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 マイクロソフトでは,社員の個人ブログが数多く公開されています。特に内容や形式が決まっているわけではなく,公開の場所も様々です。また,ほとんどは個人名で書かれていますが,中には匿名のものもあります。内容も,技術情報の提供から身辺雑記,あるいは「偽科学」の類をまじめに(本人は「偽」と気づいていないらしいようです)紹介した記事もありました。いずれの場合でも,読んでいる立場からすると,個人名を明記してある方が信頼できるような印象を受けます。

 そういえば,先日のITpro Watcherに「ビビリな若者たちよ!! 実名ブログで自分を「見える化」する勇気を!!」と,びっくりマークが4つも入った記事が出ました。

 これだけでは,実名でブログを書かないのは悪いことのような印象を与えます。しかし,記事で触れられているパネルディスカッションは,元のテーマが「相手に『この人とは会って話がしたい』と思ってもらえるメールを書くためのアドバイス」,つまり面識がない人に会ってもらうことを目的にしています。

 「ビビリな若者たちよ」と書く久米氏は,記事中でこのあたりの経緯を省略しているので,誤解を与えているようです。もっとも,それ以前の氏の記事を見ると,確信犯のような気もします。とばっちりを食ったのは,発言を引用されたパネラーでしょう。

 確かに,面識のない人にメールだけで会ってもらうのは困難です。自分という人間や仕事の内容を理解してもらうのに実名ブログは有効でしょう。実名ブログは自己紹介をするのに非常に効果的な手段だからです。

 ここでいう「実名」は本名という意味に限定しません。個人を特定できるユニークなIDという意味です。もちろん,同姓同名がいるので,厳密にはユニークではありませんが,私のブログを見てNHK長野放送局の横山哲也さんと誤解する人は少ないでしょう。

 私自身,実名で仕事をして随分得をしたことがたくさんあります。たとえば,勤務先のグローバルナレッジネットワークの創業期,当時のNifty Serveのフォーラムで多くの投稿をしたことで,私個人と会社の知名度はかなり上がりました。実際に具体的な案件に結びついたこともあります。また,多くの情報を発信する人には他からの情報が集まりやすいという特性もあります。

 だから,仕事の話をするのであれば,実名(または固定したペンネーム)でブログを書くことは,積極的におすすめします。でも,匿名だからこそできる活動があることも確かです。

 例えば,実名ブログを使って業界の裏話的なことを書くのは困難です。場合によっては職を失うか,良くても取引先を失います。IDGジャパンの月刊誌「Windows Server World」には「暗黒のシステムインテグレータ」という人気連載があります。これなどは匿名記事でしかできない例でしょう。

 そういえば,同誌には,かつて「覆面座談会」というコーナーがあって面白かったのですが,参加者の素性がばれて連載が終了したという噂も聞いています。要するに,実名で書いた方がいいこともあるし,匿名の方がいいこともあるということです。

 もっと深刻な問題も起きています。イラク人質事件の高遠菜穂子さんを擁護した(といっても,全面的に支持したわけではないのですが)あるジャーナリストは,実家に石が投げ込まれたそうです。本人だけならともかく,家族にまで被害が広がるというのは恐ろしいことです。社会的な問題に踏み込む場合は,匿名もやむを得ないでしょう。

 しかし,こうした制約や問題はあるものの,一般論として言えば,自分にとってメリットがあるのは明らかに実名ブログです。マイクロソフトを擁護しようが悪口を書こうが,石を投げられることはないでしょう。また,匿名ブログの場合,読んだ人は得しますが書いている人のメリットはほとんどありません。特に,現実世界でのメリットを求める場合は匿名ブログでは無意味です。まあ,害にはなりませんし,読んでいる人は喜んでくれるでしょうから,そこで満足できるなら構いません。好きでやっていることにとやかく言う資格は誰にもありません。

 ところで,ブログよりもさらに匿名の多いのが,ブログに対するコメントです。多くの人は,匿名での批判を望みません。そのため,批判的な匿名コメントには,無意識のうちに,無視するための言い訳を考え始めます。「この人は,きっと前提知識がないのだろう」「たまたま虫の居所が悪かったのだろう」「多くの人が同じ批判をしているように見えるが,実はたった一人の嫌がらせだろう」「この人とは『相性が悪い』のだろう」等々です。これでは,批判した意味が全くありません。

 同じ言葉で書いてあっても,トラックバックであれば,印象は少し変わります。匿名でも,一連の発言を読めば,その人のバックグラウンドや思想背景が分かるからです。匿名コメントで見られるような攻撃的な言葉遣いも比較的少ないようです。いわゆる「炎上」も,その仕組み上,あまり起きません。

 ITpro Watcherの場合でも,トラックバックは自由,コメントは登録会員のみ可能です(ただし,ITpro Watcherのトラックバックはあまりうまく動作していないようですし,公開コメントの記入者は著者を含め一切公開されない上,非公開コメントの場合は編集部でも個人を特定できないそうです)。私が書いている会社ブログ(こちらのサイトにある「千年Windows」)でも,トラックバックは許可していますが,コメントには厳しい制約があります(原則として弊社社員と契約パートナーに限定しています)。

 もし,記事に対してまじめに批判したいのであれば,コメントよりもトラックバックをおすすめします。ただし,システムによってはコメントやトラックバックが行われたことが通知されないため,気づくのが遅れることがあります。また,意図的に無視することもあります。本来が個人メディアですので,あまり過大な期待はしない方が良いでしょう。

■変更履歴
本文中2ヵ所で「養護」としていましたが,正しくは「擁護」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/04/16 13:10]