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 前回までは,専ら,ベンダーがユーザーから責任を追求されるという状況を前提に,システム開発にまつわる紛争を検討してきました。今回は逆に,ベンダーがユーザーに対して報酬の支払いを請求する場面での問題を検討してみようと思います。

 ベンダーのユーザーに対する報酬請求は通常,報酬額または報酬額の決定方法を契約で合意し,その契約に基づいて請求することになります。それでは,当初予定していた仕様を変更したために工数が大幅に増加した場合,どのように処理されるのでしょうか。

見積り対象の仕様が明確なら追加分の報酬は認められる傾向

 ベンダーの追加報酬請求が認められた裁判例を検討してみましょう。まず,契約書等による明示的な合意がないにもかかわらず,追加報酬請求権が発生する根拠について検討してみます。この点について言及した裁判例としては,大阪地裁平成14年8月29日判決や東京地裁平成17年4月22日判決があります。

大阪地裁平成14年8月29日
仕様変更の申出は,法的には,委託者による当初の契約に基づく業務範囲を超える新たな業務委託契約の申込みと解され,これに対して受託者が追加工事代金額を提示せず,追加代金額の合意がないまま追加委託に係る業務を完了した場合には,委託者と受託者の間で代金額の定めのない新たな請負契約が成立したものとして,相当の追加開発費支払義務が生じると解するのが相当である。したがって,委託者であるA社又は原告(ユーザー)の委託の趣旨が,当初仕様である基本機能設計書に示された処理機能(中略)に変更を加えるものである場合には,原則として仕様変更に該当し,原告(ユーザー)及び同被告(ベンダー)はいずれも会社であるから,原告(ユーザー)には,当該仕様変更部分について相当額の追加開発費支払義務(商法512条)が生じるものと解するのが相当である。
東京地裁平成17年4月22日
原告(ベンダー)は,甲4の見積書に「作業着手後の機能追加,変更等により工数に大幅な変動が生じた場合は別途相談させていただきます」との記載があることを根拠に,増大したプログラムについて当事者間の報酬金の協議が整わなければ,原告(ベンダー)が被告(ユーザー)に対して相当額の報酬請求をすることができると主張する。上記見積書は当事者間の契約文書ではないから,契約書の約定と同一の効力を有するものと評価するには問題がある。しかし,そもそも見積書に上記の文言がないとしても,追加注文と評価される業務については,当事者間に相当の報酬を支払う旨の合意があるものと見るべきであるから,上記文言の有無にかかわらず,原告(ベンダー)は被告(ユーザー)に対して,追加注文部分について相当額の報酬請求権を取得するものというべきである。

 平成14年8月29日判決が追加報酬請求権の発生根拠とした商法512条は以下のように規定されています。

商法512条
商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは,相当な報酬を請求することができる。

 この条文は,商人間において報酬額を定めなかった場合における,報酬の定め方についての規定であると理解されています。

 平成14年8月29日判決の事案は,ベンダーとユーザーとの契約において,当初予定していた仕様を実現する開発費用についての合意は存在したが,追加作業部分に該当する費用の合意が存在していないという事案です。そこで,この判決では追加部分について商法512条を適用して報酬を定めたのでしょう。ただし,請負契約において商法512条を適用することについては,これを明確に否定した裁判例もあります(東京地裁平成16年3月10日判決)。この法律構成については,もう少し裁判例の蓄積が必要といえるでしょう。

 一方,平成17年4月22日判決は,条文等の根拠は明らかにしませんでしたが,「追加注文と評価される業務については,当事者間に相当の報酬を支払う旨の合意があるものと見るべき」として,契約書等に規定がなくても追加報酬請求が認められると判断しています。

 これらの判決はいずれも,見積りの対象としたシステムの仕様が明確になっていたようです。このため,見積りの対象としたシステムの仕様と,完成したシステムの仕様の差分を確認することが容易であり,この差分については追加報酬を認めた方が公平であるという判断をしたのだと思います。

 では,どのような場合に仕様変更であると認定され,差分についての追加報酬請求が認められることになるのでしょうか。この点に関して,平成14年8月29日判決は以下のように判断しています。

大阪地裁平成14年8月29日
ソフトウエア開発においては,その性質上,外部設計の段階で画面に文字を表示する書体やボタンの配置などの詳細までが決定されるものではなく,詳細については,仕様確定後でも,当事者間の打合せによりある程度修正が加えられるのが通常であることに鑑みると,このような仕様の詳細化の要求までも仕様変更とすることは相当でないというべきである。

 この判決では,「ベンダーとユーザーが締結した当初の契約でも,詳細部分の仕様変更が発生することは,あらかじめ考慮済みである」ことを前提に,当初存在しなかった機能の追加や画面上の入力項目の追加等の修正のみを仕様変更ととらえ,追加報酬請求権が発生するものとしています。