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 このブログの第1回で書いたように,昨年のXDev2007は,首都圏に台風が直撃した,まさにその日に開催しました。電車が止まったり遅れたりしてダイヤが大幅に乱れ,交通網が大混乱したことをご記憶の方も多いかと思います。今回は,XDevの取りまとめをしている筆者(真島馨=日経SYSTEMS)が経験した,今だから話せる当時の出来事(大ピンチ)を紹介します。

それは嫌な予感からはじまった…

 XDevというイベントを実施するにあたり,筆者はさまざまな記録を付けています。そのXDevの記録帳に,「台風」という文字が最初に出てきたのは昨年の9/1(土)。開催日9/7(金)のほぼ1週間前です。週間天気予報で,翌週に台風9号が関東に来るかもしれないという報道があったからです。しかし,そのときは「たぶん大丈夫」と,何の根拠もなく思っていました。

 次に「台風」の記録が出てきたのは9/4(火)。やや西に向かっていた台風9号が進路を北向きに変え,小笠原諸島に接近してきたころです。ちょうどその日,筆者はXDev2007の最大の目玉であった「茂木健一郎(脳科学者)×平鍋健児(チェンジビジョン)対談」(下記写真)の企画のため,渋谷のNHK放送センターに茂木さんとの打ち合わせに行っています。

茂木×平鍋対談

 しかしその打ち合わせの帰り,NHKの建物を出ると雨が降っていました。「台風が来ることはないにしても,当日雨になるのは避けられないかも」と,嫌な予感がしたことは覚えています。

 状況が緊迫してきたのはイベント前々日の9/5(水)の朝でした。台風9号が伊豆半島から関東にかけて上陸する可能性が強くなってきたのです。筆者は,ようやく事態の深刻さに戦慄しました。

交通機関がマヒ!

 そして迎えたXDev2007開催日当日。「ひょっとしたら台風の進路がそれるかもしれない」という,筆者の甘い期待は吹き飛んでいました。

 朝のテレビのニュースではどのチャンネルも,首都圏の鉄道がどこも運行停止,または大幅に遅れていることを緊張した面持ちのアナウンサーが伝えています。午後には天候が回復する見込みとはいうものの,あまりあてになりません。イベントの開催には最悪の天候でした。

 早々に会場入りして準備作業をしていると,緊急事態の知らせが届きました。なんと午前中トップの講演で茂木さんと対談される,チェンジビジョンの平鍋さんの到着が遅れているというのです。同社の方から受け取った携帯電話で平鍋さんと話すと,台風の影響で電車が遅れているうえ,タクシーも長蛇の列で乗ることもできないとのこと。まさに,心配した通りのことが起きてしまいました。なんということ!

 開催までもう1時間もありません。「とにかく,十分気をつけていらしてください。お待ちしていますから」。そういうのが精一杯でした。

 やがてイベント開催の10時が近づいてきました。しかし,平鍋さんの到着はまだ遅れたままです。そこでやむなく筆者は,平鍋さんが到着するまで茂木さんと二人でセミナーを始めることにしました。講師一人と司会者だけの「対談」――前代未聞ですが,やるしかありません。講演スタートも5分ほど遅らせます。

 茂木さんをお連れしてセミナー会場に入ると,すでに来場者の方が着席されているのが目に入りました。事前登録の通りなら,立ち見が出るほど盛況だったはず。しかし,間に合わなかったのでしょう。ところどころに空席が見えます。

これぞ,本当の「ライブ」

 そして10時5分。ついにXDevは開幕しました。筆者はオープニング・セッションの司会者として簡単なあいさつを述べます。ただでさえ早口の筆者の口上は,緊張もあってかなり聞き取りにくいものになってしまったと思います。ですが,そんな筆者の不安は,その後すぐに吹き飛びました。茂木さんです。

茂木さん

 茂木さんは「台風が来るとワクワクしますよね。こういうときだからこそアジャイルにいきましょう!」と会場に呼びかけて,一瞬にして雰囲気を「陰」から「陽」に変えてしまったのです。それはもう,落語の名人芸でも見ているようでした。しかも,次から次へと言葉が出てきます。そのどれもが興味深く,面白い。

 と,そこへ10分遅れで,平鍋さんが到着しました。そのときの筆者のホッとした気持ちといったらありません。最悪,講演時間内の到着は無理かも,と覚悟していたからです。でも,平鍋さんのすごいところは,ここからでした。

 平鍋さんは会場の奥から走って壇上までかけ上ると,すぐに遅れたお詫びを述べられました。そして,まるで最初からそこにいたかのように,茂木さんと二人で見事なまでに息の合った対談を始めたのです。会場に到着するまで,かなりの苦労があったはずです。しかし,流れるように茂木さんとの掛け合いをするのです。

平鍋さん

 今だから打ち明けますが,実は平鍋さんと茂木さんはこのときが初対面でした。本来なら事前に顔合わせをして打ち合わせしたかったのですが,多忙なお二人のスケジュールが合わず,ぶっつけ本番での対談だったのです。

 なのに,このお二人。まるで何年も前からお知り合いだったかのように,ほとんど間をおかずポンポンと会話が進んでいくではないですか。つまり,正真正銘の「ライブ」でした。茂木さんが名人芸なら,平鍋さんは達人芸とでもいうべきでしょう。その絶妙なやりとりと話しの進め方に,筆者は司会役ということを忘れるところでした。

 このときの様子は,【XDev】「意欲とビジョンが達成感をもたらす」---茂木氏×平鍋氏の異色対談や,平鍋さんのブログにも書かれているので,ぜひお読みいただければと思います。

 やがて,対談時間が過ぎ,会場は拍手に包まれました。このときの拍手ほど,ありがたいと思ったことはありません。まさにお二人の天才が起こした奇跡でした。茂木さん,平鍋さん,そして当日,台風の中,ご来場いただいた皆様,あらためて御礼申し上げます。本当にありがとうございました!