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 クラウド・コンピューティングって何? そう聞かれたら、私は「最近のパラダイム・シフトを言い表すワードです」と答えることにしている。そうすると当然「ではSaaSは?」「PaaSは何だ」という話になるので、夏休みのヒマネタに少し整理しておこう。これらは決してバズ・ワードではない。おっと、そう言えばWeb2.0という言葉もあったっけ・・・。

 考えてみると、最近は異様なほどのキーワード・ラッシュだ。Web2.0、SaaS、PaaS、マッシュアップ・・・。ITベンダーは以前、いろんなキーワードを駆使して、ユーザー企業に使えないシステムを売りつけてヒンシュクを買った苦い経験があるので、最近はこうしたキーワードに懐疑的。でも異様なキーワード・ラッシュの時は、大きな“季節の変わり目”で何かあるんだよね。

 少し前に「SaaSとASPは何が違うのか」という、どうでもよい議論があった。はっきり言ってSaaSもASPも何も変わらない。ユーザーならともかく、マーケットを創る立場のITベンダーの人までが勘違いしていることに驚くが、以前からある技術、ビジネスモデルであっても、新たにマーケティングするなら新しいワードを使うのは当然である。

 SaaSもASPも企業システムのサービス化、所有から利用への流れに乗ったビジネスだ。ただしSaaSはASPブームの時よりも、はるかに巨大な流れがある。この前に書いたPaaSにしても同じ。以前から地方銀行の共同利用型システムで、同様のビジネスモデルがあった。だがPaaSは、SaaSと同様により大きな潮流の中にいる。

 一方、ブログやSNSに代表されるWeb2.0の潮流だが、企業システムの枠組みに強引に位置付ければ、グループウエアやイントラネットの延長線上にあるのだろうけど、それでは少し矮小化しすぎる。マッシュアップといった技術トレンドも含め、SaaSやPaaSの潮流と密接にかかわり合っている・・・。「うーん、モヤモヤする。一言で言うといったい何なんだ。別の言葉が要る」。以前、私はそんなことを考えていた。

 クラウド・コンピューティングというワードは、まさにそんなモヤモヤに“収束点”を与える。そしてITの今後のトレンドを、次のように語れるようになる。「企業システムも含めたコンピューティング資源がネット上(=クラウド側)に移行することで、所有から利用への流れは加速し、社内外の資源・コンテンツを活用した協業、あるいはマッシュアップなどの技術を活用した個人の増力化が進展するだろう」

 全く新しいトレンドを理解するためには、それを一言で言い表せるワードがいる。そのワードが見つかれば、それを収束点に様々な動きを体系的に説明できるようになる。そして、新しいトレンドを自ら操作して新しいビジネスを生み出し、人に働き掛けて新しい市場を造り出せる。そうした力のあるワードが、本当の意味でのキーワードである。クラウド・コンピューティングは、まさに本当の意味でのキーワードであると思う。

 では、クラウド・コンピューティングの潮流はパラダイム・シフトかどうかだが、これはもうそうに決まっている。我々がいま目にしているのは、C/Sシステムが勃興した90年代初頭のオープン化、インターネットの爆発的普及が牽引した90年代後半のWebコンピューティングに続く、新たなパラダイム・シフトであることは間違いない。

 C/Sシステムの勃興期には、個人の増力化がテーマだった。センター集中のITリソースを個人が利用する“パーソナル・コンピュータ”に分散することで、ビジネスにおける個人の創意を引き出そうという発想だ。そしてWebコンピューティングでは、セキュリティやコンプライアンスの観点から再びセンター集中による統制の必要性が叫ばれた。

 クラウド・コンピューティングは個人の増力化(それに自由な協業)と統制の両立を図るだろう。「統制」という極と「個人の創意の発露(=増力化)」という極に、振り子のように振れ続けてきたのが企業システムの歴史だが、クラウド・コンピューティングはその“矛盾”を最終的に解決するかもしれない。しかも、この前に書いたような殿様型から豪商型へのビジネスモデルへの転換の話もあるので、これまで以上に根源的な変化をもたらす可能性がある。

 あえて断っておくが、すべてがクラウド・コンピューティングに変わるなんてことは言ってはいないからね。だからITベンダーは開き直って、SIなどシステムを作るビジネスに固執してもよい。ただその場合は、今までのような何も考えない経営ではダメで、明確な戦略がいる。それは残存者利益を得る戦略である。パッケージ・ソフトの世界でオラクルやSAPがやっているのと同じことと言えば、もうお分かりだろう。