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 「計画を作ったら絶対にやり遂げる」。NECの矢野薫社長は8月下旬、経営改革に向けた強い意気込みをこう語った。背景には、06年度の業績が不本意な結果に終わったことがある。

 06年4月に社長に就任した矢野氏は、06年度の経営目標に(1)成長に向けた施策の実行強化、(2)携帯電話と半導体という不振事業の早急な回復、(3)業績予想値の確実な達成、などを掲げた。こうして成長戦略に向けて始動したのが06年度の位置付けだったが、減収減益になるなど目標は未達。矢野社長はその悔しさから、業績回復を図るうえでの経営改革を優先課題に挙げた。

矢野社長 今のNECの最大の問題は、ねばっこく、とことんまでやり抜く姿勢がなかったこと。甘い計画を作り、その実行性も浸透しない。計画倒れに終わり、継続の強さが足りなかった。これまでは単年度の計画を作り、それをどう実現させるかになっていたが、目標をやり遂げるためにはその日暮しではなく、目線を遠くにおくことだ。しかし、食らいついたら絶対にやり遂げる上で、短期的な計画だと、見直しているうちに(事業を取り巻く環境や技術が)変化してしまう。たとえ担当責任者の首をすげ変えても同じことだ。

ITやネットワークは受注してから構築までに長い期間がかかるのに、NECは短期的なゴールを決めてやってきた。だから、矢野社長は長期計画の必要性を説き、08年早々までに作成する考えを改めて強調する。3カ年計画の1年目に問題が発生したら修正し、PDCAを回しながら目標を達成する、という考えだ。

矢野社長 四半期決算など米国の経営手法が入り込み、短期で追っかけてしまうことになった。確かに四半期で物事を考える良さもあるので、長期計画にそって3カ月に1回、つまり1年に4回の割合で計画達成に向けてチェックをしていくようにすればいい。短期的な視点と日本企業のよさでもある長期的な視点を組み合わせた経営にし、長期計画を絶対に達成するという癖をつけることだ。

泉華荘会議でBU長が問題解決を図る

長期的な視点に立つカギはNGN(次世代ネットワーク)になるとし、矢野社長は社長就任以来、NGNに一直線に進むことを繰り返し主張してきた。各ビジネスユニット(BU)長もNGNに向けた施策を打ち出しはじめている。

矢野社長 とにかく走ろうという短期志向になり過ぎて、世の中に振り回された。解決には自らがゴールを決めて、逆に周囲を引きずることだ。それがNGNだ。そこはNECのスイートスポットで、ITとネットワークの融合を旗頭にできる。そうすれば、進むべき道は明確になり、計画にズレがなくなる。人に引っ張られることもない。

 NGNはキャリア向けだけではないし、NECだけが言っていることでもない。企業にも個人にもネットワークが浸透するNGNはユビキタス社会のインフラで、そのユビキタス会社を構築することがNECのメッセージである。

NGNというゴールを決めたが、目標達成を妨げるいくつかの要因を排除する必要もある。その1つは、計画を実現する実行力のある風土作りだろう。

矢野社長 確かに組織の壁は厚いので、意識的に取り払ってきた。03年3月にカンパニー制を止めたのはその1つだ。当時の西垣浩司社長がカンパニー社長であった私(NECネットワークス)と金杉明信氏(NECソリューションズ)に「検討しろ」と指示され、金杉氏が「そのためにはカンパニー制をなくすことだ」と答えた。私もそう思ったので、カンパニー長として権限がなくてもいいと思って、金杉氏のもとにネットワークをフラットな組織として位置付けることにした。

ところが、再編した事業部門であるBU間に壁が出来てしまった。そこで、BU長の役員を交代・交流させるなどの手を打った。

矢野社長 少しは効いたが、さらに社長になってから、全BU長が集まる会議を3カ月に1回の割合で開くことにした。すでに5回開催したが、この場で全社共通のテーマに加えて、それぞれのBUの個別テーマについて議論している。BU長は直接、私とは話をするが、これまでBU長同士で問題点を議論する機会がなかったからだ。場合によっては、「この問題はお前達で決めろ」と指示することもある(NECの東京・白金にある施設、泉華荘で行うので、泉華荘会議と呼んでいる)。

人事など組織風土にも問題があった。一般論だが、「ここまでやれば十分だ」「そこまでやる必要はないだろう」という雰囲気が蔓延することがある。上司の指示待ちになり、実行が遅れることもあるだろう。

矢野社長 6年前から生産革新に取り組み始めたが、これを経営改革にも活かしたいと思っている。生産現場がトヨタ生産方式によって、自ら働くように変わったようにだ。組織にいると、問題点は分かっても解決しようとならない。「昔からやっていたことなので、そのままにしておこう」となってしまう。だが、生産現場は問題を見つけたら、放置せずに、1つひとつ解決しながら生産性向上を図ってきた。中国など海外企業と戦うためだ。

問題の見える化と解決力をつける

 これを全社に広がるには、「問題を見える化する力」と「解決する力」がいる。しかし、「このくらいやればいいだろう」といった一種の大企業病的な考えが他社より広まっていたのかもしれない。それをどう突破するかだ。「仕事をやらされている」という感じから、自分が主人公になり、楽しんで仕事をやるという働き甲斐のある風土改革をやる必要もある。こうしたことは、命令するのではなく、自発的に取り組むようにしなければならない。

問題はこうした経営者の考えが社員に浸透しているかだ。各部門の3年後の目標、その狙い、それをどう達成するかといったことを、社員に正しく伝えることも重要である。

矢野社長 それが社員1人ひとりに浸透しているかを、今フィードバックさせているところだ。10%の部門もあるなど、部門間で浸透度にバラツキがある。08年早々には中期計画をまとめたいが、(各BU長が数値目標を発表しているが)私には、今はふわーとしているものを作っているだけに見える。

 ITとネットワークの融合ができれば、NECは強くなれるし、両者の境界線に資源を集中させ、競争優位な戦略を打ち立てられる。境界領域は新しい価値を生み出すところになる。サービスプラットフォームがその1つである。


※)本コラムは日経コンピュータ07年9月3日号「ニュース&トレンド」に加筆したものです。