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 SaaSよりPaaSの方がシステム・インテグレータ(SIer)に大打撃を与えるなあ・・・セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEOの話を聞きながら、そんなことを考えていた。クラウド・コンピューティングの最終的な勝者がどこになるかは別にして、このパラダイムシフトはSIerのビジネスモデルにトドメを刺す、そのことが妙にリアリティを持ち始めてきた。

 PaaSはプラットフォーム・アズ・ア・サービス、つまりサービスとしてのアプリケーション開発・実行基盤のこと。SaaSのようにアプリケーションまで作り込んだサービスではなく、アプリケーションを作って動かす環境をサービスしましょうって話だ。セールスフォース・ドットコムは「Force.com」とか言っているが、PaaSは何もこの会社の専売特許ではない。日本のITベンダーもおっかなびっくりだが似たようなサービスに乗り出そうとしている。

 情報システムをできるだけ作らないようにしようというのは、パッケージ・ソフトが登場した頃からの不可逆的なトレンドで、SaaSはその究極形といえる。だからSIerにとって、SaaSは脅威。まあ、これは常識。ただSaaSは、パッケージ・ソフトがサービスに置き換わったようなものだから、当面はそれほどの脅威ではない。むしろパッケージ・ソフトのベンダーの方が、SaaSの普及によって深刻な打撃を受ける。

 SIerとしては、スクラッチ開発していた部分がSaaSに侵食されると現実の脅威だが、既にERPパッケージに随分侵食されている。ERPパッケージではカスタマイズ・ビジネスが成立したのだから、パッケージ・ソフトの時に比べると儲からないかもしれないが、SaaSでもカスタマイズ・ビジネスをやれるかもしれない。

 一方のPaaSはどうかというと、SIビジネスの本丸、今まで特定の顧客のために作っていた領域にPaaSという基盤サービスを使いませんか、というアプローチだ。こう書くと、「結局作るんだから、SIerにとっては問題ないじゃん」と言われそうだが、本当にそうか。実際にはPaaSを利用することで、SIビジネスの多くの付加価値が失われてしまわないだろうか。

 単なるソフト開発だけなら、正確な意味ではSIではない。システム・インテグレーションは複数のハード、ソフトを組み合わせ、意図した通りに稼働するようにするところにビジネスの本質がある。特にオープン系システムが主流の現在では、SIerの最高の付加価値はIT基盤の構築であり、実際にまともなSIerほど、このIT基盤構築を売り物にしているケースが多い。

 ところがPaaSを利用すると、第三者であるPaaSプロバイダがIT基盤を提供することになり、SIerのその面での付加価値は消滅してしまう。つまり、顧客ごとの独自のシステム開発というSIビジネスの本丸の部分に、PaaSは大きな打撃を与える。また、運用・保守といったSIerにとっての別の収益源も、大幅なシュリンクは避けられない。

 だから “クラウド”上のリソースでシステムを開発するというビジネス・スタイルが一般化すれば、多くのSIerが店じまいか、商売替えを迫られるだろう。セールスフォース・ドットコムはそんなトレンドをWeb3.0と呼んでいるらしい。その言葉に乗っかって言えば、SIerにとってWeb1.0はビジネス・チャンス、Web2.0は他人事、Web3.0は存亡の危機といったところだろうか。

 それはともかく、SaaSやPaaSといったクラウド・コンピューティングの潮流はもはや抗し難いトレンドだ。SIerが生き残っていくためには、こうしたトレンドに積極的に棹さしていくしかないだろう。特にPaaSについては、自らがPaaSプロバイダにならなければ、かなりヤバイことになる可能性がある。

 実はPaaS的なシステムは、以前から日本では普通にある。例えば地方銀行の勘定系システム。大手ITベンダーが開発・運営している共同利用型のシステムでは、PaaS形態のビジネスモデルを採用しているものがある。つまりPaaSの発想は決してとっぴなものではないから、SIerはPaaSビジネスへの取り組みを真剣に考えた方がよいと思う。

 ところで、大手SIerの下請けに甘んじてきたソフト開発会社にとっては、PaaSは大きなチャンスとなりそうだ。なんせPaaSでは純粋に顧客の業務アプリケーションだけを作ればいいわけだから、顧客の業務を熟知する技術者がキーパーソンになる。大手SIerは実際の開発や運用を下請けに丸投げしているケースも多い。さて、顧客がPaaSを使おうと考えた時、大事にすべきパートナー企業は・・・それはもう自明である。