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 日本のIT業界に少しでも関わる人であれば――いや,一般ユーザーでも,日本のITは「輸入超過」であることはすぐ理解できることだろう。電子情報技術産業協会,日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会,情報サービス産業協会は「2005年コンピュータソフトウェア分野における海外取引および外国人就労等に関する実態調査」という報告書を出している。これによると,ソフトウエア(ゲームソフトを除く)に関する日本の輸出額は約320億円。一方,輸入額はなんと約3645億円である。実に10倍以上の差をつけられていることになる。

 そうした現状を認識した上で,外資系ソフト・ベンダーが開発したソフトの販売にかかわる報道を見ていると,一見つながりがなさそうな事象も,一本の線にあることが分かってくる。

 NTTデータは4月19日,日本郵政公社から郵便局株式会社の顧客情報管理システムを落札したと発表した(関連記事)。このシステムに使うのは,「SaaS」の代表格として謳われるセールスフォース・ドットコムがSaaS形式で提供するサービスである。NTTデータがセールスフォースのサービスを日本郵政公社に再販する形を採っている。

 筆者はこのニュースとNTTデータの報道発表資料を精読した。そして,これまで業界内で何度も発生してきた問題が,いずれセールスフォース・ドットコムに降りかかるのでは,と思い描いた。その問題とは何か。CRMアプリケーション・ベンダーのマーケティング・チャネル問題である。

論争のタネだった直販指向

 1996年前後,CRMアプリ大手の米シーベル・システムズ(その後米オラクルに買収された)の製品を日本に紹介したのはCTC(伊藤忠テクノサイエンス=現・伊藤忠テクノソリューションズ)だった。これは,CTCが早くからCRMアプリの市場性に注目して,シーベルの創業時から関与していたからである。当然,CTCが日本での販売元になった。

 しばらくしてシーベルはコンサルティングとトレーニングを提供する目的で,子会社である日本シーベルを設立した。その結果,CRMアプリに関心を抱く見込み顧客からの問い合わせは,販売元のCTCではなく,日本シーベルに頻繁に寄せられるようになった。

 この時期,日本シーベルの顧客は二種類に分けられた。一つは,CRMアプリを使いたいと考えているユーザー企業。もう一つは,CRMアプリを商品として販売したいと考えるシステム・インテグレータ(SI)だった。

 日本シーベルは再販を希望するSIに対しては,「シーベルのCRMアプリを自社で導入することを条件に再販の契約を結ぶ」という方式を採用した。いくつものSIが,シーベル製品を販売したいという理由でライセンス契約した。SIはSI自身でユーザー企業に採用と導入を働きかける。一方,シーベルに直接声をかけたユーザー企業に対しては,シーベルがSIに紹介する。このような形を採ることになっていた。

 後に述べるが,しばらくしてからシーベルとSI双方でぎくしゃくする事態が生じた。SIとシーベルで標的顧客が重複したことだった。また,マネジメント・コンサルティングの必要性と重要性を両社ともにほとんど認識していなかった。

 ただ,このような再販方式は日本市場に特有のもので,北米市場や欧州市場とは異なっていた。米国や欧州では,シーベルは直販で製品やサービスを提供していた。

 日本におけるシーベルのライセンス数は主要なSIとの再販契約によって,見かけ上急激に伸びた。だがSIの中には,ライセンス契約をして費用を払うけれども,シーベルを使わないで店晒しにしていたところもあった。そのことが米シーベル本社の経営陣には異様な事態と映ったようだ。

 「シーベルのCRMアプリを販売することが利権化してしまっている。これでは製品の販売(顧客の獲得)は伸びない」。米シーベルの経営陣はこう考え,日本シーベルに対して「顧客を自らの手で探し出し,製品を販売せよ」と指示を出した。

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