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 前回は,ESが経営にとって極めて重要であるにもかかわらず,トップや経営陣がどこまで本気でESを考えているかはなはだ疑問であることを,調査結果や実例から指摘した。

 さて,ES向上にどう取り組むべきか。参考になる調査や意見が,いくつかある。

 まず,ESというと従業員の「待遇」や「福利厚生」の充実だという主張がある。もちろんそれは必要だが,必ずしもそれだけではないという傾聴すべき調査がある。

 企業業績を左右するキーパーソンを対象とする調査結果を見ると,「現在の勤務先の選択理由」の上位3位は,以下のとおりである。

  • 自分のもっている知識や経験を生かせるから         38.7%
  • 自分が能力を身に付けて成長でき,キャリアを積めるから  36.0%
  • 仕事にやりがいがあるから                    30.4%

 一方,勤務先選択理由で「福利厚生」に関するものは,

  • 給与や手当てなど,待遇が良いから(第4位)        24.3%
  • 労働時間が短いなど,労働環境が良いから(第7位)    13.4%
  • 福利厚生が良いから(第8位)                 8.8%

となっている(「中小企業白書2007」)。

 勤務先選択の理由として,必ずしも「待遇」「労働環境」「福利厚生」がほかの項目よりも優先されていない。

 次に,米国の心理学者フレデリック・ハーズバーグが分析する「ESを左右する2要因」も興味深い。

  • 苦痛につながる「不満足要因(衛生要因)」:給与・地位・人間関係・職場環境など(不満解消は必要だが,解消しても充分満足しない)
  • 満足につながる「満足要因(動機付け要因)」:達成度・責任・仕事の質・昇進など(満足させるとやる気が出る)

 「不満足要因」も重要だが,「満足要因」を満たさないと眼に見えてモラールは上がらない。さらに,ES向上に必要な3ポイントの指摘がある(「小企業におけるESの現状 ― 『従業員満足に対する調査』結果より - 」国民生活金融公庫)。これは小企業に限らず,大企業・中企業にも共通しているだろう。

  • 従業員のニーズをきちんと把握すること
  • ESに取り組む背景や目的を明確にし,従業員によく理解させること(従業員10人以下の小企業を対象とする調査だが,ESの現状に「満足」している割合は,社内の経営理念が共有されていると「思う」と回答した従業員に限ると30.0%,同じく「やや思う」では2.5%,「思わない」では2.6%と,ESと経営理念の共有とは相関関係がある)
  • あせらず,じっくり取り組むこと。ES効果は一朝一夕には生まれない

 これらを参考にして,ES向上策をトップ方針として取り組むことが急務である。そのためには,いくつかのポイントがある。

 まず,従業員に不満は必ずあるもの,ESを100%満たすことなどあり得ないことを前提に,少なくとも「決定的不満」と「根雪のように積もった不満」を駆除しなければならない。そこに焦点を当てるのが,ES対策のポイントの1つである。

 「決定的不満」の例として,社内が守旧的で新しいことをことごとく受け入れない風土,従業員の意見が取り上げられず意見を言うとすぐたたかれる風潮,企業グループの子会社への親会社からの天下りなどがある。これらは,いきなり従業員にダメージを与えるような不満である。

 一方,「根雪のような不満」とは,総務部門をはじめ全社的に人を大切に扱わない雰囲気(前回に例として挙げた,某中堅企業の情報システム部門での新入社員の取り扱いや定年退職者への対応),不透明な人事評価,役員や管理者による派閥の形成など,長年にわたってじわじわと従業員の間に蓄積した不満である。

不満解消の行動を直ちに起こせ

 ESを向上させるには,「決定的不満」と「根雪のような不満」についてそれぞれ2つ,3つ取り上げて,その解消に焦点を当てるべきだ。その他の不満は二の次でよい。最初から何もかも対象にしていては,散漫になるだけだ。

 ポイントの2つ目は,F・ハーズバーグが指摘する「満足要因(動機付け要因)」に重点を置くことである。「待遇」や「福利厚生」などの「不満足要因(衛星要因)」についての対策ももちろん必要ではあるが,先の調査にも表れているようにESに対する優先度は高くない。資金も時間も掛かる。企業業績との関係でタイミングというものもある。しかし,「満足要因」の対策は,ESに対する優先度が高い上に,資金もタイミングも余り関係ない。制度の構築などで時間が掛かる場合はあろうが,トップの裁量ひとつで進められるものである。

 ポイントの3つ目は,スピードである。日頃表面化している従業員のいくつかの不満を解消するための行動を直ちに起こすべきだ。オーソドックスな対策として,全社の視点で計画をたて,腰を据えて手順どおりに取り組むことが欠かせぬ前提だが,時間がかかってはダメだ。長期的な対策は必要だとしても,一方でスピードが大切だ。例えば,先の某中堅企業の例に見られた新入社員や定年退職者の心ない取り扱い方の改善,不透明で不信感が蔓延している人事評価の透明化など,ちょっとした聞き込み調査で重要なテーマは浮かび上がる。

 従業員は,こうした動きを敏感に感じ取るものである。ESについて全社視点で計画的にじっくり取り組む一方で,喫緊の不満解消に動く姿勢を従業員は必ず評価する。

 いずれにしろ,トップの意向でESへの取り組み姿勢は決まる。そして忘れてならないことは,ES向上にITが重要な役割を担うことができるということである。ES向上の要となる社内の情報共有やコミュニケーションの活性化などに,ITは大いに貢献できる。その前提となるのが,トップ・経営者のITを活用しようとするITに対する高い意識である。

 ES向上は,トップ・経営者の意識でどうにでもなるものである。