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 SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)市場のリーダーはいったい誰になるのだろう。これまでIT市場長く牽引してきた大手ITベンダーなのか、中小企業の顧客を多く抱えるシステム販売会社なのか、パッケージ・ベンダーなのか、あるいは新興勢力なのか。答えはまだはっきりとはしてない。

 そこに参戦を表明したのがKDDIだ。来春までにサービスメニューを整え、本格参入する構えだ。実は、同社は2年前からITサービス市場参入のチャンスを模索していた。ネットワークの上にアプリケーションを乗せて提供する方法は、回線事業を伸ばす有力方法の1つになるからだ。SaaSの特長であるIT資源を使った分だけ支払う、つまり月額料金モデルを活かせるのも、通信会社のビジネスにフィットにする。だが、「本業ではないし、そこには強いプレーヤーが存在する」(大貫祐輔ソリューション統轄本部戦略企画部次長)とし、断念した経緯があった。

 しかし、ネットワークのスピードが速くなり、安く手に入る環境が整ったことで、07年に入ってから「参入を決断した」(桑原康明ソリューション事業統轄本部戦略企画部長)。強いパートナーと組めば、市場参入は十分に可能だとし、大手ITベンダーなどと交渉を重ねてきた。が、顧客の囲い込みを考える大手ITベンダーとの話し合いは進展しなかったという。「考え方が違うし、お互いのメリットも見えてこなかった」(大貫氏)。KDDIはオープンなプラットフォームにし、可能な限り多くのアプリケーションソフト・ベンダーを取り込みたいからだ。

 そうした中で、ソフトウエア+サービスというソフト販売でハイブリッドモデル戦略を打ち出すマイクロソフトと考えが一致する部分があったという。マイクロソフトはグーグルなどに新しいITサービス提供形態を仕掛けられており、その対策も模索していた。一方、携帯電話と固定電話がシームレスにつながり、WANとLANを一体化させる方向に進みはじめるなど、通信会社を取り巻く環境も変化している。

マイクロソフトとの提携で実現

 そこで、KDDIはマイクロソフトと包括契約し、同社の統合サービス基盤CSFを活用して、SaaSプラットフォームを構築することにした。英国の通信会社BTもこの方法を採用している。さらに、07年2月には、日本ユニシス子会社でネットワーク事業を手掛けるユニアデックスと包括契約を交わし、次世代ネットワーク時代を睨んでWATとLANをワンストップで提供する仕組みにした。SaaSを睨んだものでもある。

 KDDIは手始めに従業員300人未満の中小企業をターゲットとする。「メールやグループウエアなどといったコミュニケーションツールが入っていないところから売り込む。これまでリーチできていなかった中小企業にSaaSでネットワークを売れる」(大貫氏)。なので、コミュニケーション系からサービス提供を始めるが、これらソフトは基本的に無償に近いものになると見られている。「SaaSで稼ごうとは思っていない」(大貫氏)とするが、中小企業に必要な会計や人事、SFA(営業支援システム)、CRM(顧客情報管理)などといったサービスメニューをどの程度用意できるかが成功のカギになる。

 ここが大きな課題でもある。多くのアプリケーションソフト・ベンダーはライセンス収入を基盤としており、容易にSaaS型に切り替えられるわけではない。しかも、KDDIのSaaSプラットフォーム仕様に合わせる必要もあるし、複数のアプリケーションの連携、レガシー資産の活用も考えておく必要もあるだろう。データ連携がとれなければ、活用メリットは小さくなるからだ。

 販売方法も課題になる。KDDIは、基本的には代理店経由を検討しているが、サービスとアプリケーションを組み合わせたビジネスモデルを基本とするシステム販売会社にどんなメリットを提供できるか。つまり、SaaSの再販で収益を確保できるかだ。こうした課題をクリアすることが、発表時点で掲げた目標である100万ユーザーの獲得に大きく影響するだろうし、そのとき、通信会社はSaaS市場で大手ITベンダーの手強い相手になるだろう。

※)本コラムは日経ソリューションビジネス07年8月15日号「深層波」に加筆したものです。