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 グーグルのGmail有償版をJTBが全面導入するそうだ。このニュースは、日本郵政グループがSalesforceを導入したのと同じ意味を持つだろう。つまり日本のユーザー企業の心理的バリアが外れ、多くの企業が導入の検討を始めるってこと。実際、私の知る限りでも導入に動く大手企業はいくつかある。クラウド・コンピューティングへ向けて歯車がまた一つ回り始めた。

 言うまでもないことだが、Gmail有償版というのは電子メールだけの話ではない。メールに加えて、スケジュール管理や文書作成・共有ツール、IP電話、企業内ポータルなどを提供する。無償のGmailを使っている人なら、その一端に触れているので分かると思うが、これはメッセージング・システムであり、コラボレーション・システム、もっとベタに言えばグループウエアである。

 ただ白状すれば、グーグルが今春、日本で富士ソフトと組んで販売を始めた時には、私は「はたして日本でうまくいくのか」と懐疑的だった。さすがに時期尚早と思ったからだ。ところが、最近の景気後退で状況が激変した。ITコスト削減に迫られた大手ユーザー企業が、このGmail有償版に着目したのだ。大企業なら自社によるメール運用を止めて乗り換えるだけで、確実にコスト削減につながるからだ。

 それに無償のGmailを使っている人は数多いから、移行にあたって利用部門の抵抗は少ないだろうし、教育コストも安くて済む。しかもコラボレーションや文書共有的な機能は漏れなく付いてくる。あとは「他社の導入事例さえあれば」というのが日本のユーザー企業の本音だったが、JTBが採用することで、それもクリアだ。最近会った大手製造業のCIOも、「あれは使えるよ」と興奮気味に話していた。

 グーグルのクラウド・コンピューティング戦略では、企業向けは当面この分野に特化するようだ。テレビ会議の機能を追加したり、APIを公開してサードパーティに関連アプリケーションの開発を促したりして、Gmailを核に企業向けの新しい市場を創造していくという。大手ユーザー企業が雪崩をうって採用するようになれば、企業情報システムの分野でもグーグルの存在感は大きなものになる。

 だから、マイクロソフトも早めに手を打った。この前Windows Azure構想を発表したが、この仮想環境によるアプリケーション・ホスティング・サービスをいつ始めるのかは、「もごもご」と口をつぐむ。一方、グーグルが狙う市場については、SaaS版のExchangeとSharePointをいち早くぶつけた。11月17日に米国企業向けに正式サービスをスタート、米国外でも2009年に提供を開始するそうだ。

 ところで、この話、どこかで聞いたような気が・・・。そうNTTが社運をかけて取り組むNGN構想だ。もちろん通信インフラの話ではなく、NGNアプリケーションのほうだが。ITベンダーではNECが、ITと通信が融合したアプリケーション領域としてNGNを語り、その分野を開拓することを今後の事業戦略にしている。

 そうするとNTTやNECはグーグルの動きにもっと危機感を持ったほうがよい。グーグル、そしてマイクロソフトにこの分野の市場を持っていかれたら、大変なことになるだろう。もはや「クラウド・コンピューティングとは」といった神学論争の段階ではなく、大手ユーザー企業を中心とした実需の段階にある。そのことを悟り、手を打たなければ、NGNはいつか来た道で、通信という土管の話で終わってしまうだろう。

 では、他のITベンダーは安心していてよいのか・・・少しは安心していてよいだろう。グーグル以外でクラウドの旗手と言えばセールスフォースとアマゾンだが、セールスフォースが狙う基幹系システムのクラウド化や、アマゾンの仮想環境によるアプリケーション・ホスティングはそんなに急には普及しないだろうし、両社による総取りも考えにくい。

 ただし、新しい時代への準備は急ぐに越したことはない。これからIT分野で起こることは、クラウド・コンピューティングというパラダイムシフトと、「100年に一度」という全世界同時不況との“掛け算の産物”だ。所有から利用へという方向性は明確だが、実際にどのタイミングで何が起こるか、正確な予測は誰にも不可能である。