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 今回より連載を持たせていただくことになりました。この連載では海外,なかでも米国を中心としたRFID(無線ICタグ)技術とその周辺の動向について書いていこうと考えています。

 もともとRFID技術は,各国の電波法などの制約があるため,海外で開発されたものがすぐに日本で利用できるわけではありません。また日本向けにカスタマイズされた製品は,オリジナルと特性が異なることもあります。このため海外で発表されたRFID技術・製品を,日本人が我が身に引き付けて考えることはどうしても難しい面があります。

 これが最近のRFID市場やRFID技術の変化を見届ける際の制約になっています。RFIDといえば,標準化団体のEPCグローバルが決めた規格「Gen 2」が有名です。その「Gen 2」が3年前にフィーバーしていたころは,RFIDの用途が1点に集約されていたため「見どころ」がはっきりしていました。つまり,米ウォルマート・ストアーズの使い方に対応できるかどうかがが評価の中心だったのです。分速180mのソーター上で正しく読めるかとか,読み取り距離はどれだけだとか,そういった面です。

 ところが現在は,RFID技術の利用分野が大きく広がってきています。導入業務や業界が増え,RFIDの技術要素の種類も増えているため,新製品や新技術のニュースを読んでも,ある程度の前提知識がないとポイントが分かりません。

 だからといって,海外のRFID動向の変化に目を閉じていてよいわけではありません。ウォルマートや米国の医薬品サプライチェーンなどでの導入義務付けという大きな動きは一服しており,一般メディアでのニュースは減ってきています。しかしRFID技術・製品の成熟は進んできており,実際に多くの企業が,企業内の業務改善のために積極的な採用を始めているのです。

金属や水分に強く,位置検知までできる

 連載の第1回は,日本と米国で認識がずれている典型的な分野の一つであろう,UHF帯Gen 2規格の利用の現状について書きたいと思います。

 日本では,利用条件に合わせて周波数を使い分けるという考え方が米国と比較して強いように思います。この考え方は自体はまったく正当なものです。いわく「(Suicaに代表される)HF帯(13.56MHz帯)のタグは読み取り距離が短い分,かえって個品管理には使いやすい」「UHF帯のタグは水分や金属に極度に弱い」といったものです。

 しかし,周波数帯ごとの得意不得意のイメージを固定的に持ってしまうのは危険です。まさに技術は日進月歩。RFID技術のブレークスルーにより,“常識”が変わってきているのです。特に,UHF帯Gen 2規格は注目度が高く,新技術の開発が活発に行われています。従来の常識では考えられないような製品がハイペースで登場しているのです。

 通常のUHF帯とHF帯のパッシブ型ICタグは,それぞれ電波(Far Field)方式と電磁誘導(Near Field)方式で通信します。電波方式の方が長距離で通信できるのですが,水を透過しにくいといった制約があります。UHF帯ICタグも同じ制約がある,というのがこれまでの常識でした。

 しかしUHF帯ICタグも,実はHF帯と同じ電磁誘導方式で動かすことも可能なのです。こうすれば読み取り距離は短いが,水分や金属の存在に強いICタグとしてUHF帯を使えます。この技術をNear Field UHFと呼びます。

 Near Field UHFでも,UHFが本来持っている読み書き速度の高速性は維持されます。通常のUHF帯ICタグと変わるのはICタグ内部のアンテナだけであり,ICチップは共通化できるため量産効果も期待できます。現在,米インピンジという大手ICタグ・ベンダーが,Near Field UHF製品に精力的に取り組んでいます。同社は米医薬品サプライチェーンでパイロットを実施しているほか,独メトロ・グループが最近オープンしたコンセプト店舗では,精肉トレーのモニタリングに応用を進めています。

 UHF帯製品の特徴である長距離の読み取りを生かしつつ,金属や水分との共存性を高めた製品も登場しています。

 従来,金属製品にUHF帯Gen 2タグを取り付ける際には,インレイ(ICチップとアンテナをフィルムではさんだもの)と張り付け対象物との間に,分厚い絶縁材を挟んだ専用のタグが利用されていました。分厚くなる分,保護用のケースも必要になり,サイズはしばしばチョコレートバーほどになってしまいます。

 しかし,この分野でもブレークスルーがありました。米Omni-IDというベンチャー企業が開発したした製品は,アンテナ部分にプラズモン構造という特殊な技術を利用し,最小のモデルは35mm×10mmという小ぶりなサイズで,厚さが4ミリしかありません。それでも通常のUHF帯ICタグと遜色のない通信距離を,金属に張り付けた状態で実現していています(インレイ本体が小さいため,保護ケースが不要なことも小型化できた大きな理由です)。Omni-IDが現在注力している用途の一つは,データセンターでの機材管理であり,米IBMがパートナーになっています。

 UHF Gen2分野での技術ブレークスルーは,電池付きのアクティブ型と,パッシブ型の壁も崩しつつあります。パッシブ型Gen 2タグの位置測定は,リーダーの読み取り範囲に存在するかどうかだけでしか判断できないというのが従来の常識でした。新しく登場した製品は,アクティブ型ICタグを用いたRTLS(リアルタイム位置検出システム)と同等の測位精度を実現できるというのです。

 今年春に製品を発表した米モジックスなどが代表例です。フェーズドアレイと呼ぶアンテナを用いた専用リーダーを使うことで,カタログスペックで30cmという精度を実現しています。これは通常,数mという精度しかないアクティブ型タグと比較して一ケタ高い性能になります。他にも,WirmaやRF ControlsといったベンダーがGen 2タグを使ったRTLS機能を提供していると主張しています。最近では,従来型のリーダーで,移動方向や距離,加速度などの基本的な移動情報を提供可能にした製品も登場しています。米エイリアン・テクノロジやインピンジなどのベンダーが提供しています。

 もちろん,技術革新はUHF Gen2タグだけで起こっているわけではありません。HF帯タグでも,読み取り距離や通信速度を向上させた「HF Gen 2」という新規格が提案されているし,アクティブ型タグを用いたRTLSでもUWB-IRを用いて測位精度30cmをうたうシステムが市場に投入されています。RFIDの現状を理解するのに,過去の常識にこだわるのは危険なのです。