PR

 今更ながら当たり前のテーマを掲げることをお許し願いたい。

 タイトルをご覧になって,このテーマを「当然のことでバカバカしい」と思われる方は,今回はスキップして頂いて結構である。しかし,読んで欲しい人が結構存在する。何故,今更ながら当たり前の議論を仕掛けるのか。最近たて続けに,いささか驚く場面に出くわしたからである。

 先日,ある某中堅企業のトップAと話していた時のことだ。Aは「ITはよく分からないので,専門家に任せ,一切口を挟まない方針だ」と語り,悪びれた様子もない。「ITは経営そのものだから,経営者がコミットしなければならない。でないと,効果も期待できず無駄な投資になる」と説得すると,Aは「設計や営業にトップや経営者は口を出すか? どちらも,その筋の専門家に任せている。まして,ITにおいておや…」と,理屈を並べ始めた。

 また,ある地方の某業界の集まりでCIO(最高情報責任者)の役割について話を請われてした時には,次のような質問が出た。「今日の話の9割は,何もCIOに限ったことではない。同じ内容を,例えば経営者を対象に,あるいは資材部長を対象に話しても通じるのではないか」。要するにCIO対象なのだから,ITに特化した役割の話をして欲しいということらしい。

 どうも,いずれもITを,いや企業の業務そのものを誤解しているようだ。

設計や営業でも重要な部分は経営そのもの

 確かに,設計者が計算をしたり図面を書いたり,あるいは営業担当者が顧客を訪問して商談したりする部分は,どちらも専門家の仕事である。しかし,どんな製品を開発するか,どんな原価を削減をするか,どの市場を攻略するか,優良顧客をいかに獲得するかは,経営そのものである。さらに,計算にしてもどんな考え方で計算をするか,顧客訪問にしてもどんな売り込みをするかに至るまで,経営そのものである。その部分が設計にも営業にも極めて重要であり,それぞれの業務に占める比率も高い。ITについても,同じことが言える。

 トップや経営層に限らず,中間層や担当者のレベルまで「ITはあくまでもIT専門分野の仕事なのだ,ITに経営やビジネスの話は似合わない」という考え方が,蔓延しているおそれがある。読者の皆さんは「いや,我々のところではそんなことは絶対あり得ない」と言い切れるだろうか。

 上記のトップAや講演における質問者は,たまたま正直過ぎた。そのため「ITに経営やビジネスの話は似合わない」という考え方が表面化しただけではないのか。そういう考え方が,多くの人の心底に,無意識のうちに存在していないだろうか。自らが気づいていないだけではなかろうか。存在しているとすれば,経営者にしても担当者にしても過ちを犯す。

 そこで,「ITは経営そのものだ」,「ITはビジネスそのものだ」と,当たり前のことを今更ながら,あえて断りたくなるのだ。その当たり前のことを,少しなぞりながら検証してみたい。

ITの成功には経営の視点が求められる

 まず,ユーザー企業である。IT導入計画において,トップがITの導入方針を明確に打ち出すことが欠かせない。さらにIT導入を成功させるためには,トップのコミットメント,目標の明確化と定量化,プロジェクトに優秀な人材を確保する,社内の意識改革,ユーザー意見の反映,業務改革などが必要だが,いずれにも経営の視点が求められる。

 しかもこれらは,何らかのプロジェクトを推進する時に常に必要とされる要素であって,IT特有のものではない。どんなソフトウエアとハードウエアを選ぶか,どこのベンダーに依頼するか,あるいはどんなシステムを設計するかなどのテーマについても,品質・経済性・拡張性や保守性などからの検討が必要であり,経営センス抜きには考えられない。

 要するにIT導入は,経営そのものである。フローチャートの作成,プログラミング,コーディングの段階に来て,やっとITの専門知識特有の分野になる。しかし,それに対する取り組みとて,事務的にのぞむと予期せぬ問題を起こすので,経営センスを必要とする。

 ベンダーやSEについても,同じことが言える。

 ベンダーは,純粋にIT技術を駆使してソフトウエアなりシステムを構築していれば済むものではない。自社製品を売り込まなければならないし,そのための魅力的なプレゼンテーションが必要になる。プロジェクトを成功に導くためにクライアントとの関係を的確に保たなければならないし,最終的には自社の収益を確保しなければならない。ベンダーのITへの関わりは,ビジネスそのものである。

 SEといえども,コンピューターとプログラミングの知識さえあれば勤まるものではない。むしろ,SE業務に占める専門的知識の比率は,必ずしも大きくないとも言える。

 SEに必要な条件は随所で議論されているが,どれも大体同じである。ちなみに「最新SEの基本と極意」(山内美香著)から,「SEとして仕事を進めるうえで重要な事柄を10項目」を引用すると,次のようになる。最も実用的な書物の一つなのであえて引用するが,ここでもビジネスマインドが強調されていることが分かる。

  1. 業務を知りユーザーと一緒にシステム構築できること
  2. 若いうちに基礎を身につけておくこと
  3. 成果物の重要性を理解すること
  4. 悩まずに行動して考える癖をつけること
  5. 仕事には優先順位をつけること
  6. 要求には素早く対応すること
  7. 頼れる仲間をたくさん持つこと
  8. 決断力と行動力を持つこと
  9. 直観力を持つこと
  10. コミュニケーション能力を磨くこと

 これらは,何もSEに限定しなくてもいいことばかりではないか。製品設計者にでも,営業マンにでも,倉庫員にでも言えることだ。SEの話をしているのだから,SEの業務に限定してくれということ自体に無理がある。SEの仕事は,ビジネスそのものなのだから。

 ITを語るということは,経営そのもの,ビジネスそのものを語ることなのである。それを誤解してある枠の中に限定しようとすると,IT(および経営,ビジネス)で成功できない。