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 前回はプレゼンテーションする時の考慮点をまとめて見ましたが,日本人のプレゼンを見ていて私がいつも感じるのは,「ポイントがはっきりしない」ということです。

 「要するに何を言いたいのか」 「今回の会合の目的は何なのか」 「何を達成するための打ち合わせなのか」をちゃんと伝えていないということです。

 例えば,会社概要を説明する場合,HPからそのまま抜き出してきたかの如く,設立日,所在地,資本金などが,売り上げ,社員数などと一緒に並んでいるスライド。番地まで書いてある「住所」を使って,どんなメッセージを伝えたいのでしょうか?

 創業○○年と書いて,その会社の歴史から企業文化(Corporate Culture)の話に展開するのであれば有効ですが,単に設立日を書いただけでは,「情報」になっていませんよ。

 また,会社の規模を示す時,シリコンバレーでは資本金よりも売上げ(Revenue)を使うことの方が圧倒的に多い。それは,資本金では経営の現状を伝えることができないからです。

 アメリカのプレゼンテーションには,1枚1枚のスライドが,そのプレゼンテーションのテーマに明確に結び付いています。

 先述の会社概要の例であれば,まず企業理念(Philosophy)または企業の究極目標(Vision)に始まり,使命(Mission)を書いたスライドが続きます。企業としての存在意義を示しておいて,技術開発に対する考え方や製品戦略の説明の伏線とするのです。業績の現状なら,会社規模(事業所数,社員数等)の説明の次に売上げの推移を示すスライドを続けて説明します。

 日本人のプレゼンはストーリーが見えない。点は散在しているけれども線になっていない。これが,多くのアメリカ人側の感想です。欲しい情報が充実していないということ。そこで突っ込んだ質問をするのですが,プレゼンの準備に想定問答まで手がまわらないため,的を射た答えをすることができないのが日本人のプレゼンター。

 コラムを書く時も同じですが,まず何を書きたいのかを決めるところから始めます。本当に伝えたいことは何なのかを見極めるのです。(プレゼンが下手な人はここが弱い。) そして,そのメッセージを相手が正しく理解してくれるように説明するには,どういう思考展開で説明するのがベストなのかを考えます。これがストーリーの組み立て。関連情報だと思っても,ストーリーの軸からはずれる情報やポイントを希釈してしまう情報は,思い切って盛り込まないという取捨選択も大切です。

 プレゼンのテーマ(本当に言いたいこと)が明確になれば,ストーリー(プレゼンの構成)は自ずと見えてきます。そして,各スライドで説明したい内容も明らかになってきますので,読み原稿を作って何度か練習すれば,発表を暗記することも容易になるはずです。

 日本語は概念的な言語なので,具体的な内容を昇華させ,抽象化してまとめるに適した言語ですが,英語はその逆で,具体的な言語です。即ち,日本語はスライドに項目を列挙するのに都合よく出来ていますが,スライドの中味を具体的に説明するには不向きです。そこで英語的発想が必要になるのです。

 「英語では断定的に言わないといけないのですよね。」と言う日本人がよくいますが,断定的な物言いと具体的な表現とは異なります。そこを勘違いしているというか,違いに気が付いていない人が少なくないですよ。具体的というのは,単語の一つ一つにニュアンスが含まれていて使い分けが必要だということ。

 例えば,同じ「言う」でもsay, tell, suggest, hint, insist, order等々と選択肢がたくさんあります。日本語のように行間を読み取ってもらう代わりに,慎重にことばを選択することによって,伝えたいことを正確に,ニュアンスまで含めて伝えるのが英語の特徴です。

 抽象的,概念的な表現を主とする日本語で書かれたプレゼン資料は,よほど突っ込んで「本当に言いたいことは何か」を考え抜かないと,英訳すらできないです。もちろん,表面的に単語を置き換えただけの英訳は可能ですが,それでは使い物になりません。自分の言いたいことがちゃんと相手に伝わる英語のプレゼン資料にするには,自分の頭の中で要点を具体的に整理しておく必要があるのです。

 スライドには項目のみを書き,詳細は口頭で説明するという作戦は有効ですが,「ABC社の協力(技術,ビジネス)が必要」はあまりにも抽象化しすぎていて,こちらの意図は相手には伝わりません。We need your cooperationと訳せば,体裁は英語になりますが,中味の無い英語です。

 技術的協力とは何をイメージしているのか,ビジネス的協力とは何を指しているのかを具体的に説明しなければなりません。ベータ版のソフトを使って検証できる契約を結びたいのか,検証で発見したバグは改修してもらいたいのか,機能検証にあたって装置を貸して欲しいのか,それとも質問があった時に回答をもらえればよいのか,協力と言ってもいろいろありますから,具体的な要望を説明するのが英語的思考です。

 上記のスライドで「基本機能の確認」とありますが,これは皆さんだったら何と訳しますか?Verification of basic functionsですか?

 日本語では「基本」機能でも,その内容は商用化に必要な機能ですから,試験の対象とする機能すなわちTarget functionsとかtarget featuresということになります。

 さらにもっと英語らしい表現があるのです。それはPoC (ポック). Proof of Concept。
 直訳すると,「概念の証明」ですが,「イメージしていること(概念)が実際にできるのかどうかを確認(証明)すること」という意味です。求めている性能や拡張性,耐障害性が出せるかどうかはまず横に置いておいて,やりたいことができるのか機能や動作を確認するということ。開発ライフサイクルにおいては,プラニングの次,設計や開発の前の段階に相当します。

 先の日本語のスライドは英訳すると,次のようになります。

 日本人の大好きなetcですが,スライドではe. g. (for exampleという意味のラテン語:exempli gratia ) を使い,etcは避けましょう。

 第1期の説明では,
The targeted features are ~ and ~.
We will focus on ~ and ~.

このように口頭で補足説明すると効果的です。

 今回は,うっかりするとWe want your cooperationと訳してしまいそうな「協力が必要」をどう具体化するかを例に挙げましたが,次回はもう少し詳しく,英語的発想に切り替える練習をしてみたいと思います。