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 昨年暮れ,四谷荒木町へ出かけた。四谷三丁目の交差点から新宿通りを四谷の方へ歩き,みずほ銀行の横の細い道を左に入る。ちょっと暗い下り坂を100メートルほど歩き,このあたりか,と見当をつけて右手の路地をのぞくと白地に太い字で書かれたその店のカンバンが眼に入った。

写真●四谷荒木町の路地
写真●四谷荒木町の路地
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 この界隈は「三丁目の夕日」の時代の町がほとんどそのまま残っている。くだんの店は古い木造で狭い庭の敷石を踏んで玄関の引き戸を開けると,女中さんが迎えて部屋へ案内してくれた。不思議なつくりの建物で,いったん廊下を登るように上がって,今度は右に曲がりながら下っていく。廊下に囲まれて小さな中庭がある。廊下を下りきった左側にその小さな部屋はあった。床の間には女性の肖像が描かれた小さな額がかけられ,床の間に向かって左手は障子のふすまになっている。柱も桟も古いのだが,障子は真新しい白さだった。 二人で差し向かいがちょうどいいくらいの狭い部屋は,いかにもあやしい雰囲気だ。

 こんなところに三人の男が集まり,NGNやらフレッツやら,ネットワークのことばかり2時間あまり話した。場所に似合わず,色気のない話をしたものだ。

 さて,今回は久しぶりに営業がらみのテーマで,プレゼンについて書こうと思う。例によって,以下は実話に基づくフィクションだ。

楽しいプレゼン

 某月某日,提案書のプレゼンをした。とても楽しいプレゼンだった。提案書は200ページ近い力作で,ボリュームだけでなく内容もいい。めったに部下を褒めないのだが,95点の出来だと褒めた。提案のコンセプトが明確で,訴求点がコンパクトにまとまっており,細部もていねいに書いてある。完成させるまでに何度もレビューを行い,2000枚を超える紙を消費した。

 お客様からプレゼンに与えられた時間は2時間。通常より長いのだが,ボリュームがあるので,これでも時間不足だ。プレゼンの前日,提案チーム7人でどこに重点を置くか,誰がどのパートを説明するか打ち合わせ,タイムチャートを作った。

 プレゼン当日,7人で出かけた。七人の侍ではないが,男ばかりだ。聞いてくれるお客様の人数が多いので,7人でも多すぎはしない。プロジェクターの準備をしている間,お客様と軽い雑談をした。少しでも空気をやわらげておこうという狙いだ。

 最初に登壇したのは筆者だ。短い挨拶に続けて,提案の背景にあるニーズや技術のトレンドと,提案の基本的考え方を説明した。一番強調したいところでは,お客様が頷きながら聞いているのが分かった。だが,15分の予定だった筆者のプレゼンは23分かかった。言うべきことを言うのに,時間がかかるのは仕方がない。

 2番手はプロジェクトリーダーになる予定のベテランだ。提案のコンセプトや特徴,導入効果を簡潔に書いた,一番大事な部分を説明する。彼は設計の経験は豊富で優秀な技術者なのだが,思い返すとプレゼンをしたのを見たことがない。設計書を説明するのも提案書をプレゼンするのも大差ないから,大丈夫だろうと思っていたのだが,そうではなかった。聞いていて気の毒になるくらい,力が入りすぎていて話し方も速すぎる。余分なことをいっぱい話すので時間は予定よりかかってしまった。

 司会役だった筆者は,ここで間をとらないとうしろも総崩れになると思った。そこで,質問はプレゼンの後,まとめてと思っていたのだが概要説明が終わったということで質問を受けた。3番手から再開。その時点で予定時間を20分ほどオーバーしているのに,とても落ち着いた聞きやすい話し方だった。4番手以降も安心して聞けるプレゼンで,それぞれ個性が出ていて良かった。

 3番手のプレゼンの中で配布資料には入っていない写真を見せた。手間をかけて撮影した写真なのにほとんど説明しなかった。もったいないので,筆者が割り込んで「この写真は今日のプレゼンのために,昨日撮ったものです」と言うと紅一点の女性が笑ってくれた。だいぶ空気がなごんだようだ。

上がったって「関係ない!」

 さて,上がらないで上手にプレゼンする方法はあるのだろうか? 小学生の頃だったろうか学芸会などで上がらないためには手のひらに「人」という字を書き,それを飲み込むと大丈夫,などと教えられたが,そんなの効くわけがない。

 筆者は上がらないためのポイントは次の三つだと思っている。

(1) 自信の持てる提案書を作ること
(2) 聞いている人をよく見ること
(3) 間をとること

 一番大事なのは提案書の内容に自信を持っていることだ。 提案でなく講演でも同じで,内容に自信を持っていれば堂々と話すことが出来る。もっとも筆者くらいすれてくると,自信がなくても大丈夫になるのだが,それはあまり感心できることではない。

 お客様の要件を的確に理解し,それを効果的に実現していること。自分たちの得意とすることを活かし,他社にはない導入効果を出していること。それを提案書の冒頭部分で簡潔に分かりやすく書いてあること。こういう提案書は自信を持ってプレゼンできる。逆に,そういう提案書が出来ていれば,「上がったって,関係ない!」のだ。お客様は冒頭部分を読んだだけで,提案の良さが理解できる。あとに続くパートでより具体的に,その内容を知ることも出来る。

 上がることは悪いことではない。お客様はプレゼンが上手な人を評価するとは限らない。上がっている人を見て「この人は一生懸命なのだなあ。だから力が入りすぎるんだ」と思う。一生懸命な人が評価されないはずがない。

 二つめの上がらないためのポイントは相手をよく見ること。プレゼンは聞いている人に話しかける行為なので,相手を見ていないと伝わらない。プレゼンに慣れてない人はスライドを映したスクリーンの方ばかり見て,聞いている人を見ないことが多い。聞いている人の様子を見ることで余裕が生まれるのだが,慣れないうちはついついスクリーンを見がちになる。意識して相手を見るようにするといいだろう。そのうち,熱心に聞いている人をすぐ見つけられるようになる。そうなるとしめたもので,その人に話しかけるようにプレゼンすると乗りのいいプレゼンができる。

 三つめのポイントは間を取ること。性急にべらべらしゃべり続けるのは聞きづらいし,上がった状態はますますひどくなる。とはいうものの,話の流れの中で間を取るのはなかなか難しい。そこで,誰でも出来る間の取り方を伝授しよう。スライドの切り替えをゆっくり,10秒近く時間をかけてするのだ。ちょっと力が入り過ぎているな,話し方が速過ぎるな,というのは自分でも分かるものだ。そんな時はスライドを進めるキーをわざとゆっくり押し,スライドが切り替わってもすぐ話始めないことだ。スライドが新しくなっているので,そこで話が数秒途切れても何の不自然さもない。数秒の間で自分のペースを作ることが出来る。

大切な「締め」

 2時間を少し超過したプレゼンと質疑が終わった。何事も締めが大切だ。筆者が号令をかける。「一同起立!」 7人が起立した。長時間プレゼンを聴いていただいたお礼を述べ,提案の特徴をごく短く復習した後,「しっかり作りますので,是非,よろしくお願いします」と大きな声で言い,全員一斉に深く頭を下げた。

 営業は格好つけていてはダメだ。 やりがいのある仕事をやらせて頂きたい,という熱意がお客様に伝わらなければ,プレゼンがいかに上手でも意味はない。

1月30日,ビッグサイトで会いましょう

 筆者が近々に予定している公の場でのプレゼンは1月30日12時ちょうど,東京ビックサイトで開催されるITpro EXPOの「ネットワーク最前線」というコーナーで行う。テーマは「定額高速無線通信で企業ネットワークを革新する」だ。

 わずか20分間のプレゼンなのだが,とても面白い内容にするつもりだ。いつも有料のセミナーで講演することが多いのだが,このプレゼンは無料。定額高速無線データ通信カードを組み込んだワイヤレス・ルーターを使った映像系アプリケーションのデモも同じ場所でやる予定だ。このコラムの読者の方にお会いするのを楽しみにしている。