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 「自動車のような産業構造に再編すべきだ」。NTTデータの山下徹社長はインドや中国など海外ソフト会社が日本市場に本格進出してくる前に、ソフト産業の構造改革を実行する必要性を説く。日本のソフト産業が崩壊の危機にあるからだ。

 そのヒントを自動車産業に求めた。トヨタ自動車、日産自動車など数社の自動車メーカーがエンジンなどコア製品を自ら設計、開発するものの、タイヤやマフラーなど多くの部品を専門部品メーカーから調達し、最終製品に組み立てる。一方、部品メーカーは国内外の自動車メーカーに部品を売り込み、グローバル展開を図る。

 ソフト産業に目を転じると、NTTデータをはじめとする大手から中小ソフト会社まで同じようなビジネスを展開している。エンジンは作るし、タイヤもマフラーなどの部品も自前で開発する。金型まで自分でおこすといった、いわばシステムを一から作り上げるソフト会社が数多く存在する。しかも、みんなが食べられる多重下請け構造を形成した。

 山下氏は「ここに大きな問題がある」と指摘する。日本で開発されたソフトの品質や生産性は高いと言われているが、「腕のたつ職人が五重塔や神社を作っているような感じ」(山下氏)。確かに、特注品を1つひとつ作り上げるニーズはあるし、パッケージソフトの開発はその面が強くある。未踏の大規模システム開発を手がけるのも重要だが、海外ソフト会社に「五重塔が作れるか」と特注開発の技術を強調する意味は薄れている。ユーザー企業は競争に打ち勝つために短納期やコスト低減を求められているからでもある。

 それに応えるにはモノ作りを徹底的に合理化すること。今のソフト産業は同じようなシステムをあちこちで開発するというムダな作業を延々と続けている。この仕組みを根本から変えない限り、多重下請け構造や長時間残業などの問題を解決できない。技術の蓄積にも課題があるし、魅力ある産業にもならない。

 こうした問題は10年以上前から指摘されているが、ソフト産業は構造改革に手を付けなかった。山下氏はそれを認めるが、今回は「黒船が大砲を撃ち始めた」という外圧が加わったことで事態は一変したという。「日本で、欧米製業務アプリケーション・ソフトは通用しない」と思われていたら、国際会計基準の流れが押し寄せたことで、独SAPのERPを採用するユーザー企業が急速に増えたこともそうだ。

海外ソフト会社に買収される?

 このままの経営形態を続ければ、インドや中国など海外ソフト会社に買収されてしまう可能性すらある。時価総額3兆円のインド企業があることを考えれば、100億円から1000億円程度の日本のソフト会社はいつでも買収対象になっても不思議ではない。ちなみに最大手のNTTデータでも1兆5000億円程度である。タタ コンサルタンシー サービシズ(TCS)やウィプロなどがM&Aを視野に入れているようだ。TCSのスブラマニアン・ラマドライCEO兼社長は2月に来日したおり、日本向けプロジェクトを担当する技術者を今の2000人から6500人にすることを明らかにしている。ウィプロは現在のところ、その数は2500人である。

 07年12月13日に発表したTISとインテックホールディングスの経営統合も、その流れから推測すると、先手を打ったとも言える。両社とも時価総額は1000億円弱である。中堅ソフト会社のアルゴ21が07年にキヤノンマーケティングジャパンの傘下に入ったのもそうした見方もできる。ITインフラの標準化や開発手法の整備などへの投資を怠れば、生き残りは難しくなるだろう。

 そのカギが「ソフト産業の近代化、工業化にある」とし、山下氏は手始めに「規格型SIを推進すべきだ」と主張する。プレハブ住宅のように規格化した柱や窓、壁などをトラックに積み込み、1日で家が建つような感覚でシステムを構築する。工場で設計図通りに複数の部品を組み合わせて作り上げるので、現場でカンナを磨いて、木を削り始めるわけではない。

 マフラーだけを作るソフト部品会社、タイヤだけを作るソフト部品会社と、システムインテグレータと呼ぶシステム組み立て会社に分業化することで、インテグレータはソフト部品会社から調達した部品を組み合わせてシステムを構築する。インテグレータは国内中心に競争するが、ソフト部品会社はグローバル展開も図れる。もちろん工業化には品質や信頼性に関する基準も必要になる。

 この分業化と専門特化が工業化のキーポイントになる。インテグレータは組み立ての部分に、ソフト部品会社は部品開発にそれぞれ集中的に投資する。成長を支えてきた金融業界などのIT投資が削減すれば、ソフト産業を取り巻く経営環境は厳しさを増すだろう。「植民地になるのか、自立するのか」(山下氏)。企業の大小には関係なく、08年は激変・再編の年になりそうだ。

※)本コラムは日経コンピュータ2008年2月15日号「田中克己の眼」に加筆したものです。