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 最近、IT業界の人から「これからは中堅・中小企業開拓だ!」との声を聞くことが多くなってきた。こういう話を聞くと、私は「ああ、景気が悪くなってきたんだな」と思ってしまう。景気循環での下降局面になると、ITベンダーは中堅・中小企業向け市場の開拓に力を入れる。言ってみれば、これはもう季節の風物詩である。

 「これからは中堅・中小企業開拓だ!」。これまで何度聞いただろうか。もちろん、主に大手ユーザー企業を相手に商売をするITベンダーの口から出る言葉である。もう、極めて分かりやすい。景気が悪くなると、ユーザー企業は当然IT投資を絞り始める。で、ITベンダーとしてはマズイ事態なので、対象ユーザーを広げるために中堅・中小企業開拓に乗り出すというわけである。

 まあ、これは各ITベンダーの企業戦略だし、マーケットを広げようというのは企業の当然の行動様式だから、それ自体にイチャモンをつけようとは思わない。ただ、この行動パターンが循環するのはいかがなものか。

 歴史的に見て、大手ユーザー企業中心のITベンダーが中堅・中小企業開拓に成功した例は極めて稀だ。うまくいかないから、景気が回復してきて大手ユーザー企業のIT投資が戻ってくると、こうした大手ITベンダーは次々と反省の弁を述べる。「やはり中堅・中小企業開拓は難しい。認識が甘かった」。そして事実上の撤退。だけど再び景気が悪化し始めると、また・・・。

 まあ、懲りないというか、学習効果がないと言うか。分かりきっているはずなのだが、SI中心の大手企業向けのビジネスと、パッケージ販売など営業中心の中堅・中小企業向けビジネスでは、事業モデルが全く異なる。顧客1社を深く耕す商売と、多数の企業に“確率論的な”マーケティングを行う商売では、天と地ほどの差がある。

 それなのに、である。さすがに今はいないと思うが、「中堅・中小企業にも大手顧客並みの手厚いサービスを提供せよ」といった訳の分からぬ“ご神託”を真に受けて、ビジネスならぬ奉仕活動にいそしんだITベンダーもあった。中堅・中小企業開拓では、効率よく顧客を見つけて、手離れ良く売る、そしてサポートも効率的に、が基本。それなのに、大手顧客向けソリューション営業の流儀で中堅・中小企業市場に挑めば、また失敗するだけだ。

 それに中堅・中小企業にとって「御社向けに作り込んだソリューション」など、はっきり言って迷惑だ。できるだけ標準のものが欲しい。従業員がすぐに使えるシステム、募集すれば使える人をすぐに雇えるシステムが欲しい。うっかりすると操作の習得に1カ月もかかる、そんなシステムは真っ平なのだ。これも当たり前のことだと思うが、大手ITベンダーにはそのことをよく理解していない“ソリューション原理主義”の人が結構いる。

 さて、そうしたことを踏まえたうえで、また中堅・中小企業開拓にチャレンジするのかと聞いたら、「もちろん!」と元気よく答える人も大勢いるかと思う。皆さん、SaaSビジネスに期待をかけている。ただSaaSは、SIやパッケージなど従来のビジネスと異なるだけでなく、やはりSaaSを売るにも大手企業と中堅・中小企業では全く違うはずだ。その辺りのことは分かっているのだろうか・・・。