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 昨年末、このコラムで「SaaSは普及するに決まっている」と言った。今回は別の観点から、SaaS普及の現実味について書いてみる。別の観点とは「ユーザー企業における情報システム部門の弱体化」である。ある意味では当然の話なのだが、このことが要因となって、大手・中堅企業でSaaSが一気に普及する可能性がある。

 よく、SaaSは中小企業でこそ普及するという議論がある。私は「そうかぁ?」と思っている。中小企業でIT化が進まないのは、ITを導入できないからではない。その必要がないからだ。だから、必要としない企業にITをSaaSで提供しようとしたとしても、ITの“活用”が進むとは思えない。

 もちろん、ないわけではない。例えばBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のような形では、大いにあり得るだろう。経営指導などの一環として中小企業の経営者に会計システムを使ってもらうといったイメージだ。

 ただ、こうしたアプローチは税理士プラスITサービス会社の組み合わせで、既に強固なビジネスモデルが存在している。だから中小企業相手では、事業的に意味のあるSaaSのビジネスモデルを新たに確立するのは、かなり難しいと思う。

 で、大手・中堅企業の方だが、「システム部門が弱体化したからSaaSが普及する」と言ってすましていては、あまりに当たり前の話になってしまうので、もう少し丁寧に説明することにする。

 システム部門の劣化、あるいは崩壊については以前から何度も書いてきたが、一部の企業を除いて“2007年問題”を待つことなく、“It Doesn't Matter”よろしくリストラされてしまい、システムを作る力、運用する力の多くを失った。大手企業ならシステムを企画する能力はまだあるとの声もあるが、それも怪しいかぎりだ。

 もちろん、“IT先進企業”と言われる一部企業、各産業のリーディング・カンパニーは強いシステム部門を保持している場合が多く、SOAなど先進的な試みに取り組んでいる。以前なら先進的でない多くの企業が、こうした先進事例に学んだのだろうが、いまや全く役に立たない。マネをしたくても、社内にそのためのリソースがもはや残されていなからだ。

 とは言え、中小企業とは違い大手・中堅企業にとって、ITの活用は不可欠なこと。仕方がないので、「要件定義もやってくれ」とばかりITベンダーに丸投げするなど、アウトソーシング比率を増やしていくしかない。SaaSの活用なんかも当然、選択肢に入るのだが、これまでは「セキュリティは大丈夫か」などと根拠不明の理由を見つけては、採用を見送ってきた。

 ところが昨年、格好の事例が現われた。巨大な“IT後進企業”である日本郵政がSaaS採用に踏み切ったことだ。システム開発力・運用力を失った大手・中堅のユーザー企業にとって、同じ後進企業同士、この事例は学べる。あっという間に「セキュリティ面で不安がある」とか、「重要データを外国に置くのはいかがなものか」といった話は過去のものになった。

 そんなわけだから「サービス業にはサービス」と別軸の話だが、ITベンダーとしてはSaaSを売り込むために、積極的に大手・中堅企業のドアをノックした方がよいだろう。たとえシステム部門が首を縦に振らなくても、ユーザー部門は歓迎するだろう。ITサービスの提供を受ける側であるユーザー部門にとって、サービス提供者が社内なのか社外なのかは、結局のところ、どうでもいい話なのだから。