PR

 ブログが市民権を得るための「一つの条件」は,新聞・雑誌記者が堂々と本紙・本誌と相乗効果を発揮するブログを書くことです。新聞・雑誌にとっても,それが新たなファンやリピーター獲得と収益増大のための「新しい常識」となる日が来るでしょう。同時に読者もこれまでのマスメディアだけでは得られなかった「多角的で生々しくて面白い情報」が得られ,記者の顔も見えて「読む楽しみ」が増えるはずです。

 3カ月前,約10年の間に500名以上の経営者を取材し続けてきた「月刊 経営者会報」の酒井俊宏さんが「取材日記ブログ」を始めました。ブログ名は「こんな社長さんに会ってきました」です。アクセス数を見ればおわかりの通り,まだ始まったばかりの「ごく小さな個人的な試み」ですが,今後の「新聞・雑誌とブログの共生関係」を予感させるブログなのです。

 改めて,なぜマスメディアが,ブログという「安価で簡便なお手軽メディア」をもっと有効活用しないのかを考える好機になりました。

 この酒井さんのブログには,取材先のお名前も登場する「公的なブログを実名で書く」時の大切な心得や,新聞や雑誌記者が「本来の有料マスメディアと無料ソーシャルメディア」をどう組み合わせるべきかというヒントがさりげなく秘められています。

本来ブログで読みたいリソースは「記者」こそが持っている

 中小企業経営者という仕事柄,ありがたいことに新聞・雑誌記者のみなさんから取材を受けることがよくあります。お会いすると,多くの方が「聞き上手で書き上手」です。だからこそ,雑談をしていても「とても楽しいひととき」を過ごすことができます。すなわち記者という職業柄,既に優れた「ブロガー気質&体質」を兼ね備えているわけです。

 また,既に取材をする時には,取材先のブログを読んでから訪ねるということを,当たり前に実践されている方も少なくありません。ブログを通じて,取材だけではわからない「素顔」を知ることができ,親しくなるために好適なメディアだと直感しているからでしょう。

 そこで,ここ数年間は,取材の最後に「記者ブログを書いたらいかがですか?」とお勧めをしてきました。記事には書けない,あるいは書かない「取材の裏話」や,記者の目から見て「ふと気づいた面白いこと」こそ,ブログの題材にぴったりだと思ったからです。しかし,多くの記者が「ブログ」を書くことには難色を示すか,障害が多いと繰り返したのです。

記者が思い通りにブログを書けない構造的な理由

 たしかに,その理由を聞きますと「なるほど」と頷ける点もあります。

1)所属する企業がブログを書くことを許さない
 「ネットは新聞を殺すのか」という本まであるように,新聞や雑誌にとってインターネットはライバルでもあります。無料で個人が情報を発信するブログも「目の上のたんこぶ」でしょう。それを社内の高給取りの記者が,それも会社の名刺と経費で行った取材の内容について,自社メディアよりも速く面白く書くとなれば「許しがたい」と思う経営陣や幹部がいても仕方ありません。

2)日々締め切りに追われて,もはや書きたくない
 新聞にせよ雑誌にせよ,記者は常に締め切りに追われ,同時に新たな企画も求められています。自分で自由にできる時間ぐらいは「パソコンから離れたい」「頭を使いたくない」「わざわざ文章を書きたくない」のが本音だという方も,実は少なくありませんでした。

3)お金にならない文章は書きたくない
 これは,記者に限らずフリーライターの方からもよく聞くお話です。ブログは原則として,無料で書いて無料で読んでもらうメディアです。なんで,今さら「タダで文章を書かなくてはいけないのか」と感じてしまうそうです。

4)完成度の低い文章は書けない重圧
 プロの記者だとわかればブログを読む側の目も変わってくるでしょう。聞きかじりの不確かな伝聞や,誤字脱字もご愛嬌の「多くの素人ブログ」とは訳がちがいます。やはりプロたるもの,ニュースソースも確かで,文章力に富んだ文章を書かねばと思うと,ブログ的気軽さから,どんどん遠ざかってしまいます。

5)自分の主観を思いきって書けないジレンマ
 記者たるもの,やはり客観的な事実の積み重ねが大切で,うかつな憶測記事はかけません。また所属するメディアの論調や編集長・デスクの目も気にすることでしょう。しかしブログで面白いのは「その人ならではの主観」であり「素直な喜怒哀楽の感情」なのです。「誰が何と言おうと私はこう思う」と公言したくても公言できない環境にずっといた人には,ブログはつらいようです。

映画とテレビの歴史は,新聞・雑誌とネットの歴史になるか

 とは言うものの「会社公認の記者ブログ」も増えてはきました。このITproのように,いちはやく外部ブロガーとも連携して雑誌社の収益構造の一翼を担うようになった先進事例も見受けられるようになりました。しかし,まだ多くのマスメディア関係の経営者にとって「ネットでいかに収益を得るか」は見えていない状況でしょう。ですから,上記の5点に代表される構造的な問題は,今もなお記者ブロガーを悩ませているかもしれません。

 そこで,まずは,経営陣が「記者の存在こそが貴重な資産」であり,「ブログで資産の有効活用ができる」「既存の資産と相乗効果をあげられる」と強く認識する必要がありそうです。

 例えば,映画がテレビにその地位を奪われた歴史と,独自の展開をしながら共存の道を探っている現在にヒントがあるかもしれません。

 本来なら,絶大なメディア力を誇っていた「映画会社」が,より簡便でより多くの人にリーチするメディアである「テレビ会社」を作って,強力なメディア連合を作ることもできたはずです。しかし,映画会社の経営陣にとって,テレビは「先行きの知れぬ怪しげな新興ライバル」だったのかもしれません。ひょっとしたら「文化的芸術的なレベルも低いマガイモノ」に見えたのでしょうか。

 豊富な制作スタッフと役者のネットワーク,映画会社はそれらをまとめあげる貴重なノウハウを活かして,テレビ制作においても圧倒的な地位を築けるはずだったのです。しかし,先にメディアを押さえられてしまったために,最後は下請け制作会社に甘んじなければならなかった映画会社もあったでしょう。

 これは,現在の新聞,雑誌社にも言えなくはありません。ソーシャルメディアと,それをうまく束ねた新メディアが勃興する前に,現在のブランド力,ネットワーク力を生かして,圧倒的な地位をよりはやく築く必要があるでしょう。