「部下に任せる・部下に使われるSEマネジャ」と「任せられるSE」について,これまで3回にわたって述べてきた。このテーマについては,読者の方から多くのコメントをいただいた。
例えば次のようなコメントがあった。「馬場さんの意見に同意です。SEマネジャと部下のSEとの関係は『部下に任せる上司』,『任せることができる当事者能力のあるSE』の組み合わせ,これに尽きると思います。そこで『SEに自発的な仕事のやり方を教えよ』と繋がるのですが,部下や後輩へ教える立場の皆さんの意見をうかがってみたい。馬場さんにも教える・育てる分野の経験についてお話いただきたい」こんな内容だった。
その他にも「現実のIT企業ではSEは指示を必要としている。任せられる部下云々は馬場さんの理想論である。IT業界にはそんな部下を育成ができる環境はない」というコメントもあった。
これらのコメントから推測するに,肯定的,否定的な意見,色々あるにしても,読者の方々は「自発的に行動するSE」作りには強い関心があるように思える。そこで今回はそれについて筆者の考えと事例を述べる。
“与えられる文化・受身文化”にならされるSE
筆者も現役時代,読者の方々と同様にこの「自発的に行動するSE」作りに悩んだ。「どうすればSEが受身ではなく自発的に行動するようになるのか」,「そのために何を行えばよいのか」と考えた。そして仲間や後輩や営業などと色々と討議をした。人生の先輩である,親しい顧客の管理者の方々の意見も聞いた。その結果,筆者は,「現在のSEマネジメントの,因習的な部下との仕事のやり方は正しいのだろうか」,「自発的に行動するSE作りにかなっているのだろか」と思うようになった。
特に次の点に疑問を感じた。
まず1点目。SEの仕事は一般に上司やPMなどから「○○をいつまでにやって下さい」「△△をこうやってほしい」などという形で与えられる。「□□プロジェクトの▽▽開発をやってほしい」というジョブアサインは当然としても,往々に日頃の仕事のやり方まで指示される。典型的な例だと君は今月は0.5人月とか0.7人月でこれをやれと指示する,またこのプログラムは誰々の指示を聞いて,こうやって云々などと,ああやれこうやれと多くのことが上司や先輩から与えられる。
これでは,SEが自分で考えてどうこうするという意思が入りにくい。
所定の仕事を何人月でやろうが,そのやり方はSEに任せてもよいではないか。若いSE時代からこのようなやり方の世界で育ったのでは,結局SEは“与えられる文化・受身文化”にならされてしまう。
個人が鍛えられない“団体行動”
次に2点目。SEはシステム開発や保守などのプロジェクトがうまくいっているか,うまくいったかどうかは,一般にプロジェクト単位で見られる。個々のSEではなく,プロジェクトという団体単位である。これでは個々のSEは,「赤信号みんなで渡れば恐くない」という“団体行動の心理”になりやすい。
その中でもPMや2~3人のキーのSEは上司などから仕事の厳しいレビューや指導を受け鍛えられる。しかし他の6~7人はそうは行かない。上司は彼ら彼女らに対し,それほどレビューや指導を行わない。問題が起こってもPMやキーのSEほどは追求しない。すると彼ら彼女らはプレッシャがかからず,責任感が薄れる。当事者能力も身につきにくい。
以上,筆者が当時疑問を感じた2点を述べた。
そして「SEが若いころから,この“与えられる文化・団体行動の文化”の中で育つてば,受身,指示待ち人間になるのは当然の帰結だ」と思ったものだ。このことは今のSEの世界も大して変わりないと思う。読者の皆さんの意見はどうだろうか。
「自分で決める」「個人」の文化に変えるには
SEが所定の仕事をしっかり遂行し,しかも“与えられる文化・団体行動の文化”から脱皮,自発的に仕事をするようになるにはどうすればよいか。ベテランSEから新人SEまで,全SEが責任感を持って仕事をするようになるにはどうすればよいか。筆者は考えた。
そして考えた挙句「与えられる文化」を「自分で決める文化」に,「団体行動の見方の文化」を「団体の中の個人の文化」に変えたいと思った。そのために「全SEに毎月,自分でその月にやることを決めさせる。それを上司の筆者と討議して最終的に決める。それを各SEが実施する。月末には自分で結果を評価する」,そんなやり方にしたいと考えた。
すなわち,“SEが自分で考えて,自分で決めて,自分でやって,自分で評価する世界”への転換である。
そして色々と試行した結果,最終的に考え出したのが次の「Monthly Plan」である。