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 最近ITベンダーの経営者で、日本のIT教育の無策、あるいはITを学ぶことを敬遠する若者の風潮を嘆く人が多い。そして、必ず引き合いに出されるのがインドや中国。あちらの国では国策で優秀なIT技術者が大量に生み出されている。それに比べて我が国では・・・。まあ、そんなところだが、私はこの手の話にすごく違和感がある。本当にそうか。

 特にインドの場合がそうだが、IT人材の話とセットで語られるのがソフトウエア開発の“工業化”の話だ。CMMIレベル5を取得したITサービス会社が続々登場。そんなわけで、このままでは日本のITベンダーは国際競争に勝てない。うーん、国際競争に勝てないというのは、たぶん正しい。問題はどの分野での競争かである。

 インドや中国が国策として推し進めているのは“ソフトウエア工業”の拡大である。CMMIなんていうのは、“手工業”としてのソフトウエア開発の否定であり、きちんとしたソフトウエアの“工場”を作りましょうということだ。工場だったら製造業と同じく、少数のエンジニアと多数のワーカーが必要になる。そして今、インドや中国で大量に育成されているIT技術者とは、こうしたワーカーも含めてのことである。

 一方、日本のITベンダーの場合、ソフトウエアにおける“産業革命”に完全に乗り遅れた。随分変わってきたとはいえ、日本のソフトウエア開発は手工業の尾っぽを引きずっている。そして、ITベンダーの経営者やベテラン技術者が「仕事のやりがい」として若者に語って聞かせるのは、手工業の栄光の時代の話ばかりだ。「作り上げたシステムが業務の劇的な効率化を実現し、お客様からは涙を流さんばかりに感謝され・・・」

 ところが今は、全くそんな時代じゃない。作ったソフトウエアは動いて当たり前、システムトラブルでも発生しようものなら、ボコボコに叩かれる。しかも、いち早く“近代工場”を作り上げたインドなど海外からの低価格化の荒波にさらされ続ける。手工業なら当然持てた“職人”としての誇りも持てず、開発の現場は「3Kだ」「5Kだ」「いや7Kだ」と自嘲する。もはや手工業としてのソフトウエア開発業は完全に瓦解しつつある。

 じゃ、日本のITベンダーはどうすればよいのかと言うと、ソフトウエア開発主体のSIerとして生き残っていきたいのなら、手工業から脱皮して近代工場を作っていくしかない。そして論理的必然だが、工場はオーガニックに作るか、買収するかは別にして海外に置くしかない。この前「インド企業が“黒船”にならない理由」でも書いたが、インド企業や中国企業は当面脅威にはならない。ただ、ソフトウエアは労務費のかたまりだ。これから先、ソフトウエアの主力工場を日本に置く理由は全く見当たらない。

 もちろん、ITベンダーはソリューションを提供していくわけだから、顧客のシステム化計画策定を支援するシステムコンサルタントや、要件定義を手伝い“図面”を引く上級SEらは不可欠だ。そして、顧客に向き合う彼らにこそ、日本のITベンダーの競争力の源泉がある。だから彼らを育成するために、ソフトウエア開発の基本を徹底的に叩き込むマザー工場(製造業のそれとは意味が違うが)がいる。

 ただ、私が日本のIT教育の無策を嘆くITベンダーの経営者の話に違和感を覚えるのは、自分たちの産業の未来図を見せずして、優秀な技術者のタマゴを今まで通り大量に育成してほしいと言うのは無責任な気がするからだ。はっきり言って、この業界の国内での雇用力は中長期的には減少する。まずは、ITサービス業が近代化した時、どんな技術者が必要になるのか、その職場がどれほど魅力的なものにできるのかを示すことのほうが先だろう。