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 マイクロソフトによるヤフー買収提案。その記者会見の場で、マイクロソフトの幹部はグーグルのことを「市場独占者」と呼んだそうだ。「マイクロソフトよ、お前が言うな!」との声もあるが、似たようなシチュエーションが以前もあった。振り返ってみて思うに、マイクロソフトがヤフーの買収に成功するとしたら、それはマイクロソフトにとって“凶”となるじゃないかと思う。

 今回の件をどうこう言うまでもなく、ITの世界における“覇者”交代はもはや既成の事実。グーグルとマイクロソフトの争いはまだまだ続くだろうけど、「パッケージ・ソフトの時代」は終焉し、ネット業界がIT産業をリードする時代になったことを否定する人はいないだろう。コンシューマ分野での動向がやがて企業分野に波及するというのも、ここ10年来の“基本法則”で、企業向けのSaaSの普及を疑う声もほとんど聞こえて来なくなった。

 まさにマイクロソフトが作り、マイクロソフトが君臨する“エコ・システム”が、グーグルなどの新たなビジネスモデルによって賞味期限切れに追いやられようとしているのだ。もちろん、個々のパッケージ・ソフトやベンダーは死滅したりはしない。ただし、ITの付加価値の中心ではなくなり、既存の市場はシュリンクするはずだ。そして、このエコ・システムに組み込まれたSIerやハード・ベンダーも状況は同じである。

 では、マイクロソフトをはじめパッケージ・ベンダーなどは、どうすればよいだろうか。まあ、自らのビジネスモデルを“ネット型”に転換できたら話は早い。実際マイクロソフトなんかも、10年にわたりチャレンジを続けている。しかし、はっきり言えば、成功している企業が自らのビジネスモデルを否定することなど、絶対に不可能である。可能になるのは奈落へ落ちた時だけだ。

 さて、そろそろヤフー買収提案に話を戻さなくてはならないが、まだ奈落に落ちていないマイクロソフトはビジネスモデルを変えることなんかできない。だから、MSNなどのネットビジネスは負け続ける。で、手っ取り早い起死回生の一打が、ヤフー買収ということになる。本当はグーグルを買えれば一番いいのだろうけど、それは無理だから負けが込んでいたヤフーを買おうというわけだ。

 でも、どうだろうねぇ。基本的にビジネスモデルを変えられないわけだから、やはりこれは勝てないケンカだ。マイクロソフトのビジネスモデルに引きずられることになれば、ヤフーにとっても良い結果にはならないだろう。それに「市場独占者」と同じビジネスモデルで闘おうとするのは、どこかの国の検索エンジン開発の国家プロジェクトと同じくらい筋が悪い。

 そう言えば、冒頭で書いた「似たようなシチュエーション」とは、やはり覇権交代の時の話。IBMがマイクロソフトとのことを「市場独占者」と呼び、あちらこちらから「IBMよ、お前が言うな!」との声が上がった。しかし、OS/2なるOSでマイクロソフトを打倒しようとして惨敗したこともあり、あっさりとマイクロソフト・セントリックな状況を受け入れた。その結果、IBMはIT市場をリードする存在ではなくなったが、“立派なサービス会社”として成長を続けた。

 で、マイクロソフトだが、かつてのIBMとは違い、ネット業界でも覇者になる野望を捨てようとせず、勝ち目の薄いグーグルとの正面戦を続けるつもりのようだ。ヤフー買収が成功したら、もはや引き返せない泥沼の戦いになるだろう。

 もちろん、「戦うな」と言っているわけではない。でもねぇ、どうして「市場独占者」と同じ土俵で戦うのだろうか。グーグルのマネをしても仕方がないのにと思う。グーグル・セントリックな状況を受け入れがたいのならば、「市場独占者」のビジネスモデルを揺るがす新たな土俵(=市場)を作って勝負する必要がある。かつてのマイクロソフトはそうだったし、敗れたとはいえ、ネットスケープがそうだった。そしてグーグルもしかりである。

 まあ、それが簡単にできれば、誰も苦労しないのだが。グーグルにしても、これから10年もすれば同じような難題にぶつかるだろう。その時、「グーグルよ、お前が言うな!」と言われながら、いったい誰に対して「市場独占者」との言葉を投げつけているだろうか。