PR

クチコミのチカラ  ビジネスに生かすクチコミ・マーケティング

著者:ベクトルグループ編
出版社:日経BP企画
価格:1470円(税込)
ISBN:978-4861302688

 Web2.0は,情報サービスのパラダイムを大きく変換した。特に,もっぱら情報の受け手であった市民が,情報を発信できる立場に立てたことは画期的である。市民が受け手でしか参加できなかった情報社会に,発信者として主体的に参加できるということは,高度情報化社会の陰の部分を救うチャンスが生まれたことを意味する。もちろん,負の部分もその分多くなる可能性を持つ。

 本書は,メディア産業の革命とも言えるこの新しいメディアがもたらしたクチコミを,その技法ではなく,マーケッティング・コミュニケーションの視点から分析し,「クチコミのチカラ」を解明する。

 消費者の関心は,従来のテレビ・ラジオ・新聞など情報が上から下へ動く「垂直メディア」から,消費者同士の横のつながりで情報を受け渡す「水平メディア」へ変わろうとしている。そこでは消費者は企業と対等の関係で存在し,それに合わせて企業も変化しなければ,消費者に見捨てられるとする。

 そういう現象面の分析の一方で,「クチコミのチカラ」を解明するために,米国のクチコミの発展過程を整理して,日本の発展過程を分析する。そして,新しいマーケッティング・コミュニケーション方法の概念化を試みる。その中でマーケッティング・パラダイムシフトの構造を説明し,それを実務に即して整理し,クチコミ・マーケッティングの18法則としてまとめている。

 その一方で,マーケッティング・コミュニケーションにおけるマスメディアの独占的地位は確かに失われたが,消費者との新旧あらゆる接点を利用した全方位的アプローチの必要性はあるとし,その概念であるホリスティック・アプローチの秘訣をうまくまとめている。最後に,国内にクチコミを広げる技法の紹介がある。途中で,「米国のクチコミ・マーケッティング事情」についての対談があるのも面白い。

 かねてから情報化社会の中の一種の革命,あるいは大きなパラダイムシフトを予感させられていたWeb2.0を取り上げ,マーケッティング・コミュニケーションの視点から「クチコミ」の力を分析・整理している点は参考になる。しかし,著者が触れている「対話の基本」である「顔を見せる」「身分をいつわらず正体を明かす」「率直に話す」「友情を持って接する」「相手を尊重する」「相手の話をよく聞く」「応答は即時にする」「自然に話す」「正直が最善の策」が,逆に作用したとき,即ち顔が見えない状態で,身分を隠し,悪意を持って,相手を蔑み,作為をもって一方的に情報を発信したらどうなるか。恐ろしいことが現実に起こりつつある。そういう負の部分についての現象・原因・対策も,マーケッティング・コミュニケーションの視点から検討しておかないと,将来取り返しがつかないことになるのではなかろうか。