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 NECがSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)事業に本格的に乗り出した。富士通が事業範囲を中小企業向けのSaaSプラットフォームに限定したのに対して、NECは大手企業に直接、サービスを売り込む。その狙いはどこにあるのか。

 同社の安中正弘マーケティングユニット支配人は「システム・インテグレーション(SI)は提供側の人数で受注が制限されるが、SaaSは違う。これまで受注できなかった案件や対応できなかった案件も取れるようになる」と期待する。より少ない人数で数多くの案件を獲得するには、従来型SIでは限界がある。SaaSとSIを組み合わせることで新しい市場を開拓する考えだ。

 一方の富士通が、大手顧客企業にSaaSでアプリケーションを提供することに慎重なのは、ハード販売事業などへの影響を懸念してのこととみられる。だから、自身の影響力が弱い中小企業向けにターゲットを絞り、アプリケーションの品揃えについても、会計ソフトなどの独立系ベンダーに依存する形をとった。利益の源泉となるSIやアウトソーシングを中心とした従来型のビジネスを死守したいのだろうが、肝心の顧客企業のニーズが多様化していることを忘れてはいないだろうか。

 NECの川井俊弥マーケティング本部長代理は、SaaSへのニーズの高まりを強く感じるという。「すぐに安く始められ、いつでもやめられる、そういうスピードのあるサービスをユーザーは望んできた」(同)。従業員100人未満の中小企業でSaaSへのニーズが極めて高く、1000人以上の企業にも強いニーズがある、との調査結果も報告されている。

 2007年度上期、NECはSaaSに関するプロジェクトを走らせた。SaaSへの期待感の高まりを背景に、2007年下期には組織としてのSaaS対応を決めたいという意図があった。その答えが、2008年3月31日にNECが発表した「SaaS+SI」のハイブリット型サービスだ。SI事業の中から生まれたコンポーネント部品をSaaS化し、不足部分をSIで補う。この方法なら既存システムとの連携も図りやすい。

 ただし、SaaSへの期待感には業種によって温度差がある。製造業は自前のシステム運用にこだわる傾向が強いのに対し、流通業では逆にIT資産を持ちたくないという企業が多く、「SIの成果物そのものをサービス化して提供してほしいとも言われている」(安中氏)。流通業では、SaaSの実証実験の取り組みも始まっているという。

不採算案件、技術者不足の解消なるか

 SaaSのメニュー整備は、グループウエアなど、業種を問わず使えるものから着手する。まずはNECが提供するホスティング・サービス「WebCLUB」の機能から、「メール」や「情報共有」などをSaaSメニューとして2008年7月から提供開始する。

 加えて、NEC情報システムが開発した「旅費交通費精算システム」など、複数の企業が共同利用する「シェアードサービス」向けのメニューを用意する。例えば、大手企業が複数の子会社に同一のサービスを提供することで、IT投資の重複を避けられる。業種に特化したメニューも品揃えする。ある特殊工具メーカー向けに開発した在庫管理システムはその一例。世界各地にある工具の保守会社が在庫の単品管理に利用するという。

 この例のようなグローバル展開も視野に入れている。ただしサービス基盤の構築については慎重だ。「欧米や中国でもSaaSを手掛けたい。だが、SaaSの基盤を海外に持つか、日本からサービスを提供するのかはまだ決めていない。海外に設備を持つのは大きな投資になる」(安中支配人)。言えるのは、海外進出を考えた場合に、海外でSEを大量確保しSIをするよりは、SaaSを展開するほうが容易そうだ、ということだ。

 SaaSはSIからサービス提供型へ事業をシフトさせる大きなきっかけになる。目下のところ、SI案件は増加傾向にあるものの、ITベンダーやITサービス会社は、案件を慎重に選んでいる状態だ。最大の理由は、不採算案件の回避と技術者不足だが、SaaSはその有効な解決策になる。NECは2010年度にこの事業で1200億円の売り上げを見込んでいるが、その3分の1がSaaSそのもの、3分の2がSaaSを補完するSIになると試算している。