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ネットワーク・リアリティ ポスト高度消費社会を読み解く

著者:木村忠正
出版社:岩波書店
価格:2100円(税込)
ISBN:978-4000017992

 本書は,日本経済が1998年デフレスパイラルに突入した後,平成不況が長期化・二番底化して,人々が漠然とした不安や不満を持った時期の社会経済的現象を背景に議論を展開している。だが,インターネットを中心とした情報ネットワーク社会の課題を議論する内容として,今もなお有効である。

 人々が不安や不満を持つ社会経済的現象は日本について何を語り,そして私たちは何処へ行こうとしているのか。著者はこの問いに,「ネットワーク・リアリティ」を浮き彫りにすることによって答える。「ネットワーク・リアリティとは,情報ネットワークが社会生活,産業経済活動にとって不可欠のインフラとなるにしたがって動的に形作られる現実を指すと同時に,これからのあるべき情報ネットワーク社会像を構想することを意図した造語だ」(本書より引用)。

 日本の情報通信産業が,世界的に見ても先駆的・先端的と評価されているにもかかわらず,産業経済・社会生活の両面で躍動感・活性化が感じられないのは何故か。そこにGPT(General Purpose Technology)の議論を導入する。即ち,いかに大きな潜在力を持った技術でも,その技術が産業社会の中にシステムとして組み込まれ,そして生産性へ具体的に貢献するためには,社会の側に構造的変革が起きる必要がある,とする議論である。

 著者は日本社会のネットワーク・リアリティが,歴史的課題を突きつけられている状況にあるとする。突きつけられている課題とは,中国や韓国と比較してモバイルインターネットやブロードバンド利用の消極性・部分的普及,携帯電話の閉鎖的使用,行政サービスや教育分野へのIT利用の遅れ,そして消費のパイが縮小する中で如何に産業社会を発展させるか,である。

 この状況から脱却するために,産業経済面から見たITと社会との関係について「産業セクターとしてのIT」と「社会増強力としてのIT」という視点の区分を導入して,分析していく。前者の「産業セクターとしてのIT」は,情報通信に直接関わる産業分野を指すが,著者は後者の「社会増強力としてのIT」を次の4つの「力」に分け,これを重要視する。

  1. BPR(Business Process Reengineering
  2. R&D(Research and Development)
  3. リテラシーとしての力(情報ネットワークを利活用し付加価値を生み出す力)
  4. サービス自由化の力(サービスを地理的制約から解放し,ネットワークにより移動・交易可能とする力)

 この概念を導入することで,日本社会が抱えている問題を明確に把握できる。そして,その解決方法としてIT立国北欧社会を参考に,「ポスト高度消費社会」(PACS:Post Advanced Consumer Society )「ケア経済」のシナリオを提案する。日本が行くべき一つの方向を示している。「PACS」や「ケア経済」の概念やその実現などについては,本書で理解して頂きたい。