PR

 現在、日経パソコンに掲載させていただいている「ワカれば『もっともっと』楽しいコンピューター」という記事は、今年の11月で連載100回となる予定です。連載を始めたばかりの頃は、まさかこんなに長く続くとは夢にも思いませんでした。コンピュータ雑誌の連載記事は、6回または12回というのが一般的だからです。今回は、長期連載が実現できた理由を、自分なりに振り返ってみます。これから雑誌記事を書いてみたいと思っている人に、少しでも参考となる情報を提供できれば幸いです。

くれぐれも読者ターゲットを見失わないように

 この連載は、拙著『プログラムはなぜ動くのか』を担当してくれた編集者さんが、私を日経パソコンに紹介してくれたことで始まりました。それまでの私は、エンジニア向けに堅苦しい技術解説ばかり書いてきました。一方、日経パソコンは、エンジニアではなくパソコンユーザーを対象とした雑誌です。どんなテーマで記事を書けばいいでしょう? 技術解説をパソコンユーザー向きに書いてみよう! 技術の仕組みがわかれば、パソコンがもっともっと楽しくなるはずだ! この思いから、記事のタイトルが「ワカれば『もっともっと』楽しいコンピューター」になりました。

 私には、パソコンユーザーを対象とした記事を書いた経験がありません。うっかりすると読者ターゲットを勘違いして、いつもの堅苦しい記事を書いてしまうかもしれません。そこで、毎回の原稿の先頭に、以下に示した「趣旨」「特記事項」「読者」をコピペして、必ず目を通してから書くようにしました。

【趣旨】
  • エッセイ的な読む用語辞典
  • ほっと一息コーヒーブレイク
  • なるほど! 薀蓄の幅が広がる
【特記事項】
  • 誰にでも理解できるやさしい内容であること
【読者】
  • パソコンユーザー
  • 40代~50代の男性が多い
  • 忙しいビジネスマン(部下を持つ立場の人)
  • 自宅で日経パソコンを読んでいる
  • すべて定期購読者である

パソコン・ドリフというコンセプト

 連載当初は、十分に意識しているつもりでも、やっぱり堅苦しい技術解説になってしまいました。以下に、記事のタイトルを示しておきます。見るからに難しそうでしょう。

  • バグはなぜ起きるのか?
  • どうしてハングアップするのか?
  • スプラッシュウインドウの秘密
  • 一言で言うとSEって何ですか?
  • ビットとバイト
  • メモリーは人の記憶に似ている
  • インタープリターとコンパイラー
  • OSとはいったい何者?
  • Javaと.NETの熱き戦い

 悩んだ私は、日経パソコンの記者さんとデスク(副編集長)にお願いして、ブレーンストーミング的な打ち合せの場を設けてもらいました。皆で思いつく限りのアイディアを出している内に、たまたま「パソコン・ドリフ」というコンセプトがあがりました。かつて大人気だったTV番組「8時だよ全員集合」でドリフターズが演じていたコントのように、何らかの場面を想定して技術解説するというアイディアです。

 その後の打ち合せは、「もしも、プログラマが地獄に落ちて閻魔大王に会ったら、どんな言い訳をするか」といった突拍子もないテーマを考えては、皆で大笑いしながら過ぎて行きました。そして会議の終わりに、デスクが「矢沢さん。この記事は、日経パソコンで唯一ぶっ飛んだものとしたいと思っています」と言ってくれました。

バスガイド、漫才、小学校、クイズ番組、SFアニメ...

 この言葉で、私は、一気に吹っ切れました。読者が楽しんでくれる記事を書こう! もしもパソコン・ドリフが受けなくて、すぐに連載が終わりになっても、それは仕方ないじゃないか。

 今になって思うと、長く続けようという欲を持たなかったから、長く続いたのかもしれません。以下に、パソコン・ドリフのコンセプトとなってから書いた記事のタイトルを、いくつかあげておきます。カッコ内は、どのような場面を想定して書いたかを示しています。連載当初と比べて、ずいぶん変わったでしょう!

  • CPUの中には何がある?(観光客にバスガイドが説明する)
  • オブジェクトって何のこと?(ガールフレンドへの説明と、母ちゃんへの説明)
  • タスクとスレッド、どこが違うんや?(関西系の漫才師のステージ)
  • どっちが偉いEXEとDLL(擬人化してお互いにけなし合う)
  • 暗号化ってどういう仕組み?(小学校の先生が、生徒のおもらし情報を暗号化する)
  • 西暦1996年、謎のActiveX現る(おじいさんの昔話)
  • おやじ、一番高いヤツをくれ!(宝くじ当たって最高級パソコンを買うとしたら)
  • SSLなら絶対に安心なんですか?(江戸っ子の夫婦が、銭湯の壁越しに会話する)
  • この略語、何て読むのだろう?(クイズ番組で回答者が出題者に文句を言う)
  • 発進!パソコンが起動するまで(SFアニメ風に宇宙船の乗組員の会話する)
  • ファイルはなぜ迷子にならない?(知ったかぶりをする父を怪しむ息子)

いつまで連載を書き続けるか

 最近では、パソコン・ドリフ記事だけでなく、真面目にお勉強モードの記事も交えています。両者の頻度は、半々ぐらいです。これもまた、連載を長く続けて来られた理由のひとつだと思います。パソコン・ドリフがあるからお勉強モードが引き立ち、お勉強モードがあるからパソコン・ドリフが引き立つのです。

 連載100回というのは、とても切りがよい数字です。ただし、100回達成後にどうするかは、まったく考えていません。「もう辞めてほしい」という声が多ければ辞めますが、なければずっと書き続けたいと思っています。「ワカれば『もっともっと』楽しいコンピューター」を書くことは、もはや私の生活習慣のひとつになっています。雑誌記事ライターとして「これが私の代表作だ!」と胸を張って言えます。そんな記事が書けたのも、編集部の皆様、そして読者の皆様のおかげです。