PR
 米国カリフォルニア州マウンテンビュー市にあるComputer History Museumで,最も有名な初期のマイクロプロセッサに関する「Video Oral History」の収録が始まった。収録される資料は,将来の展示品として使われ,歴史家や研究者やWebを介して一般の人にも公開される予定とのことである。

 Computer History Museum は,米DEC(Digital Equipment Corporation)のDigital Computer Museum として出発し,25年以上前に米国ボストン市にComputer Museumとして開設され,さらに,1996年にComputer History Museumと改名され,2002年にマウンテンビュー市に移転した。Computer History Museumのホームページにアクセスするとコンピュータに関連したいろいろのことに出会える。ガイド付きのToursでは,運が良ければ,SPARCプロセッサの開発者がガイドをしてくれるかもしれない。

 インテルの元副社長であったハウス(Dave House)氏が,非営利の団体であるComputer History Museumの副会長兼マイクロプロセッサ委員会の共同議長として力量を大いに発揮している。今回はマイクロプロセッサに関する収録であったが,さらに献金を集め,メモリーなどへ,徐々に収録する分野を広げていく予定とのことである。

 マイクロプロセッサを市場に登場させるためにはチームとしての努力が必要だったこともあり,開発部門,生産部門,マーケッティング部門における主要な貢献者を集めて,チームとしての物語を収録することになった。

 今回のVideo Oral Historyでは,8080開発時に私のインテルへの参加を勧誘した元インテル・マーケッティング・マネージャーのゲルバック氏も出席した。前マーケッティング・マネージャーのスミスがマイクロプロセッサのビジネスを発進させ,ゲルバックが育て,ハウスが成長を加速させた。昼食では昔話に花が咲いた。

 収録に当たって,出席者は,事前に打ち合わせて統一させたストーリーを展開することを禁止された。いくつかのストーリーがあったのが当然だということで,事実に基づいた発言を要求された。このあたりが米国のフェアなところだ。    私へのVideo Oral Historyの出席要請は,昨年の11月中旬に始まった。ちょうどその頃に読み直した本がある。その本が私の背中を押したようだった。エピローグが1957年に書かれた“W・S・チャーチル著の「第二次世界大戦」(佐藤亮一訳,河出書房新社)”である。チャーチルの記録への執着は“すごい”の一言である。誰が何をしたか,誰が何をしなかったのかなどが克明に書かれている。読み始めると途中で止められない本である。訳者あとがきで引用したチャ-チルの「過去に深い考慮を払うことが,来たるべき日の手引きとなり,新しい世代をして過去の誤りを幾らかでも是正せしめ,こうすることによって人間の必要と栄光に従い,未来の恐るべき光景の展開を抑制できることを,私は心から願っている」は至言である。

 私が1992年3月に筑波大学で中澤喜三郎教授の指導下で工学博士号を取得したときのことである。中澤先生に言われたことがある。“20年も経つと他人がやったことも自分がやったと勘違いする人が多い。自分のやったことだけを書くこと”も至言である。    4004,8080,Z80とZ8000に関するVideo Oral Historyの収録は,4月25日から3日間かけて行われた。英会話を忘れつつあった私は出席を躊躇した。しかし,昔世話になった元インテル副社長ハウスの昨年11月からの要請,質問表の前もっての準備,英語原稿の画面下部への表示,渡航費用の負担,日本の連休前の収録,4004開発に関するIEEE-Solid State Circuits Society(SSCS) Newsletterへの寄稿など,外堀を次々と埋められ,断る理由がなくなってしまった。私が何をどのように開発したかの詳細を明確に歴史に残すために出席した。英語は声が大きいだけで上手くなかったが,言いたいことは通じたかもしれない。

 4004の開発では応用から要求された命令の進展と回路・レイアウト設計を考慮した論理設計を,8080の開発では8008への不満からの仕様決定と短期間での開発方法を,Z80の開発では8080との互換性を保ちつつ高性能化を目指した仕様とハードウエア・アーキテクチャに関して8080と如何に違いを出したかを,Z8000の開発では4MHzの動作周波数で5MHzの8086に打ち勝つ命令フォーマットと命令の決定方法などについて話したつもりである。

 私は,仕様書や設計報告書の作成,本や記事の執筆,インタビュー,講演,博士論文などで記憶を保ったためか,38年前のことも大分覚えている。Video Oral Historyの収録を始めると,首を傾げたくなるような発言も出た。やったことのある人は自分のやったことを話したが,自分がやってないことをやったと言う人が一人だけいた。困ったことである。

 収録が公開されたら画面下部に表示される英語原稿だけに集中してください。また,最後に載せてあるハウス氏のメッセージを読んでください。


図1:4004と8080のVideo Oral Historyへの出席者。名前は左から。ハウス氏は中段の写真の右端(クリックすると拡大表示します)

 4004のVideo Oral Historyでは,探していた資料が出てきた。1969年末に私が作成した4004システムの機能仕様書であった(4004システムの機能仕様書の一部は“世界初のCPU「4004」開発回顧録(8)”で紹介した)。


図2:Dave House氏

Shima-san,

 Thank you for participating in the video recording of the team histories of the 4004, 8080, Z80 and Z8000 microprocessors this past week at the Computer History Museum in Mountain View California. I hope you had a safe and uneventful return home. These team video histories would not have been complete without your participation and they confirmed the important role you played in the definition and design of these early microprocessors. For example, after working together with Federico Faggin to design worlds first microprocessor, the 4004, you designed the 8080, Z80 and Z8000 almost single handedly. While today’s microprocessor designs often are the work of hundreds of engineers, when you designed the Z8000 you may have been the last person to design a significant commercial microprocessor almost entirely by yourself. We were fortunate to assemble the key players of these teams and capture the video histories while we still could. These video histories are now part of the Computer History Museum’s permanent collection and will be utilized in many ways in the future.

 The Computer History Museum was founded over 25 years ago and today houses the largest collection of artifacts of the information age. For more information see www.computerhistory.org. When you and I were born there were no electronic computers in the world. Today the majority of all products that have a power cord or battery seem to have a computer inside and that trend is increasing. This transformation happened during a single lifetime and was largely made possible by the microprocessor. You played a critical role in creating the first microprocessors. Thank you for your support of this important historical effort.

Dave House
(Retired) Senior VP Intel
Vice Chairman, Computer History Museum
Co Chairman CHM Semiconductor Special Interest Group
Co Chairman CHM Semi SIG Microprocessor Committee

(次回に続く)