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 前回は,ネットオークション事業者が負担する法的な義務等のうち,法律上明記されている義務を中心に概観しました。今回はさらに,具体的な裁判例をもとにネットオークション事業者が負担する法律的な義務について,検討してみようと思います。

 ここでは,Yahoo!オークションに関する集団訴訟事件(名古屋地裁平成20年3月28日判決)を題材に取り上げます。この事件はYahoo!オークションサイトで詐欺被害にあった原告らが,ヤフーに損害賠償金等を請求したというものです。原告の主張する請求の根拠は以下のとおりです(判決文より引用)。

インターネットオークションサイトを利用して,商品を落札し,その代金を支払ったにもかかわらず,商品の提供を受けられないという詐欺被害にあった原告らが被告の提供するシステムには契約及び不法行為上の一般的な義務である詐欺被害の生じないシステム構築に反する瑕疵があり,それによって原告らは,上記詐欺被害にあったとして被告に対し,債務不履行並びに不法行為及び使用者責任に基づき…

 この裁判では,以下のような項目が争点とされ,裁判所において判断が示されています。

名古屋地裁平成20年3月28日判決の主要な争点
  1. ネットオークション事業者は,利用契約に基づいて,請負契約の仕事完成義務,準委任契約の善管注意義務を負担するか否か
  2. ネットオークション事業者は,利用契約に基づいて欠陥のないシステムを構築してサービスを提供すべき義務を負うのか否か
  3. 2の具体的な義務の内容として以下のような義務が認められるか否か
     ・利用者に対し,犯罪の手口を踏まえ,注意を喚起する義務
     ・信頼性評価システムを導入する義務
     ・出品者情報の提供・開示義務
     ・エスクローサービスを利用する義務
     ・補償制度を充実させる義務
  4. 2,3のネットオークション事業者に課される義務に違反した場合,利用規約の免責条項によってネットオークション事業者は免責されるのか否か

ネットオークション事業者と利用者との間で成立する利用契約の性質

 本件おいては,まず,ネットオークション事業者と利用者との間で,どのような契約が成立したのかが争点とされました。以下に示す判決文中の「本件利用契約」とは,ネットオークション事業者が用意した利用規約に利用者が同意することで,ネットオークション事業者と利用者との間に成立する契約のことです。

 利用者側は,この契約について,仲立ちとしての性質を有するものであって,請負契約や,準委任契約と類似の契約であるので,請負契約から導かれる仕事完成義務(民法632条)や,準委任契約から導かれる善管注意義務(民法656条,644条)を負担するものであると主張しましたが,裁判所は以下のように判示してこの主張を排斥しました。

 ネットオークション事業者は,本件サービスの利用に際して,出品者から本件利用料を徴収している。そして,本件利用料のうち,出品システム利用料及び出品取消システム利用料については,出品に伴うデータ領域の確保などが,落札システム利用料については,電子メールによる落札通知自動の送付などが,具体的な対価関係にあるものと捉えることが相当であるから,本件利用料は本件サービスのシステム利用の対価に過ぎないと認められる。自動入札機能も,他の利用者による入札に対抗するにはオークションを常時確認する必要があるところ,それは事実上困難なことであるから,確実に落札したい利用者(入札者)のニーズに応えた機能にとどまる。
 そのほか,ネットオークション事業者が利用者間の取引に積極的に介入してその取引成立に尽力するとまで認めるに足りる証拠はなく,本件利用契約が仲立ちとしての性質を有するとはいえない。また,本件利用契約は,上記認定によっても,事実行為を委任したり,目的物の完成を請け負わせたりするものとか,あるいはこれに類似するものともいえない。
※原文の被告をネットオークション事業者と表記。また,太字表記は筆者が指定したもの

 裁判所は,この事案においては,太字で表記された料金設定や,実際にネットオークション事業者がどの程度,利用者間の取引に介入していたのかという点を考慮した上で,本件利用契約が仲立ちとしての性質を有するとは言えないとしています。逆にいえば,料金の設定方法や,利用者間の取引に介入した程度によっては,準委任契約等から導かれる善管注意義務等を負担するということもあり得ます。そうなると,この義務に違反したという形で,責任を追求される可能性もあるということになります。

 この点について,平成18年2月1日に経済産業省が発表した,「電子商取引等に関する準則」では,ネットオークション事業者に責任が発生する典型的なケースとして,以下の3つを挙げています。ネットオークション事業者には注意が必要です。

  1. オークション事業者が利用者の出品行為を積極的に手伝い,これに伴う出品手数料又は,落札報酬を出品者から受領する場合
  2. 特定の売主を何らかの形で推奨する場合
  3. オークション事業者自体が売主となる場合

事業者は欠陥のないシステムを構築してサービスを提供する義務を負う

 それでは,利用契約によっては,事業者には何ら法的な義務が発生しないことになるのでしょうか。この点について,裁判所は平成20年3月28日判決で以下のように判示しています。

本件利用契約は本件サービスのシステム利用を当然の前提としていることから,本件利用契約における信義則上,ネットオークション事業者は原告らを含む利用者に対して,欠陥のないシステムを構築して本件サービスを提供すべき義務を負っているというべきである。
※原文の被告をネットオークション事業者と表記

 同裁判において,原告(利用者)らは,事業者に課せられる具体的な義務の内容として,以下の5点を主張しています。

  • 利用者に対し,犯罪の手口を踏まえ,注意を喚起する義務
  • 信頼性評価システムを導入する義務
  • 出品者情報の提供・開示義務
  • エスクローサービスを利用する義務
  • 補償制度を充実させる義務

 これらの義務をネットオークション事業者に対して課すべきか否かの指針について,裁判所は以下のように判示しています。

ネットオークション事業者が負う欠陥のないシステムを構築して本件サービスを提供すべき義務の具体的内容は,そのサービス提供当時におけるインターネットオークションを巡る社会情勢,関連法規,システムの技術水準,システムの構築及び維持管理に要する費用,システム導入による効果,システム利用者の利便性等を総合考慮して判断されるべきである。
※原文の被告をネットオークション事業者と表記

 つまり,裁判所は「サービス提供当時におけるインターネットオークションを巡る社会情勢,関連法規,システムの技術水準,システムの構築及び維持管理に要する費用,システム導入による効果,システム利用者の利便性等を総合考慮」して,具体的な義務違反の有無を判断するとしています。

 裁判所としては,ネットオークション事業者が利用契約に基づいてサービスを提供している以上,利用契約に付随して当然に発生する義務が存在すると考える一方で,あまり過度な義務をネットオークション事業者に負担させると,事業者自らが負担する義務を予見できなくなる。その結果,事業者にとって酷な結果になると考えたのではないかと思います。

 本件では,原告(利用者)が主張する上記5つの義務が争点となりました。次回は,これら5つの義務の具体的な内容について検討してみます。