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 2007年7月10日は,おそらく特別な日として記憶されることになるでしょう。時事通信社の編集委員,湯川鶴章さんが企画したセミナーは衝撃的でさえありました。テーマは「爆発するソーシャルメディア:広報,広告,マーケティング業務はどう変わるのか」。このセミナーに参加する直観と縁に恵まれた人の何人かは,10年前に日本でインターネットビジネスが萌芽した頃と同じ類いの「何か」を感じ取ったはずです。

 ソーシャルメディアとは,ブログ,SNS,Second Life(セカンドライフ),YouTubeなどに代表されるユーザー参加型サイトの総称です。今後,ソーシャルメディアで個人が発信する無数の情報が,マス広告やマスメディア報道にも増して,生活者の購買行動や企業のブランディングなどに大きな影響を与えることでしょう。

 このセミナーでは,近日,日本語化が予定されている「セカンドライフ」に対する取り組みを,日本を代表する二大広告代理店,電通と博報堂DYメディアパートナーズが発表しました。そのプレゼンからは,両社の考え方の違いがはっきり感じ取れました。

 さらに,インターネットを活用したマーケティング事業を手がけているNews2u,iREPのキーマンや,カリスマブロガー住太陽氏による提言も印象的でした。マスメディア対策や検索エンジン最適化対策に加えて,ブロガーなどによる好ましいネットコミを増やす“ソーシャルメディア最適化対策”が重要になるという指摘は,心から納得できるものでした。

 しかし,何と言っても私が衝撃を受けたのは,主催者である湯川鶴章さんによる,わずか1時間足らずの基調講演でした。湯川さんには,10年先が見えていると感じたのです。

「自分がどう感じたか」を起点に未来を予測

 湯川さんとは,数年前,私がネットワーカーの先達として敬愛する元電通,現江戸川大学教授 濱田逸郎さんのご紹介でご縁をいただきました。濱田さんからは,「私と風貌が似ている気が合いそうな面白い人」とお聞きしてお会いしたのですが,たちまち意気投合したのです。

 湯川さんは学生時代に渡米。シリコンバレーでインターネットビジネスがテイクオフする現場を最前線で取材し,目撃した生き証人です。ヤフーの創業者と個人的にも親しいことからも,その先見性とお人柄が伺えることでしょう。

 天下の時事通信社のオピニオンリーダーとしては異色のキャリアですが,米国放浪中に新聞少年のような仕事(本人のブログプロフィールより)から頭角をあらわし,若くして同社の編集委員に抜擢されます。現在は,執筆や講演に活躍するかたわら,今回のような先端的セミナーの企画運営でも実力を発揮されています。

 私が最初に読んだ湯川さんの著書は「ネットは新聞を殺すのか」 (共著 NTT出版)でした。新聞社をクライアントとし広告代理店を子会社に持つ通信社の編集委員が書くには,あまりに衝撃的なタイトルです(実は,この題は,偶然にも拙著「メール道」「ブログ道」と同じ担当編集者がつけたもので,湯川さんの本意ではありませんのであしからず)。この本では,今後,インターネット上のメディアが,どのように影響力を強大化して,既存のマスメディアを脅かすかが予見されています。

 そして,「ブログがジャーナリズムを変える」(NTT出版),「ウェブを進化させる人たち」(翔泳社)と著述は進化していきます。最新の著書は今回のセミナーテーマと同じ「爆発するソーシャルメディア」(ソフトバンク新書)です。また共著で「サイバージャーナリズム論 「それから」のマスメディア 」(ソフトバンク新書)も近日発売予定です。

 しかし,湯川さんを私が信頼しているのは,将来必ず評価されるであろう先進的な名著を続々創作しているからだけではありません。湯川さんは,新しいネットメディアが登場すると,真っ先に自分で試して「体感」する「実践派」なのです。時事通信社の編集委員であると同時に,ブロガーでありポッドキャスターでありセカンドライフの先住民でもあるところがすごいのです。その時そのネット時空間で「自分がどう感じたか」を起点にして,未来予測につなげているところが尊敬できるのです。マスメディア所属ジャーナリストの多くが「ともすれば敬遠しがちなソーシャルメディア」を,まずは試してみる心意気が,湯川さんにはあるわけです。

 例えば,ブログもいちはやく試して,いわゆる「炎上」も体験されています。動画がネット配信できるようになったら,早速,自ら放送局を作ってポッドキャスターになりました。ミクシイも積極的に活用されて,今や一番心地よい空間のひとつと思えるほどだそうです。

 今回,ソーシャルメディアが「爆発する」と明言できたのも,自らファーストユーザーして試しつつ,その実感をよりどころに確信しているからでしょう。

湯川さんの講演はセカンドライフの分身があいさつ

 これまで数えきれないほどセミナーに参加しましたが,今回のオープニングは圧倒的,効果的でした。そして,思わず笑いもこみ上げました。

 冒頭で映像を使って関心を集めるのは大きなセミナーでは「お約束」にもなりつつありますが,セカンドライフ空間で踊り狂う「講演者の分身=コンピュータグラフィックで創られたアバター」が登場して始まったのは本邦初でしょう。百聞は一見にしかず。ぜひセミナーのWebサイトなどにも張られたYouTubeでご高覧ください。

 SOHO風のオフィスで音楽と共に踊り狂う湯川さんの分身。バーチャルな街を飛び出して,セカンドライフ上の企業ショールームを踊りながら巡ります。そうかと思えば,蝶に飛び乗って大空を飛翔し,東京タワーもどきのタワーの上に立って,さらに踊り狂います。そして最後は,京都龍安寺とおぼしき石庭を前にして座禅瞑想しながら冒険は終わるのです。

 これを見るだけで「楽しそう」「セカンドライフやってみたい」と思ったのは,私だけでしょうか?「セカンドライフとは何か」「どこが面白いのか」などと,百の言葉で聴かされるよりも,はるかに効果的だったでしょう。

 もともと,大阪のあきんどのご子息である「実物の湯川さん」も,登場するやいなやサービスたっぷりに切り出します。

「どうです。僕のアバター」
「スタッフに,セカンドライフの分身と同じように裸足で靴を履けと言われました」
「似ているキャラクターを創られて,自分で見るとがっかりし,似ていると言われるとさらにがっかりします」

 さりげないオープニングトークですが,ここに「セカンドライフをどう送れば楽しいか」その本質が隠されていると感じました(風貌も好みも湯川さんと私はよく似ているからこそ感じるのでしょうか?)。

 人気アニメ「銀魂」に,鬼のような容貌ゆえに花に憧れ花屋になった異星人「となりの屁怒絽さん」が登場します。私も,屁怒絽さんよろしく現実の裏返しを,セカンドライフには求めたい。銀魂で言うなら「がんばらない」「ゆるゆるした」,それでいて「やや華のある」銀さんのようなキャラクターになってみたいと思ったのです。

ソーシャルメディア爆発の理由をマルクスの至言で

 ソーシャルメディアという言葉を,初めて聞いた人も多いかもしれません。ブログ,SNSから始まり,動画共有サイトYouTube,ケータイゲーム空間モバゲータウン,仮想空間セカンドライフなども含むユーザー参加型メディアは,日本ではCGM(消費者発信型メディア)と呼ばれています。しかし,米国ではソーシャルメディアという言い方が一般的だそうです。

 ソーシャルメディアの特徴は,ユーザーがユーザーを呼んで爆発的に拡大することです。モバゲータウンは,あっという間に600万人もの会員を集めましたし,日本では,まだこれからのセカンドライフは,全世界で790万人が既に楽しんでいるようです。MySpaceに至っては,現在,1日23万人ずつ会員が増え続けているそうです。まさに,ネットワーク効果が働き,参加する人が多ければ多いほど好循環になるわけです。

 しかし,なぜ,人が人を呼ぶのかは,端末の性能,回線速度といった技術的な要因や,得られる利便性といった「実用的価値」だけでは説明できません。

 その要因のひとつを,湯川さんは,かの経済学者マルクスの言葉を引用しながら,わかりやすく説明しました。なぜ,マルクスがと思いましたが,湯川さんが米国留学した際に,最も印象的だったのは,最も関心がなかったマルクスに関する講義だったそうです。

 といっても,共産主義や社会主義に共鳴したわけではありません。イデオロギーを抜きに,マルクスが洞察した人間の根源的な3つの欲求が,現在の情報通信革命の進む方向と,人類にもたらす波及効果を予測するのに役立つとおっしゃるのです。もちろん,ソーシャルメディアの爆発的な普及も,マルクスが看破した「人間の根源的な3つの欲求,喜び」に起因するのではないかと考えられています。

 その根源的な欲求とは,
1)表現する
2)評価される
3)人とつながる
の3点です。

 マルクスは,野菜づくりなどを例に選んだそうですが,湯川さんは,ブログを書く,セカンドライフで活躍するといったソーシャルメディアで発信する行為にも,あてはまるのではないかと指摘しました。この欲求起源説は,胸に手を当てれば深く納得できる話でした。私が,ソーシャルメディアに惹かれ自ら発信を続けているのも,実はこの3点が原動力になっていると感じたのです。