上げることで効果が見られています。

 渋滞解消の具体的な方法としては,実際,カーウィングス会員(携帯電話を利用して多彩なサービスが受けられる日産独自のサービス)の車両および登録している顧客から発信される位置情報をもとに,過去の統計情報から全体の交通量を予測し,ドライバーに最適ルートを知らせています。同時に,神奈川県警で交通管制に活用し,交通のマネジメントを行っています。

 このような無線通信の特徴は,まばらな点の状態にある情報を,統計や予測情報を使って街全体の渋滞状況を面として把握し,しかも,ほとんど瞬時に,リアルタイムに情報をドライバーにフィードバックできる点です。

 2008年度には政府主催の大規模実証実験が予定されているそうですが,無線通信技術を用いて,狭い日本の道路を上手に交通整理することで,大人も子どもも安全・安心に過ごせる街づくりを促進したいと願っています。日産自動車のこのようなプロジェクトは,その先駆けといえるものでしょう。

 関連記事の詳細は,『ネイチャーインタフェイス』の第33号でご覧いただけます。

 なお,本記事は,著述家でネイチャーインタフェイス誌編集協力委員の大峯郁衣氏に寄稿していただきました。