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 「(今のITサービス業界は)約30年前に新しいサービスをゼロから創造した人たちの遺産で食べている。手順化され、形骸化されており、それを打ち破るサービスを開発する時期にきた。今後、5年間で新しいものを作り上げたい」。

 NTTデータ初のフェローに07年4月に就いた山本修一郎氏(技術開発本部システム科学研究所所長)は、メインフレーム時代に活躍した技術者らが第一線を退く今、新しいサービスを考え出していく必要性があると説く。そのキーワードは知識創造デザインになる。ITサービス産業を取り巻く環境変化に対応することを考えていけば、その姿が浮かんでくるという。

 具体的には、発注企業(大規模化・複雑化・グローバル化、ビジネス・イノベーション、ビジネス整合性など)、新開発技術(高信頼性、非機能要求、価値評価など)、開発現場(知識集約化、グローバル化、高信頼化、ゼロストレス化など)、サービス環境(SaaS=ソフトウエア・アズ・ア・サービス、PaaS=プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、HaaS=ハードウエア・アズ・ア・サービス)、NGN=次世代ネットワークなど)の変革である。

 しかし、ITサービス業界はこうした周りの変化に取り残されている。なので、まず「何をすべきか、というミッションを再設定する」(山本氏)ことから始める。発注企業という点では、提供するITサービスがビジネスに本当に貢献しているかだ。「顧客から要求されたことだけでは、答えは見つからない。その先にいるお客さんの価値や創造を見つける。つまり、ビジネス・イノベーションを持続的に提供することで、これが知識創造デザインになる」(同)。

 この取り組みは、開発現場を労働集約から知識集約に変えることでもあり、“3K職場”と言われ、辛い話ばっかりになっているITサービスを、夢のある仕事に仕立て直すことにも通じる。

 1つは、IT技術中心から人間を中心にしたソフト開発に切り替えること。“動かないコンピュータ”や役に立たない情報システムの内容を分析すると、技術よりも責任やコミュニケーション、コラボレーションが大きな役割を果たしていることからも分かる。有効な解決策の1つは、企業内SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用して、知識を共有したり、疑問に答えたりする仕組みを築くことだろう。

 仕様作りが開発現場を疲弊させている問題もある。「昔は自分達で仕様をゼロから作った。ところが、ユーザーは30年前に作ったプロセスが分からないのに『現行通りでいい』と言う。リスクになるし、仕様書がなければ、何をテストするのかも分からない。あっても、どこまでテストしたら終わりなのかが分からない」(山本氏)。結果、終わりのない作業をしいられる現場の技術者のストレスは大きくなり、生産性を低くし、信頼性を低下させる。「ガンバレといっても、IT部門やソフト技術者は疲れてしまうだけだ。製造業が労働災害をなくす取り組みをしているように、ソフト開発はゼロストレスを考えることも重要である」(山本氏)。

情報システムの仮説検証

 もう1つは、情報システム化の目的を明確すること。情報システムが稼働したら終わりになってしまい、誰も責任をとらない企業がある。無駄な投資になる。「現場のここを変えれば、ビジネスでこんな効果が生まれる」といった目標を立て、仮説検証に入れる。そして、稼働後の検証で、効果をより上げるうえで不足している機能を追加していく。最初から100%満足できるシステムは存在しないのだ。

 もちろんユーザー企業とITサービス会社は対等な関係でやり取りする。目標を共有し、「誰にどんなサービスを提供するので、この機能が必要になる」などといった議論を重ねる。そこには両者のコミュニケーション・ギャップを埋める様々な要求工学も必要になる。「何のために、この性能がいるのか。どんな常態のときに、この機能がいるのか、といった基準を設定すること」(山本氏)。品質やセキュリティなどもある。

 その一環から山本氏は、ITサービス会社が提供するサービスの仕様公開を検討することを提案する。例えば、電子カルテの仕様をオープンにすれば、医療機関は自身にいちばん最適なサービスを選択しやすくなる。こうした報システムは、ユーザー企業の選択が進めば、情報システムの共有化、コモディティ化という道も出てくる。その先に個別に必要な機能を、ITサービス会社がユーザーと一体で考え出す。継続的なイノベーションを生み出していくサービスである。

 「仕様がないからITベンダーは押し付けになる。オープンにするということは、ITサービス会社がバリュービジネスを提案する会社に変身することを意味する」(山本氏)。ここが次世代のITサービスの領域になるというのだ。