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 5月14日,六本木アカデミーヒルズ40で講演した。アカデミーヒルズ40へのエレベーターは一般階へ行くエレベーターホールのある2階にはなく,エスカレーターで1階に降りてトンネルのような廊下に入った目立たないところにある。なんだか「こそっと」入る感じで面白かった。40階のホールからの眺めはすばらしいのだが,講演会場には窓がない。会場は客席の配列が逆扇型のめずらしい形で,客席が横に広がっているためステージも横長でスクリーンは4面もある。

 立派な会場で気持ちがいいのだが,客席側の照明が暗くしてあり,ステージが照らされているので聴いている人の顔が見えにくいのが難点だった。顔が見えないと反応がつかみ難いからだ。しかし,幸いなことに眼の前にすわった男性が面白そうに笑いながら聴いてくれたので,とても話しやすかった。約200人の受講者の中には,新著「間違いだらけのネットワーク作り」を読んで,わざわざ大阪から駆けつけてくれた大手通信事業者の若手エンジニアもいた。Googleで筆者の名前を検索して見つけた「ぐるぐる」というブログでこの若者を知ったのだが,講演の冒頭でブログに新著のことを書いてくれたことと,大阪から来てくれたことに御礼申し上げた。講演終了後にメールをもらい,本名と勤め先が分かった。

 さて,今回はこの講演でも述べたワイヤレス・ルーターを使った本格的なWANが京葉ガスさん(東証二部上場,社員数875人,売上約780億円)で始動したこと,その上でコンバインド・コミュニケーションが構築されることを紹介したい。コンバインド・コミュニケーションの中核は積水化学グループ2万人が使っているものと同じで,オープンソース・ベースのメール/グループウエアだ。京葉ガスさんではNotesをこのメール/グループウエアでリプレースする。

ワイヤレス・ルーターを使ったWAN設計

 京葉ガスさんの「サーバ/ネットワーク更改」プロジェクトは08年2月1日にスタートした。プロジェクトの目的は「通常時はもちろん災害発生時でも利用可能な安定性・可用性の高いネットワーク/サーバー・インフラを構築する」,「メール,社内ポータル,掲示板等のコミュニケーション・ツールで社内コミュニケーションの円滑化を図る」,「ネットワーク/サーバーにかかわる情報システム部の運用管理業務の負荷を軽減する」の3点だ。

 ネットワークの概要構成はのとおりだ。小規模拠点以外は災害時にも通信を確保すべく,NTT系の光ファイバ(NTT東・ビジネスイーサ)と電力系の光ファイバ(KDDI・パワードイーサ)でキャリア・ダイバーシティを取り,異局・異経路の回線で二重化している。

 さらに重要拠点2カ所とコンピュータ・センターは,イー・モバイルのワイヤレス回線で三重化している。

図●京葉ガス 新ネットワーク構成概要
図●京葉ガス 新ネットワーク構成概要
設計・構築・保守運用はNTTデータが担当
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 ワイヤレス・ブロードバンドでは,各拠点でイー・モバイルの電波を受信可能な基地局が3カ所以上あるため,仮に地震で基地局が1~2カ所使えなくなっても残った基地局で通信を確保できるのが強みだ。昨年7月の新潟中越沖地震の際に災害対策本部で仕事をした人に聞いたところでは,携帯電話各社のデータ通信サービスは不通にならなかったという。携帯電話のデータ通信網は災害時に生き残る可能性が高いし,線を引く必要がないため被災しても早期の復旧が期待できる。光ファイバとワイヤレス・ブロードバンドを組み合わせることで,災害時の通信確保の確率を高めることが出来るのだ。

 ちなみにイー・モバイルの回線は常時接続しており,IPsecのパスを拠点間に張っている。データセンターは送信データ量が多いので,ワイヤレス・ブロードバンドではなくBフレッツでインターネットに接続している(図中「B」)。ワイヤレス・ブロードバンドはネットからの下りの帯域幅は3.6Mまたは7.2Mビット/秒だが,上りは384kビット/秒しかないため,上りのトラフィックが多い拠点には向かない。

 小規模拠点は図中「C」のようにメイン回線としてはADSLを使い,バックアップとしてイー・モバイルを利用している。2台のワイヤレス・ルーターはVRRPで相互バックアップしている。ここでもワイヤレス・ブロードバンド回線は常時接続でIPsecのパスを張っている。

 念のために書いておくがワイヤレス・ルーター(製品名:F140D)はもともと積水化学さんの本社などで使っているブロードバンド・ルーターの姉妹品で,広域イーサネット,Bフレッツ,ADSLなどの回線を収容でき,光ファイバ単独でも,ワイヤレス単独でも使えるし,これらを併用することも出来る。安価だが性能はIPsec利用時でスループット110Mビット/秒以上だ。

 このネットワークはデータセンター,コンピュータ・センター,本社など5拠点が6月1日に始動した。今後,各拠点への検疫ネットワーク導入と並行して拠点移行を進め,8月末には全拠点の移行が完了する。

NotesをOSSベースのメール/グループウエアでリプレース

 社内コミュニケーションの円滑化を図るための主役は図中「D」のコンバインド・コミュニケーションだ。これまで利用していたNotesをオープンソース・ベースのメール/グループウエア(愛称:Mirovia,NTTデータセキスイシステムズの登録商標)でリプレースすることにより、利便性の向上とコストの大幅削減を図る。 また,エンタープライズ・サーチやストレージ(拠点のファイル・サーバーを廃止して,データセンターに集中)を新たなサービスとして提供し,社内の情報共有や活用促進を実現する。

 Miroviaはもともと積水化学グループ2万人で利用するために開発された。メールサーバー、データベースはじめ約150本にのぼるオープンソースソフトウエアを用い,スケジューラ,文書管理,掲示板,会議室などのグループウエア機能とマニュアルレスで使える分かりやすいユーザー・インタフェースを独自開発している。メールはAjaxを使ったWebメールで,使いやすく軽快な操作感を実現している。

 ユニファイド・コミュニケーションがシングルベンダー指向で,電話・メール・IMなどをベンダー独自インタフェースで統合するのに対し,コンバインド・コミュニケーションは安価で高機能なメール,グループウエア,エンタープライズ・サーチ,Web会議などをオープンなWeb技術で組み合わせて提供するマルチベンダー指向だ。そのため,ユーザー要件や好みに応じてメール/グループウエア,エンタープライズ・サーチなどの製品・サービスを選択できる。

 また,ユニファイド・コミュニケーションは電話を中心に考えられていることが多い。しかし,コンバインド・コミュニケーションは利用が激減している電話はオプションとし,メールをその中心に据えている。

 京葉ガスさんでも今回は電話をリプレース対象としておらず,PBX以下は従来どおりでIP電話化しない。ただし,主要な8拠点についてはPBX間をVoIP-GW(ゲートウェイ)で接続し,内線化する(図中「E」参照)。一般論としてPBXの方がIP電話より停電や災害に強いというメリットがある。IP電話機をLANに接続するIP電話は停電対策,災害対策が難しい。停電時にはIP電話サーバー,LAN,電話機の電源をすべてバックアップせねばならない。これはやって出来ないことではないが多額の費用がかかる。また,外線をひかり電話などのIP電話にすると,災害時優先電話が使えなくなる。災害時優先電話とは災害時に電話が混雑しても優先的につながる電話だ。優先電話は災害の復旧や救援,秩序の維持のため,法律に基づいてNTT東西が指定する。消防・警察などとともに,電気・水道・ガスの供給に直接関係がある機関も対象になる。IP電話やNGNには今のところ災害時優先電話はない。

 PBXであればPBXから電話回線で電話機に給電できるため,PBX本体にバッテリーを積んでおけば容易に停電対策が出来る。また,優先加入のISDNやアナログ電話回線を残すのも簡単だ。

「反逆的」講演?

 六本木アカデミーヒルズでの講演のポイントは「通信の価値が距離と時間で決まるテレコミュニケーションの時代は終わり,サービスの内容で価値が決まるリッチコミュニケーションの時代になった」,「リッチコミュニケーションの要素としてワイヤレス・ブロードバンドとオープン化するケータイ端末に注目すべき」,「企業におけるコミュニケーションを電話主体で考えるユニファイド・コミュニケーションは根本が間違っている。コンバインド・コミュニケーションを進めるべき」の3点だ。 

 後日,事務局から届いたアンケート結果は「とても参考になった」54%,「参考になった」38%というハイスコアだった。コメントもたくさん頂いた。その中で面白いのは,「反逆的で非常におもしろかった。もっと聞きたい」,「面白すぎる。技術的な話をもっと聞きたい」といったものだ。筆者は「反逆的」ではない。ベンダーに迎合し,その製品を宣伝するような講演ではなく,180度視点が違うユーザーの立場で考え,話しているだけだ。反対の立場から話すので,反逆的に見えるのかもしれない。